第4章で、みずほ食品は大垣屋商店に麺を掛けで売った。売った瞬間に売上を立て、代金は後で受け取る。 掛け売りは商売を大きくする道具だが、代わりに1つだけ危ない性質を持ち込む。 「後で」が来ないことがある。相手が潰れる。
この章が扱うのはその一点だけだ。ただし3級の中では引っかかる人がいちばん多い章でもある。 理由ははっきりしていて、まだ起きていない損を、起きる前に帳面へ書けと言われるからだ。 起きていないものを書くのは、簿記が積み上げてきた「事実を書く」という建前と正面からぶつかって見える。 そのぶつかりをどう決着させたのか、というのがこの章の中身になる。
引当金の「引当」は、もともと「あるものを、ある用途にあらかじめ充てておく」という意味の言葉だ。 米を年貢に引き当てる、田畑を借金の担保に引き当てる、といった使い方が古い文書に出てくる。 共通しているのは、まだ使っていないが、使い道は決めてあるという状態を指している点だ。
貸倒引当金もこの意味で読むと素直になる。当期の利益のうち 18,000円を、 将来の焦げ付きという用途に先に充てておく。金庫から現金を分けて置くわけではないので、 実際に何かを取り分けているわけではないが、 利益として社外に出してしまう前に、帳簿の上で使い道を予約するという発想は同じだ。
英語では allowance for doubtful accounts と言う。allowance は「差し引いて認める額」で、
売掛金の額面から差し引く側から名前を付けている。日本語は「充てる」側から、英語は「引く」側から
同じ操作を呼んでいて、貸借対照表の表示(売掛金 900,000 の下に △18,000)を見ると、
両方の言い分が同時に成り立っているのが分かる。
だから貸倒引当金は「損をした記録」ではなく「利益の使い道を先に決めた記録」だと読むと、 まだ起きていない損を書くことへの引っかかりが小さくなる。
バブル崩壊後の1990年代、日本の金融機関は大量の回収不能債権を抱えた。 問題は焦げ付きそのものより、どの金融機関がいくら抱えているのか外から分からなかったことだった。 引当金をいくら積むかは各行の判断で、危ないと分かっている先でも積まずにいれば、 決算書の上では健全なまま並ぶ。
そこで1999年、金融検査マニュアルが策定され、取引先を「正常先・要注意先・破綻懸念先・ 実質破綻先・破綻先」に区分し、区分ごとに引当金を積む自己査定の枠組みが全国で共通化された。 見積りという各社の裁量だった領域を、制度が形式に落とし込んだことになる。 このマニュアルは役割を終えたとして2019年12月に廃止されたが、 債務者区分に沿って引き当てるという考え方自体は、いまも実務の骨格として残っている。
3級で出てくるのは「売掛金 × 2%」という1行の計算だが、その裏にはこういう経緯がある。 見積率が問題文で与えられるのは、根拠のある率を使うという前提が省略されているからで、 引当金の本質は率の計算ではなく、相手をどう見たかにある。
2027年2月、決算を1か月後に控えた事務所で、七海が売掛金の一覧を眺めたまま手を止めた。 大垣屋商店からの入金が、11月ぶんから3か月続けて遅れている。社長に聞くと 「あそこは去年、店を1つ閉めとる」と言う。売掛金 900,000円のうち、いくらかは戻ってこないかもしれない。
七海が最初に考えたのは「まだ焦げ付いていないのだから、書くことは無い」だった。 実際この時点では誰も倒産していないし、法律上は 900,000円を請求できる。 それでも簿記は、この期のうちに焦げ付きそうな分を費用として書け、と言う。
【要請】 なぜか。売上を立てた期と、貸し倒れる期がずれるからだ。
大垣屋商店への売上は第1期に計上した。回収できないと分かるのは、たぶん第2期。
何もしなければ、第1期は売上だけが乗った良い年、第2期は損だけが乗った悪い年になる。
麺を売るという1つの商売から生まれた成果(売上)と犠牲(焦げ付き)が、2つの期に泣き別れる。
これでは前期と当期を並べても、業績が良くなったのか悪くなったのかを読めない。
だから成果とそれに伴う犠牲は同じ期に載せる。これが費用収益対応で、
300万円の機械を買った年だけ赤字にしない減価償却とまったく同じ発想から来ている。
覚え方の取っ掛かりは「売った年の売上には、売った年ぶんの焦げ付きを付ける」。
もう1つ理由がある。決算日の貸借対照表に売掛金 900,000円とだけ書けば、読む人は 「900,000円は入ってくる」と読む。3か月遅れている相手が混じっているのに額面のまま並べるのは、 財産を実際より大きく見せることになる。そこで貸借対照表では、売掛金 900,000 の下に 貸倒引当金 △18,000 と並べ、差し引き 882,000円が回収を見込める額だと示す。 資産の下にマイナスで置かれるこの種の科目を評価勘定という。
見積りである以上、当たらない。だから毎期末に見積り直し、すでに積んである分との差だけを足す。 足りていれば足さない。この積み方を差額補充法という。
金融機関やリース会社は、貸倒引当金を勘で積んでいるわけではない。取引先を 「正常先/要注意先/破綻懸念先/実質破綻先/破綻先」といった区分に分け、区分ごとに定めた率で引き当てる。 正常先は1%未満、要注意先はその数倍、破綻懸念先になると担保でカバーできない部分の 何割かをまとめて引き当てる、という具合に、区分が1段下がるだけで積む金額が跳ね上がる。
営業の側から見ると、この構造が効いてくる場面は決算書を受け取る前にある。 支払期日の3日遅れが1回なら事務ミスかもしれないが、3か月続けば資金繰りの話だ。 区分を動かすのは事故が起きた後ではなく、遅延・条件変更の申し出・支払方法の変更依頼といった 「相手が先に出してくるサイン」の段階で、担当者が見ているものと同じものを、 決算では引当率という数字に翻訳している。
で、幹の話に戻ると、貸倒引当金は将来を当てにいく占いではなく、 手元にある事実(遅延・区分・過去の実績率)から機械的に置く見積りだと押さえておけばいい。
貸倒引当金は、資産の横にマイナスで置かれる。同じ形の科目を1つ前の章で見ている。 減価償却累計額だ。備品 1,200,000 の下に △150,000 と並べ、 差し引き 1,050,000 が帳簿価額になる。どちらも、もとの資産の金額を直接削らず、 別の科目で横に引き算を置くという同じ作りをしている。
なぜ直接削らないのか。売掛金を 882,000 に書き換えてしまうと、 「もともといくら請求していて、そのうちいくらを危ないと見たか」が消えるからだ。 額面と見積りを分けて残しておけば、翌期に見積りが外れたとき、どちらが動いたのかを追える。 この「本体は動かさず、評価を別に置く」という作りは2級の貸倒引当金や有価証券でも繰り返し出てくる。
で、幹の話に戻ると、貸倒引当金の欄が売掛金のすぐ下にマイナスで並ぶのは表の飾りではなく、 額面と見積りを分けて残すための仕掛けだと見ておけばいい。
みずほ食品は、同業の実績と大垣屋商店の遅延を踏まえ、 期末の売掛金の**2%**が焦げ付くと見積もることにした。
| 第1期末(2027/3/31) | 第2期末(2028/3/31) | |
|---|---|---|
| 期末の売掛金 | 900,000 | 1,200,000 |
| 見積率 | 2% | 2% |
| あるべき引当金残高 | 18,000 | 24,000 |
| すでにある残高 | 0(初年度) | 6,000 |
| 今期の繰入額 | 18,000 | 18,000 |
第2期の「すでにある残高 6,000」は、第1期末に積んだ 18,000 から、 第2期中に実際に焦げ付いた 12,000 を取り崩した残りだ(取り崩しの処理は次の節)。
ここで見てほしいのは、第2期の繰入額 18,000 が 「24,000 を丸ごと積んだ数字」ではないこと。あるべき残高 24,000 に対して 6,000 が残っているので、 足りない 18,000 だけを足す。偶然どちらの期も 18,000 になったが、 もし第2期末の売掛金が 300,000 まで減っていれば、あるべき残高は 6,000。 すでに 6,000 あるので繰入額はゼロになる。
allowance for doubtful accounts(疑わしい債権のための控除枠)で、
日本語が「充てる」側から、英語が「差し引く」側から同じものを呼んでいる。まず第2期末(2028/3/31)で1回通す。
一般化すると、差額補充法の繰入額は (期末債権残高 × 見積率)−(決算整理前の貸倒引当金残高)。 この差がマイナスになったとき、つまり積みすぎていたときは、 その分を戻す処理(貸倒引当金戻入という収益)になる。3級ではプラスの側だけ押さえておけば足りる。
先に公式を覚えるとほぼ確実に事故るのは、3の「元帳の残高」を見ずに 2の 24,000 をそのまま書いてしまう形。差額補充法という名前は、 3と4の作業をそのまま言葉にしたものだと思っておくといい。
2027/3/31 決算。売掛金 900,000 に 2% を見積る(引当金残高 0)
(借) 貸倒引当金繰入 18,000 (貸) 貸倒引当金 18,000
2028/3/31 決算。売掛金 1,200,000 に 2% を見積る(引当金残高 6,000)
(借) 貸倒引当金繰入 18,000 (貸) 貸倒引当金 18,000
対抗案1:引当金を積まず、実際に貸し倒れた期に貸倒損失として費用にする
いちばん素直な案で、事実だけを書くという点では簿記の建前にも合っている。 みずほ食品の2期分を並べてみる(第2期に第1期発生分の売掛金 12,000 が焦げ付いた場合)。
| 第1期 | 第2期 | |
|---|---|---|
| 引当てる場合:貸倒引当金繰入 | 18,000 | 18,000 |
| 引当てる場合:貸倒れ時の費用 | — | 0(引当金で吸収) |
| 引当てない場合:貸倒損失 | 0 | 12,000 |
金額だけ見ると差は小さい。壊れるのは規模が大きくなったときだ。 みずほ食品が掛け売りを伸ばし、第3期に前期発生分の売掛金 600,000 が焦げ付いたとする。 引当てない方式では、売上を立てた第2期は満額の利益、焦げ付きが判明した第3期に 600,000 が丸ごと乗る。 第2期の利益 900,000・第3期の利益 300,000 という数字が並び、 銀行は「今期は業績が落ちた」と読む。実際には第2期の売上の中に回収できないものが混ざっていただけで、 第2期の利益が最初から過大だったというのが本当のところだ。 1つの商売の成果と犠牲を別の期に置くと、どちらの期の数字も正しくなくなる。
対抗案2:毎期末、見積額の全額を繰り入れる(差額を取らない)
第2期末に、あるべき残高 24,000 を丸ごと繰り入れたとする。 すでに 6,000 残っているので、引当金の残高は 30,000 になる。 売掛金 1,200,000 に対して 2.5%。3期、4期と続ければ引当金は積み上がり続け、 売掛金の額面より引当金のほうが大きい、という状態すら起こりうる。 費用の側も同じだけ過大になり、利益が実態より小さく出る。 引当金は積めば積むほど堅実、ではない。あるべき残高という目標があって、 そこに合わせるための差額だけを動かす。だから差額補充法という名前になっている。
Q. まだ倒産していないのに費用を計上するのは、事実に反していないか。 A. 事実に反しない書き方をしているから、貸倒引当金という別の科目を使う。 売掛金 900,000 という額面はそのまま残っていて、その横に「うち 18,000 は回収を見込んでいない」 という評価を並べているだけだ。売掛金を 882,000 に書き換えれば事実の改変になるが、 額面と評価を分けて置く限り、どちらの情報も失われない。
Q. 2%という見積率はどこから出てくるのか。適当に決めていいのか。 A. 過去の実績(過去数年の債権残高に対する貸倒れの割合)が基本で、 これを貸倒実績率という。加えて、遅延している相手や倒産の恐れがある相手は個別に見積もる。 試験では率が問題文で与えられるので計算に迷うことはないが、 根拠のある数字を使うという前提があることは押さえておくと、 なぜ「毎期見積り直す」のかが腑に落ちる。
Q. 差額補充法のほかにも方法があるのか。 A. ある。期首の残高をいったん全部戻して(収益にして)、あらためて見積額の全額を積む洗替法という方法で、 最終的な引当金残高は差額補充法と一致する。3級で問われるのは差額補充法なので、 **「残高を見てから差を足す」**という手順を体に入れておけばいい。
flowchart LR
A[掛けで売る<br/>boki3-ch04-s02] --> B[期末に債権が残る]
B --> C{回収できるか}
C -- 見積り --> D[貸倒引当金繰入<br/>boki3-ch08-s01]
D --> E[貸倒引当金<br/>B/Sに△で表示]
C -- 実際に焦げ付く --> F[取り崩し / 貸倒損失<br/>boki3-ch08-s02]
E --> F
D --> G[決算整理<br/>boki3-ch12-s01]
G --> H[精算表<br/>boki3-ch12-s03]
2027年7月10日、揖斐川フーズから郵便が届いた。事業を縮小するので、 残っている買掛金 12,000円を支払えないという内容だった。みずほ食品の側から見れば、 第1期に売った麺の代金 12,000円が戻ってこないと確定したことになる。
【必然】 前の期末に、七海はこの日のために 18,000円を積んでいる。
だから今回の焦げ付きは、新しい費用ではない。去年すでに費用として計上した分が、
実際に使われただけだ。もう一度費用にすれば、同じ焦げ付きを2回数えることになる。
だから仕訳は、費用を計上せずに引当金を減らす形になる。
覚え方の取っ掛かりは「引当金は、焦げ付きが来たときに切り崩す貯金」。
問題は、いつでも引当金を使えるわけではないところだ。分岐は2つある。
1つ目は金額。引当金の残高より大きな焦げ付きが来ることがある。見積りは見積りなので当然起きる。 足りない分は去年費用にしていないので、その差額は当期の費用(貸倒損失)になる。
2つ目はいつ発生した債権か。前期末の見積り 18,000 は、 その時点の売掛金 900,000 に対して置いたものだ。当期に入ってから売り上げた分は、 その 900,000 の中に入っていない。当期発生の売掛金が当期に焦げ付いたときに引当金を取り崩すと、 含まれていないものを取り崩すことになり、引当金が二重に使われる。 だから当期発生分は、金額にかかわらず全額を貸倒損失にする。
さらに、いったん焦げ付いたと判断した債権が、後から一部だけ回収できることがある。 このとき前期の帳簿を直したくなるが、直さない。当期の収益(償却債権取立益)として受ける。
前期に貸倒処理した債権が回収できたなら、前期の貸倒損失が多すぎたということだ。 それなら前期の帳簿を直すのが筋に見える。実際にはそうしない。理由は帳簿の外にある。
前期の決算は、株主総会で承認され、税務署に申告書として提出され、 銀行にも決算書として渡っている。これを後から書き換えると、確定していたはずの前期の利益が動き、 すでに納めた法人税の額と食い違い、外に出した決算書とも合わなくなる。 5,000円のために、いったん閉じた1年をもう一度開けることになる。
だから会計は「過去は閉じる、判明したことは判明した期に書く」という扱いを取る。 償却債権取立益という科目名の「取立」は、取り立てられたという事実そのものを指していて、 過去の見積り違いの訂正ではなく、当期に起きた出来事として扱う姿勢が名前に出ている。
で、幹の話に戻ると、回収できた 5,000円は前期に返しにいかず、当期の収益として貸方に立てる。
実務では、貸倒れの仕訳を切って終わりにはならない。相手に残っている資産、 保証人、担保、保険や保証会社の求償、他の債権者との順位といった回収の道を追う。 リースや割賦なら物件そのものを引き揚げて再販できる場合もあり、 債権が焦げ付いた後にいくら戻るかは、契約の作り方で決まっている部分が大きい。
営業の側でこれが効いてくるのは、契約の前だ。連帯保証を取るか、頭金をもらうか、 物件に担保価値が残る種類か。取引が順調なうちは面倒な話に見えるが、 焦げ付いた後に取れる手段の幅は、そのときの判断で決まってしまっている。
で、幹の話に戻ると、貸倒れの仕訳は「回収を諦めた」宣言ではなく、 帳簿上の見積りを実際に合わせる作業で、回収活動はその後も続いていると見ておけばいい。
第1期末の貸倒引当金は 18,000円。第2期に起きたことを順に追う。
| 日付 | 出来事 | 債権の発生時期 | 引当金の残高 | 処理 |
|---|---|---|---|---|
| 2027/7/10 | 揖斐川フーズ 12,000 が回収不能 | 前期 | 18,000 → 6,000 | 引当金を 12,000 取り崩す |
| 2027/9/5 | 関ケ原製麺 20,000 が回収不能 | 当期(6月の売上) | 6,000 のまま | 全額を貸倒損失 |
| 2028/3/31 | 決算。売掛金 1,200,000 × 2% | — | 6,000 → 24,000 | 差額 18,000 を繰入 |
| 2028/8/20 | 関ケ原製麺から 5,000 が入金 | 前期に貸倒処理済 | — | 償却債権取立益 5,000 |
もし 7/10 の焦げ付きが 12,000 ではなく 25,000 だったらどうなるか。 引当金は 18,000 しかないので、18,000 を全部取り崩し、超えた 7,000 を貸倒損失にする。 1件の取引が2つの科目に分かれるが、貸方の売掛金 25,000 は1行のままで、借方が2行になる。
bad debt の訳語系統。焦げ付きの連絡が来たら、次の順に聞けば処理は1つに決まる。
一般化すると、貸倒れの借方は min(焦げ付き額, 引当金残高)を貸倒引当金/残りを貸倒損失、ただし当期発生債権は全額が貸倒損失。 そして後日回収したときは、借方 現金、貸方 償却債権取立益。 公式より、1の「いつ発生したか」を最初に聞く癖のほうが効く。
2027/7/10 揖斐川フーズの売掛金 12,000 が貸倒れ(前期発生・引当金残高 18,000)
(借) 貸倒引当金 12,000 (貸) 売 掛 金 12,000
(もし焦げ付きが 25,000 だったら)
(借) 貸倒引当金 18,000 (貸) 売 掛 金 25,000
(借) 貸 倒 損 失 7,000
2027/9/5 関ケ原製麺の売掛金 20,000 が貸倒れ(当期発生)
(借) 貸 倒 損 失 20,000 (貸) 売 掛 金 20,000
2028/8/20 前期に貸倒処理した関ケ原製麺から 5,000 が現金で入金
(借) 現 金 5,000 (貸) 償却債権取立益 5,000
対抗案1:焦げ付いたときは、いつでも貸倒損失にする
引当金の取り崩しを覚えなくて済むので楽に見える。数字で追うと二重計上が起きる。 揖斐川フーズの 12,000 でやってみる。
| 第1期 | 第2期 | 2期合計の費用 | |
|---|---|---|---|
| 正しい処理 | 貸倒引当金繰入 18,000 | 引当金を取り崩す(費用0) | 18,000 |
| 常に貸倒損失 | 貸倒引当金繰入 18,000 | 貸倒損失 12,000 | 30,000 |
同じ 12,000 の焦げ付きに対して、下の行は 30,000 の費用が立っている。 しかも貸倒引当金 18,000 は使われないまま残り続け、貸借対照表の売掛金がいつまでも過小に見える。 去年払った犠牲を、今年もう一度払ったことにしてはいけない。
対抗案2:後から回収できたら、前期の貸倒損失を取り消す
理屈は通っている。前期の見積りが違ったのだから前期を直せばいい、という発想だ。 関ケ原製麺の 5,000 で試すと、第2期の貸倒損失 20,000 が 15,000 になり、 第2期の当期純利益が 5,000 増える。ところが第2期の利益 800,000 を前提に法人税を計算して納付済みで、 株主総会で承認した決算書も 800,000 で出ている。805,000 に変わると、 申告のやり直しと決算書の訂正が要る。5,000円のために1年ぶんの手続きを開け直すことになる。 だから判明した期に当期の収益として書く。会計が 「過去は閉じて、動いたことは動いた期に書く」という形を取っているのはこのためだ。
Q. 引当金が残っているのに、当期発生の売掛金の焦げ付きに使えないのが納得できない。 A. 引当金の 18,000 は、前期末にそこにあった売掛金 900,000 に対して置いた見積りだ。 当期の6月に売り上げた関ケ原製麺への 20,000 は、前期末にはまだ存在していない。 存在していない債権のために積んだ金額ではないので、取り崩す根拠がない。 取り崩してしまうと、前期分の焦げ付きが来たときに使う原資が消える。
Q. 当期発生分にも引当金を積んでおけばいいのでは。 A. 積む。ただし当期の期末に、そのとき残っている売掛金に対して積む。 期の途中で「これから焦げ付きそうだ」と思うたびに積む処理はしない。 見積りは決算日という同じ基準日で、同じ率で、まとめて置く。 そうしないと期ごとの数字が比べられなくなる。
Q. 貸倒引当金を取り崩したとき、費用がまったく計上されないのは損が消えたように見える。 A. 損は消えていない。前期にすでに計上済みというだけだ。 第1期の損益計算書に貸倒引当金繰入 18,000 が載っていて、そこで利益が減っている。 第2期の帳簿には、その前払いした費用を実際に使った記録だけが残る。 2期を通して見れば、焦げ付きは1回だけ費用になっている。
flowchart TD
A[焦げ付きの連絡] --> B{いつ発生した債権か}
B -- 当期発生 --> C[貸倒損失<br/>全額]
B -- 前期以前 --> D{引当金残高と比べる}
D -- 残高で足りる --> E[貸倒引当金を取り崩す]
D -- 足りない --> F[引当金 + 貸倒損失]
C --> G[後日回収]
E --> G
F --> G
G --> H[償却債権取立益<br/>boki3-ch08-s02]
E --> I[期末の差額補充<br/>boki3-ch08-s01]
正解: 2
正解: 3
正解: 1
正解: 4