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第9章 株式会社の資本と税金

boki3-ch09 / 幹 約49分・枝 約22分

ここまでの8章で扱ってきたのは、会社と取引先のあいだで起きることだった。 麺を売る、小麦粉を仕入れる、手形を振り出す、金を貸す、機械を買う、焦げ付きに備える。 相手はいつも、大垣屋商店であり西美濃製粉であり大垣中央銀行だった。

この章の相手は違う。株主と、国と自治体になる。

みずほ食品は株式会社だ。2026年4月1日に水野久司が3,000,000円を出して設立し、 その3,000,000円は第1章以来ずっと「資本金」という名前で貸方に座っている。 1期目に稼いだ800,000円も、貸借対照表の右下に繰越利益剰余金として積まれている。 この2つの数字がこれからどう動くのかを、まだ見ていない。

そしてもう1つ、これまで意図的に伏せてきたものがある。税金だ。 1期目の当期純利益800,000円は、実は税金を払ったあとの数字になっている。 税金を引く前の利益は1,140,000円あり、そこから340,000円が法人税・住民税・事業税として出ていった。 さらに消費税は、法人税とはまったく違う仕組みで帳面に現れる。

株主への分配、法人税等、消費税。この3つは性格がばらばらに見えるが、 共通しているのは会社が稼いだ利益に対して、外から手が伸びてくるという一点だ。 その手をどう帳面に書くか、というのがこの章になる。

小話:利益準備金は、株主から会社を守るために置かれた

株式会社という仕組みの核心は、株主の有限責任にある。 出資した金額を超えて責任を負わない。だからこそ人は見ず知らずの会社に金を出せるし、 鉄道や海運のような大きな事業に資金が集まった。

その代わり、金を貸す側は不利になる。 個人商店なら店主の家財まで当てにできるが、株式会社では会社の財産しか当てにできない。 その会社の財産を、株主が配当という形でいくらでも外へ持ち出せるとしたらどうなるか。 利益が出た年に全部配ってしまえば、会社にはいつまでも財産が積み上がらない。

この問題は、株式会社の制度ができた当初から意識されていた。 日本では1899年(明治32年)の商法に利益準備金の規定が置かれ、 利益の一部を社内に積み立てることが義務づけられた。 現在の会社法にも、剰余金の配当をするときは配当額の10分の1を 資本準備金または利益準備金として積み立てる、という規定が残っている。 資本準備金と利益準備金の合計が資本金の4分の1に達するまで、という上限も同じだ。

だから利益準備金は、会社を大きくするための積立てでも、株主のための貯金でもない。 配当という形で会社が空になっていくのを、少しずつ押しとどめるための制度になっている。 配当を出すたびに1割ずつ社内に残る形は、そのまま歯止めの構造を映している。

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小話:1989年4月1日、レジが混乱した日

日本に消費税が導入されたのは1989年(平成元年)4月1日、税率は3%だった。 それまでの日本の間接税は物品税といって、 宝石・毛皮・自動車・電気製品といった特定の品目にだけかかる仕組みだった。 何が課税対象で何がそうでないかの線引きが古びていて、 「レコードには課税、CDには課税、しかし楽譜は非課税」といった不均衡が指摘されていた。

導入時は大きな混乱があった。1円玉が足りなくなり、価格表示をどうするかで店ごとに対応が割れた。 その後、税率は1997年に5%、2014年に8%、2019年に10%へと上がり、 2019年からは飲食料品などに8%の軽減税率が併存するようになった。 みずほ食品が製造する麺は飲食料品なので、卸売の段階では軽減税率8%の対象になる。 3級の出題では税率10%で統一されるのが通例だが、 実務では取引ごとに税率が分かれるので、帳簿も税率別に集計できる形が求められる。

そして2023年10月、インボイス制度が始まった。 売り手が発行する適格請求書がなければ買い手は仕入税額控除ができない、という仕組みで、 これまで制度の外にいた小規模事業者が、登録するかどうかの判断を迫られることになった。

3級で扱うのは「仮受から仮払を引いて納める」という1本の引き算だけだが、 その引き算が成立するには、取引のたびに正しい税率で消費税額が記録されている必要がある。 仮受消費税と仮払消費税という科目を分けて持つのは、その記録を残すための最小限の仕掛けになる。

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資本金と繰越利益剰余金、配当と利益準備金

boki3-ch09-s01 / 幹 17分・枝 8分

2027年6月26日、みずほ食品ではじめての定時株主総会が開かれた。 株主は社長ひとりで、場所は工場の事務所、所要時間は20分。 それでも議事録は作るし、決めることは決めなければならない。

議題は1つ。1期目に稼いだ800,000円をどうするかだ。

社長は「半分くらいは自分に払っておきたい」と言った。 会社の金と自分の金は別だという意識はあるが、 創業の1年間で自分の給料をほとんど取っていない。 七海が調べたところ、株主に利益を分配することを配当といい、 株主総会で決めれば会社から支払える。ただし、いくつか制約があった。

【要請】 まず前提として、資本金と繰越利益剰余金は同じ純資産でも性格がまったく違う。 資本金3,000,000円は、株主が「これは会社に置いておく」と言って入れた元手だ。 第1章で見たとおり、資本金は出どころのラベルであって、 どこかに現金として置いてあるわけではない。 これに対して繰越利益剰余金800,000円は、会社が自分で稼いで積み上げた分になる。

会社にとって、この2つの決定的な違いは配当に回せるかどうかにある。 資本金は回せない。繰越利益剰余金は回せる。 なぜそうなっているのかというと、株式会社の株主は有限責任だからだ。 会社が潰れても株主は出資した分を失うだけで、それ以上の責任を負わない。 貸した側から見ると、返済の当てになるのは会社の財産だけになる。 その財産を株主が配当でいくらでも外へ持ち出せるなら、金を貸す相手がいなくなる。 だから会社法は「資本金の分は外に出せない」という線を引いている。

【必然】 そのうえで、もう1つ歯止めが乗る。利益準備金の積立てだ。 配当を出すたびに、その10分の1を利益準備金として社内に取り分けなければならない。 これも配当には回せない。 資本準備金と利益準備金の合計が資本金の4分の1に達するまで、この積立ては続く。

みずほ食品の場合、資本金3,000,000円の4分の1は750,000円。 準備金はまだゼロなので、積立ての義務がある。 配当300,000円を決めたなら、その10分の1の30,000円を利益準備金に積む。 つまり繰越利益剰余金からは、配当300,000円と準備金30,000円の合計330,000円が出ていく。

覚え方の取っ掛かりは「配当を出すと、その1割ぶんだけ会社に置いていく」。

🌿 由来枝 — 「剰余金」も「準備金」も、明治の翻訳語がそのまま残っている(約4分)

繰越利益剰余金という長い名前は、3語に分解できる。 剰余は「余り」で、surplus の訳語として明治期に定着した。 利益剰余金は「利益から出た余り」、繰越利益剰余金は「翌期へ繰り越された利益剰余金」。 つまり「稼いだ分のうち、まだ使い道が決まっていないまま次の期へ持ち越した金額」を、 そのまま4語で言っている。

「準備金」のほうは reserve の訳語で、こちらは「取っておく」という動作が名前になっている。 英語の reservere-(後ろへ)+ servare(保つ)で、 後々のために取っておく、という語構成をしている。 利益準備金は legal reserve(法定準備金)とも呼ばれ、 法律が積立てを義務づけている点が普通の任意積立金と違う。

ややこしいのは、日本語の「準備金」という言葉から 「現金を別に用意してある」という印象を受けやすいことだ。 そういうものではない。準備金も剰余金も貸方にある数字のラベルであって、 金庫に現金が分けて置いてあるわけではない。 第1章の資本金と同じで、右側にあるのは出どころと使い道の区別にすぎない。

で、幹の話に戻ると、利益準備金を積むというのは現金を動かす作業ではなく、 繰越利益剰余金という箱から利益準備金という箱へ、配当に回せない印を付け替える作業になる。

🔧 実務枝 — 決算書の純資産を見るときに、営業が確かめること(約6分)

取引先の決算書を受け取ったとき、純資産の部で最初に見るのは2つの数字になる。 資本金がいくらかと、繰越利益剰余金がプラスかマイナスかだ。

繰越利益剰余金がマイナスの状態を欠損という。 1年だけ赤字を出しても、それまでの蓄積があればプラスのまま残るが、 累計で食い潰していればマイナスになる。 さらにマイナスが資本金を超えて、純資産の合計がマイナスになった状態が債務超過で、 これは「会社の全財産を売っても借金が返せない」ことを意味する。 金融取引の判断では、単年度の赤字より債務超過かどうかのほうが重い。

もう1つ見るのが、配当を出しているかどうかだ。 オーナー社長の会社では、役員報酬で取るほうが一般的なので配当は多くない。 それでも配当を出しているなら、少なくとも配当できるだけの剰余金があるということになる。 逆に、赤字が続いているのに配当を出している会社があれば、 剰余金の残りを取り崩している可能性を疑う。

資本金の額も見る。1,000万円、5,000万円、1億円といった区切りで、 消費税の課税事業者になる基準、法人住民税の均等割、 中小企業向けの税制優遇や補助金の対象範囲が変わるためだ。 だから増資を勧める場面では、税負担や制度の対象がどう動くかまで含めて考えることになる。

で、幹の話に戻ると、資本金と繰越利益剰余金は、 外から会社を見る人にとっていちばん最初に目に入る2行になっている。

具体例:設立から1期目の処分まで

みずほ食品の純資産が、どう動いてきたかを並べる。

日付 出来事 資本金 繰越利益剰余金 利益準備金
2026/4/1 設立。社長が3,000,000円を出資(1株50,000円 × 60株) 3,000,000 0 0
2027/3/31 1期目の決算。当期純利益800,000円を振り替え 3,000,000 800,000 0
2027/6/26 定時株主総会。配当300,000円を決議 3,000,000 470,000 30,000
2027/6/30 配当金300,000円を当座預金から支払 3,000,000 470,000 30,000

6月26日に繰越利益剰余金が800,000円から470,000円へ減っているのは、 配当300,000円と利益準備金への積立て30,000円の合計330,000円が出ていったからだ。

ここで注意したいのは、6月26日には現金が1円も動いていないこと。 株主総会で決めたのは「払う」ということであって、実際に払うのは6月30日になる。 決議から支払までのあいだ、会社は株主に対して払う義務を負っている。 その義務の置き場所が未払配当金という負債になる。

利益準備金の30,000円はどうか。こちらは払う相手がいない。 繰越利益剰余金という箱から利益準備金という箱へ移すだけなので、 純資産の合計は3,800,000円のまま変わらず、内訳のラベルが変わっただけになる。

なお3級では、株式を発行して払い込みを受けたときは全額を資本金にするのが原則だ。 会社法上は払込額の2分の1までを資本準備金にできるが、 そちらは2級で扱う(boki2-ch10-s01)。

用語カード

用語カード:資本金 term:shihonkin
用語カード:繰越利益剰余金 term:kurikoshirieki
用語カード:利益準備金 term:riekijunbikin
用語カード:未払配当金 term:miharaihaitokin

手順

6月26日の株主総会で1回通す。

  1. 配当に回せる元手を確かめる。 繰越利益剰余金の残高800,000円。 資本金3,000,000円はここに含めない。
  2. 配当の金額を決める。 株主総会で300,000円と決議した。
  3. 積み立てるべき利益準備金を出す。 配当額の10分の1で 300,000 ÷ 10 = 30,000円。
  4. 積立ての上限に達していないか確かめる。 資本金の4分の1は 3,000,000 ÷ 4 = 750,000円。 準備金の残高は0円なので、30,000円を積んでも上限に届かない。全額を積む。
  5. 繰越利益剰余金から、2と3の合計を減らす。 300,000 + 30,000 = 330,000円。 残高は 800,000 − 330,000 = 470,000円になる。
  6. 支払日に、未払配当金を現金・預金で消す。

一般化すると、積み立てる利益準備金は min(配当額 × 1/10, 資本金 × 1/4 −(資本準備金 + 利益準備金))。 後ろの項が上限で、すでに資本金の4分の1まで準備金が積んであれば、それ以上は積まなくてよい。

4の確認を飛ばすと、上限を超えて積み続けることになる。 この上限があるのは、準備金が債権者を守るための最低限の歯止めとして置かれているからだ。 歯止めとして十分な水準(資本金の4分の1)に達したら、それ以上会社を縛る理由がなくなる。

仕訳の型

2026/4/1 設立。1株50,000円 × 60株を発行し、全額の払込みを受けた
     (借) 現   金 3,000,000   (貸) 資 本 金 3,000,000

2027/3/31 決算。当期純利益800,000円を振り替える([第12章](#boki3-ch12-s04))
     (借) 損   益   800,000   (貸) 繰越利益剰余金 800,000

2027/6/26 定時株主総会。配当300,000円と利益準備金30,000円を決議
     (借) 繰越利益剰余金 330,000   (貸) 未払配当金 300,000
                                   (貸) 利益準備金  30,000

2027/6/30 配当金を当座預金から支払
     (借) 未払配当金  300,000   (貸) 当座預金 300,000

なぜ他ではダメなのか

対抗案1:配当を費用として損益計算書に入れる

会社から金が出ていくのだから費用ではないか、という発想は自然だ。 みずほ食品の1期目で並べてみる。

利益の処分とする(正) 配当を費用にする
税引前当期純利益 1,140,000 840,000
法人税等 340,000 340,000
当期純利益 800,000 500,000
繰越利益剰余金(期末) 800,000 500,000

まず、配当は1期目の決算後(2027年6月)に決まる。 1期目の損益計算書はすでに確定しているので、そこへ後から費用を入れること自体ができない。 仮に2期目の費用にしたとしても、話は良くならない。 費用というのは売上を得るために払った犠牲を指す。 麺を作るための小麦粉、工場の家賃、機械の減価償却費は、どれも売上を生むために使われた。 配当はそうではない。すでに出た利益を、出資者に分けているだけだ。 これを費用にすると、株主にたくさん配った年ほど利益が小さく見えることになり、 「この会社は本業でいくら稼いだか」という損益計算書の役割が壊れる。

さらに実務上の帰結もある。配当を費用にすると法人税の計算上も利益が減る。 配当した分だけ税金が減るなら、利益をすべて配当に回して納税をゼロにできてしまう。 配当が費用として認められないのは、この抜け道を塞ぐ意味でも一貫している。

対抗案2:利益準備金を積まず、800,000円を全額配当できることにする

会社が稼いだ金なのだから、株主が全部持っていっても文句を言う人はいない、という理屈になる。 みずほ食品の貸借対照表で何が起きるか見る。

準備金を積む(正) 全額を配当
配当額 300,000 800,000
配当後の繰越利益剰余金 470,000 0
配当後の利益準備金 30,000 0
配当後の純資産合計 3,800,000 3,000,000
借入金 1,500,000 1,500,000

右の列では、会社に残る純資産が資本金の3,000,000円ちょうどになる。 大垣中央銀行から借りている1,500,000円は返済期限が来るまで会社に残るのに、 稼いだ分は毎年きれいに外へ出ていく形になる。 株主は有限責任なので、会社が返せなくなっても株主個人が肩代わりすることはない。 つまり貸した側だけが取り残される

そこで会社法は、配当のたびに1割を社内に留めさせることにした。 金額としては小さいが、配当を続けるかぎり少しずつ会社の内部に積み上がっていく。 資本金の4分の1という上限があるのは、 歯止めとして十分な水準に達したらそれ以上縛らない、という線引きになっている。 準備金は株主のためではなく、会社に金を貸した側のために積んでいると読むと筋が通る。

よくある間違い

ここで引っかかるはず

Q. 株主が社長ひとりなのに、わざわざ株主総会を開いて配当を決める意味があるのか。 A. 帳面の上では、会社と社長は完全に別の人格として扱われる。 社長が「会社の金だから」と自由に持ち出せるなら、 第6章で見た預り金や立替金の区別も意味を失う。 株主総会という手続きを踏むのは、会社の財産が外へ出る場面を記録に残すためで、 株主が1人でも100人でも変わらない。 実際、社長が会社の金を勝手に使えば、それは配当ではなく役員に対する貸付金や賞与として扱われ、 税務上も会計上も別の問題になる。

Q. 配当と役員報酬は、どちらも社長に払う金なのに何が違うのか。 A. 役員報酬は働いたことに対する対価なので費用(給料と同じ性格)になり、 毎月定額で払うなど一定の条件を満たせば税務上も費用として認められる。 配当は出資したことに対する分配なので、費用にならず利益の処分になる。 会社の側から見ると、役員報酬は利益を減らして税金も減らすが、 配当は利益を減らさないので法人税を払ったあとの金から出ることになる。 オーナー社長の会社で配当より役員報酬が多いのは、この差が理由になっていることが多い。

Q. 繰越利益剰余金が470,000円あるのに、現金が470,000円あるとは限らないのはなぜか。 A. 貸方にある数字は「出どころ」であって「置き場所」ではないからだ。 第1章の資本金と同じ構造になっている。 稼いだ800,000円は、その時点ですでに売掛金になっていたり、商品になっていたり、 機械の代金として出ていったりしている。 だから配当を決めるときは「剰余金があるか」と「払う現金があるか」を別々に確かめる必要がある。 剰余金が十分でも資金繰りが苦しければ配当は出せない。

関連マップ

flowchart TD
  A[株主が払い込む] --> B[資本金<br/>boki3-ch09-s01]
  C[当期純利益] --> D[繰越利益剰余金<br/>boki3-ch12-s04]
  D --> E{株主総会で処分}
  E -- 株主へ --> F[未払配当金<br/>負債]
  E -- 社内に留保 --> G[利益準備金<br/>純資産]
  F --> H[支払で現金が減る]
  B -.2分の1まで.-> I[資本準備金<br/>boki2-ch10-s01]

法人税等と、決算をまたぐ納付

boki3-ch09-s02 / 幹 16分・枝 7分

2027年4月、1期目の決算を締めた七海のところへ税理士が来た。 決算書を確かめたあと、税理士は1枚の紙を出して言った。 「法人税・住民税・事業税を合わせて340,000円です。納付期限は5月31日ですよ」。

七海はここで手が止まった。決算はもう終わっている。 3月31日で1期目は締めた。それなのに、その1期目の税金を5月に払えという。 払う日が2期目なら、2期目の費用になるのではないか。

【要請】 答えは「1期目の費用」になる。 理由ははっきりしていて、その340,000円は1期目に稼いだ利益に対してかかっているからだ。 1期目の売上と費用の結果として1,140,000円の利益が出て、その利益に税がかかった。 成果(利益)が1期目にあるのに、それに伴う犠牲(税)だけが2期目に立つのでは、 第8章で見た費用収益対応が崩れる。 だから3月31日の決算で費用を計上し、まだ払っていない分を負債として持ち越す。 その負債が未払法人税等になる。

覚え方の取っ掛かりは「税は稼いだ期の費用、払うのは翌期」。

【必然】 そして2期目からは、もう1つ手前の処理が加わる。中間申告と中間納付だ。 国は1年分の税金を1年後にまとめて受け取るのではなく、期の途中で半分を先に集める。 みずほ食品は2027年11月30日に、前期の法人税等340,000円のちょうど半分にあたる170,000円を納めた。

この170,000円は、11月の時点ではまだ2期目の税額が確定していないので費用にできない。 確定するのは決算日の3月31日だ。だから払った時点では税金の前払いとして資産に置く。 これが仮払法人税等で、 第6章仮払金とまったく同じ性格をしている。 金額も内容も未確定なまま金だけ出ていったので、確定するまで一時置き場に入れておく。

🔧 実務枝 — 法人税等は「税引前当期純利益 × 税率」ぴったりにはならない(約6分)

みずほ食品の1期目は、税引前当期純利益1,140,000円に対して法人税等340,000円。 割ると29.8%になる。「実効税率はおよそ30%」という説明とほぼ合っているが、 これはたまたま近いだけで、ぴったり30%になることはまずない。

理由は、法人税が会計の利益ではなく課税所得という別の数字に対してかかるからだ。 会計の利益は「収益 − 費用」で計算するが、課税所得は「益金 − 損金」で計算する。 この2つは大部分が重なるものの、いくつか一致しない項目がある。 たとえば交際費は会計では全額が費用だが、税務では一定額を超えると損金にならない。 貸倒引当金繰入も、会計上の見積りがそのまま損金として認められるとは限らない。 減価償却費も、法定耐用年数より短い年数で計算した分は認められない。

だから決算書の「法人税等」は、会計の利益に税率を掛けて出した数字ではなく、 税務の計算をした結果として出てきた数字を持ってきて載せている。 このずれを会計の側で調整する仕組みが税効果会計で、2級で扱う(boki2-ch09-s01)。

営業の側でこの話が効いてくるのは、決算書から利益を推し量る場面だ。 「税引前利益 × 70%」で当期純利益を概算すると、交際費が多い会社ほどずれる。 逆に、税引前利益に対する法人税等の割合が極端に低い年があれば、 過去の赤字を繰り越して所得と相殺している(欠損金の繰越控除)可能性がある。

で、幹の話に戻ると、3級の問題文では税額が与えられるか 「税引前当期純利益の◯%」と指示されるので計算に迷うことはない。 ただしその数字が会計の外から来ていることは押さえておくと、 なぜ法人税等が損益計算書のいちばん下に、独立した1行として置かれるのかが腑に落ちる。

具体例:1期目と2期目の税金の流れ

日付 出来事 金額
2027/3/31 1期目の決算。法人税等が確定(税引前当期純利益 1,140,000円) 340,000
2027/5/31 1期目の法人税等を当座預金から納付 340,000
2027/11/30 2期目の中間申告。前期の税額の半分を納付 170,000
2028/3/31 2期目の決算。年間の法人税等が確定 420,000
2028/5/31 差額を納付 250,000

1期目に中間納付が無いのは、前期が存在しないからだ。 中間納付の金額は前期の実績をもとに決まるので、設立1期目には出てこない。 だから1期目の決算では、確定した340,000円がまるごと未払法人税等になる。

2期目は違う。11月30日にすでに170,000円を前払いしている。 3月31日に年間の税額420,000円が確定したので、 まだ払っていないのは 420,000 − 170,000 = 250,000円だ。 決算の仕訳では、費用として420,000円を立てたうえで、 資産に置いてあった仮払法人税等170,000円を消し、残りを未払法人税等にする。

1期目 2期目
年間の法人税等(費用) 340,000 420,000
中間納付(仮払法人税等) 0 170,000
未払法人税等(期末の負債) 340,000 250,000

損益計算書に載る費用は、どちらの期も年間の税額の全部になる。 中間で払ったかどうかは、貸借対照表の側にしか影響しない。

用語カード

用語カード:法人税等 term:hojinzeito
用語カード:仮払法人税等 term:karibaraihojinzei
用語カード:未払法人税等 term:miharaihojinzei

手順

2期目の決算(2028年3月31日)で1回通す。

  1. 年間の法人税等の金額を確かめる。 税理士の計算で420,000円。 これが損益計算書に載る費用の金額になる。
  2. 中間納付した金額を元帳で確かめる。 仮払法人税等の残高170,000円。
  3. 差を取る。 420,000 − 170,000 = 250,000円。これがまだ払っていない分。
  4. 仕訳する。 借方 法人税等 420,000、貸方 仮払法人税等 170,000 と 未払法人税等 250,000。
  5. 翌期の納付日に、未払法人税等を消す。

一般化すると、決算の仕訳は (借)法人税等 = 年間の確定額/(貸)仮払法人税等 = 中間納付額、未払法人税等 = 差額

1期目のように中間納付が無ければ、貸方は未払法人税等だけの1行になる。 逆に、中間納付が年間の確定額を上回った場合は差額が戻ってくるので、 貸方ではなく借方に「未収還付法人税等」といった科目が立つ。 3級で問われるのは、中間納付が確定額を下回る普通の形になる。

この手順で事故が起きるのは、2を飛ばしたときだ。 仮払法人税等の残高を見ずに420,000円をそのまま未払法人税等にすると、 資産に170,000円が残ったまま負債が170,000円多く立つ。 第8章の差額補充法とまったく同じで、 先に元帳の残高を見るという順番が守れていれば起きない。

仕訳の型

2027/3/31 1期目の決算。法人税等340,000円が確定(中間納付なし)
     (借) 法人税等  340,000   (貸) 未払法人税等 340,000

2027/5/31 1期目の法人税等を当座預金から納付
     (借) 未払法人税等 340,000   (貸) 当座預金 340,000

2027/11/30 2期目の中間申告。170,000円を当座預金から納付
     (借) 仮払法人税等 170,000   (貸) 当座預金 170,000

2028/3/31 2期目の決算。年間の法人税等420,000円が確定
     (借) 法人税等  420,000   (貸) 仮払法人税等 170,000
                               (貸) 未払法人税等 250,000

2028/5/31 差額を当座預金から納付
     (借) 未払法人税等 250,000   (貸) 当座預金 250,000

なぜ他ではダメなのか

対抗案1:法人税等を、実際に納付した日の費用にする

現金主義で考えれば自然な案だ。みずほ食品の1期目・2期目で並べる。

決算で計上(正) 納付日に費用
1期目の法人税等 340,000 0
1期目の当期純利益 800,000 1,140,000
2期目に立つ税の費用 420,000 340,000 + 170,000 = 510,000
1期目末の負債(未払法人税等) 340,000 0

1期目の当期純利益が1,140,000円になる。税金を払う義務がすでに確定しているのに、 貸借対照表にその義務がどこにも載らない。 決算書を見た銀行は「この会社は1,140,000円稼いで、負債は買掛金と借入金だけ」と読むが、 実際には2か月後に340,000円を払わなければならない。 確定している支払義務が帳面から消えることになり、 第6章で未払金という科目を用意した理由がそのまま当てはまらなくなる。

2期目も同じ理屈でずれる。2期目の損益計算書に載る税の費用510,000円は、 1期目の税340,000円と2期目の中間納付170,000円の合計で、 2期目の利益に対応する420,000円とは別物になる。 どの期の利益に、どの税が対応しているのかが読めなくなる。

対抗案2:中間納付した170,000円を、その時点で費用にする

11月30日に金が出ていったのだから費用にしてよさそうに見える。 問題は、その時点で2期目の税額が誰にも分からないことだ。

仮に2期目の業績が悪く、年間の法人税等が100,000円だったとする。 すでに170,000円を納めているので、70,000円は戻ってくる。 中間納付を費用にしていた場合、11月に170,000円の費用が立ち、 決算で70,000円を戻す(費用のマイナス)という不自然な処理になる。 費用がマイナスに立つ月が出ることになり、月次で損益を見ている会社では数字が跳ねる。

さらに、中間納付の金額そのものが会計とは無関係に決まっている。 前期の税額の半分という機械的な計算なので、 当期の業績とは何の関係もない金額になっている。 そんな数字を当期の費用として置く根拠がない。 だから確定するまでは資産(前払い)として置き、 決算日に年間の確定額を1本の費用として立て、そこから差し引く形をとる。

よくある間違い

ここで引っかかるはず

Q. 法人税等が費用なら、なぜ販売費及び一般管理費の中に入れず、いちばん下に独立して置くのか。 A. ほかの費用とは性格が違うからだ。 仕入も家賃も減価償却費も、利益を生むために支出したもので、 その結果として利益が決まる。法人税等は逆で、利益が決まってから、その利益に対してかかる。 原因と結果の順序が逆になっている。 だから損益計算書では、まず税引前当期純利益を出し、 そこから法人税等を引いて当期純利益を出す、という2段構えになっている。 この構造はboki2-ch01-s02の報告式の損益計算書で正面から扱う。

Q. 決算日に税額が確定するというが、税理士の計算が終わるのは決算日より後ではないか。 A. そのとおりで、実務では決算日から1〜2か月かけて申告書を作る。 それでも仕訳の日付は決算日にする。 簿記が記録しているのは「いつ計算したか」ではなく「どの期に属するか」だからだ。 減価償却費貸倒引当金繰入も同じで、 実際に手を動かすのは4月や5月でも、仕訳の日付は3月31日になる。 決算整理とは、決算日の状態に帳面を合わせる作業であって、作業した日の記録ではない。

Q. 中間納付が年間の確定額より多かった場合はどうなるのか。 A. 差額が還付される。仕訳では、決算で法人税等(確定額)を借方に立てたあと、 貸方の仮払法人税等がそれより大きくなるので、借方に差額を置く科目が必要になる。 「未収還付法人税等」といった資産の科目を使う。 3級ではこの形は原則として問われず、中間納付が確定額を下回る普通の形で出題される。 ただし仮払法人税等は必ず決算で消えるという点だけは、どちらの形でも変わらない。

関連マップ

flowchart TD
  A[期の途中<br/>中間申告] --> B[仮払法人税等<br/>資産]
  C[決算日<br/>年間の税額が確定] --> D[法人税等<br/>費用]
  D --> E{中間納付はあるか}
  E -- ある --> F[仮払法人税等を消す]
  E --> G[未払法人税等<br/>負債]
  B --> F
  G --> H[翌期に納付<br/>負債が消える]
  D --> I[損益計算書の最下段<br/>boki2-ch01-s02]

消費税(税抜方式)

boki3-ch09-s03 / 幹 16分・枝 7分

2027年の夏、大垣屋商店の担当者が七海に聞いてきた。 「みずほさん、インボイスの登録番号はありますか」。

みずほ食品は、設立してから消費税を1円も納めていない。 【由来】 これは脱税ではなく、制度がそう作られているからだ。 消費税を納める義務があるかどうかは、原則として2年前の売上で判定する。 設立したばかりの会社には2年前が存在しないので、 資本金1,000万円未満であれば設立1期目・2期目は納税義務が免除される。 みずほ食品の資本金は3,000,000円なので、この免税事業者にあたっていた。

ところが、2023年10月に始まったインボイス制度で事情が変わった。 買い手の側は、仕入れにかかった消費税を差し引いて納税額を計算するのだが、 その差引き(仕入税額控除)をするには、売り手が発行した適格請求書(インボイス)が要る。 免税事業者はインボイスを発行できない。 つまり大垣屋商店から見ると、みずほ食品から仕入れた分は 消費税を差し引けず、そのぶん自分の納税額が増えることになる。

社長は取引を優先して、2027年10月1日付でインボイス発行事業者の登録を受けた。 登録すると免税事業者ではいられないので、同じ日から消費税を納める課税事業者になる。 ここから、みずほ食品の帳面に消費税が現れる。

【必然】 記録の仕方には2つある。売上や仕入を税込みの金額で書く方法(税込方式)と、 税抜きの金額で書き、消費税だけを別の科目に分ける方法(税抜方式)だ。 3級で問われるのは税抜方式で、理由は消費税の仕組みそのものにある。

麺を770,000円(本体700,000円+消費税70,000円)で売ったとき、 その70,000円はみずほ食品の儲けではない。 最終的に消費者が負担する税を、売り手が代わりに預かって国へ納めているだけだ。 第6章預り金とまったく同じ性格をしている。 会社の金庫に入っているが、会社の金ではない。 だから収益に混ぜず、仮受消費税という別の箱に入れる。

同じことが仕入の側でも起きる。440,000円(本体400,000円+消費税40,000円)で仕入れたとき、 その40,000円は仕入先に預けた税で、後で自分が納める税から差し引ける。 だから費用に混ぜず、仮払消費税という資産に置く。

覚え方の取っ掛かりは「受け取った税から、払った税を引いた残りを納める」。

🌿 由来枝 — 消費税は「預り金」なのか、という長い論争(約5分)

消費税を説明するとき、「消費者から預かった税を事業者が納める」という言い方がよく使われる。 この教材でもそう書いた。ただし、法律上はそこまで単純ではない。

消費税法が納税義務者としているのは事業者であって、消費者ではない。 条文のどこにも「事業者は消費者から税を預かる」とは書かれていない。 価格に転嫁することが想定されてはいるが、 値引きして本体価格を下げれば実質的に事業者が負担することになるし、 免税事業者が消費税相当額を受け取っても、それを納める義務は生じない。

この点は過去に裁判でも争われていて、 「消費税は預り金ではなく、事業者に課された税である」という整理がされている。 だから会計の科目名も「預り消費税」ではなく仮受消費税になっている。 「仮」が付いているのは、決算で仮払消費税と相殺して、 納める金額が確定するまでは中身が定まらないからだ。 仮受金仮払金と同じ用法になっている。

※覚え方としては「預かっている」と思っておくほうが仕訳を間違えにくい。 ただし正確には、預り金に似た動きをする税金であって、預り金そのものではない。

で、幹の話に戻ると、仮受消費税は収益ではなく、仮払消費税は費用ではない。 どちらも決算で相殺して、差額だけが納める税になる。

🔧 実務枝 — インボイス制度が、小さな取引先の選別に効いている(約6分)

2023年10月のインボイス制度開始で、実務上いちばん変わったのは 免税事業者と取引を続けるかどうかという判断が発生したことだ。

買い手の側から見ると、免税事業者から110,000円で仕入れても、 その10,000円ぶんは仕入税額控除ができない(経過措置で一定割合は控除できる期間がある)。 同じ110,000円を課税事業者から仕入れれば控除できる。 つまり同じ金額でも、免税事業者からの仕入れのほうが実質的に高くつく。

この結果、これまで免税でやってきた個人事業者や小規模法人が、 取引先から登録を求められる場面が増えた。 登録すれば消費税の納税義務が生じるので、手取りが減る。 登録しなければ取引を失うかもしれない。 みずほ食品が2027年10月に登録したのも、この判断をした結果になっている。

決算書を読む側から見ると、この時期に登録した会社は 利益率が数%落ちて見えることがある。税抜方式で処理すれば売上高そのものは変わらないが、 これまで手元に残っていた消費税相当額が納税で出ていくので、資金繰りは確実にきつくなる。 消費税は赤字でも納めなければならない税なので、 資金繰りが苦しい会社では消費税の滞納が最初に出ることが多く、 その事実は取引の判断でも重く見られる。

で、幹の話に戻ると、仮受消費税と仮払消費税を分けて記録しておけば、 決算日を待たずに「いま時点でいくら納めることになるか」がいつでも読める。 税抜方式には、資金繰りを見張れるという実務上の利点がある。

具体例:2期目の10月以降

課税事業者になった2027年10月1日以降の取引を、いくつか抜き出す。消費税率は10%とする。

日付 出来事 本体 消費税 合計
10/5 西美濃製粉から小麦粉を掛けで仕入 400,000 40,000 440,000
10/20 大垣屋商店へ麺を掛けで販売 700,000 70,000 770,000
10月から3月までの合計
仕入・経費にかかった消費税の合計 3,800,000 380,000 4,180,000
売上にかかった消費税の合計 6,200,000 620,000 6,820,000

決算日(2028年3月31日)の時点で、 仮受消費税の残高が620,000円、仮払消費税の残高が380,000円になっている。 納めるのは差額の 620,000 − 380,000 = 240,000円だ。

ここで確かめておきたいのは、損益計算書に消費税がどこにも出てこないことだ。 売上は6,200,000円(税抜)、仕入は3,800,000円(税抜)で計上されていて、 620,000円も380,000円も240,000円も、損益計算書には現れない。 消費税は会社の損得ではないので、利益に一切影響しない。 貸借対照表の側だけで、資産(仮払消費税)と負債(仮受消費税)が立ち、 決算で相殺されて未払消費税という負債が残る。

法人税等との違いがここではっきりする。

法人税等 消費税
誰が負担する税か 会社 最終的な消費者
損益計算書に出るか 出る(費用) 出ない
赤字でも納めるか 原則として納めない 納める
会社にとっての性格 利益に対する費用 預かった金の受け渡し

用語カード

用語カード:仮受消費税 term:kariukeshohizei
用語カード:仮払消費税 term:karibaraishohizei

手順

10月20日の売上と、決算の相殺を順に通す。

  1. 請求書の本体価格と消費税額を分ける。 770,000円は本体700,000円と消費税70,000円。 税込みの金額しか分からないときは、770,000 ÷ 1.1 = 700,000円で本体を出す。
  2. 本体だけを売上にする。 貸方 売上 700,000。
  3. 消費税を仮受消費税にする。 貸方 仮受消費税 70,000。
  4. 仕入の側も同じように分ける。 440,000円なら仕入400,000と仮払消費税40,000。
  5. 決算で、仮受消費税と仮払消費税を相殺する。 620,000 − 380,000 = 240,000円。
  6. 差額を未払消費税(負債)にする。 翌期の納付期限までに納める。

一般化すると、納める消費税は 仮受消費税 − 仮払消費税。 この引き算が消費税の仕組みそのものになっている。 売上にかかった税をそのまま納めるのではなく、 仕入や経費で自分が払った税を差し引いた残りだけを納める。 そうしないと、原材料から製品まで流通の各段階で同じ税が何重にもかかることになる。

この手順で事故が起きるのは、1を飛ばして税込みのまま処理したときだ。 売上770,000円、仕入440,000円と書いてしまうと、 売上総利益は 770,000 − 440,000 = 330,000円になる。 税抜きなら 700,000 − 400,000 = 300,000円なので、30,000円も違ってしまう。 この30,000円は預かった税の一部であって、会社の儲けではない。

仕訳の型

2027/10/5 小麦粉を掛けで仕入(本体400,000・消費税40,000)
     (借) 仕     入  400,000   (貸) 買 掛 金  440,000
     (借) 仮払消費税   40,000

2027/10/20 麺を掛けで販売(本体700,000・消費税70,000)
     (借) 売 掛 金  770,000   (貸) 売     上  700,000
                               (貸) 仮受消費税   70,000

2028/3/31 決算。仮受消費税620,000と仮払消費税380,000を相殺
     (借) 仮受消費税 620,000   (貸) 仮払消費税 380,000
                               (貸) 未払消費税 240,000

2028/5/31 未払消費税を当座預金から納付
     (借) 未払消費税 240,000   (貸) 当座預金 240,000

なぜ他ではダメなのか

対抗案1:税込方式で処理する(売上770,000・仕入440,000と書く)

請求書の金額をそのまま書くので手間が少ない。 実際、税込方式は法令上も認められている方法で、間違いではない。 それでも3級が税抜方式で出題するのは、期中の数字が読めなくなるからだ。

税抜方式 税込方式
売上(10月〜3月) 6,200,000 6,820,000
仕入(10月〜3月) 3,800,000 4,180,000
売上総利益 2,400,000 2,640,000
決算での調整 相殺するだけ 租税公課240,000を計上
調整後の利益への影響 0 −240,000

税込方式でも、決算で240,000円を租税公課などの費用として計上すれば、 最終的な利益は同じ2,400,000円に落ち着く。 問題は、決算までのあいだ売上総利益が2,640,000円に見えていることだ。 月次で利益を追っている会社では、毎月240,000円ぶんの水増しが乗った数字を見続けることになる。

さらに、みずほ食品のように期の途中で課税事業者になった場合、 税込方式だと4月〜9月(免税期間)の売上と10月〜3月の売上が、 同じ「売上」なのに片方は税込み、片方は税抜きに近い形で混ざる。 前年同月と比べても意味のある比較にならない。 税抜方式なら、課税事業者かどうかにかかわらず売上高は本体価格で並ぶ。

対抗案2:仮受消費税を売上に、仮払消費税を仕入に含めたまま、決算で差額だけ引く

税込方式の一種だが、決算の処理をもっと省いた形になる。 このやり方だと、決算日を迎えるまでいくら納めることになるのか誰も分からない

みずほ食品の場合、2028年3月31日に240,000円を納めることが確定する。 納付期限は5月31日なので、2か月で240,000円を用意しなければならない。 仮受・仮払を分けて記録していれば、10月の時点で 「仮受70,000 − 仮払40,000 = 30,000円がすでに納税分」と読める。 12月でも2月でも、そのときの残高を引き算するだけで納税見込み額が出る。

分けて記録しない場合、この金額は決算で計算するまで分からない。 消費税は赤字でも納めなければならない税なので、 資金繰りの見通しを立てるうえでこの差は小さくない。 科目を分けるのは几帳面さではなく、いつでも引き算できる形で持っておくためだ。

よくある間違い

ここで引っかかるはず

Q. 会社が負担しない税なのに、なぜ会社の帳面に書かなければならないのか。 A. 会社の金庫を通っているからだ。 第6章預り金とまったく同じ構造で、 給与から差し引いた所得税も会社の負担ではないが、 納付するまでは会社が持っているので負債として記録した。 消費税も同じで、受け取ってから納めるまでのあいだ、その金は会社の口座にある。 損得には影響しないが、財産と義務には影響するので、 損益計算書には出さず貸借対照表にだけ出す、という置き方になっている。

Q. 仮払消費税が仮受消費税より大きくなることはあるのか。 A. ある。設備を大きく買った期や、輸出が多い会社では起こりやすい。 たとえば6,000,000円の建物を買えば、それだけで600,000円の仮払消費税が立つ。 その期の仮受消費税が400,000円しかなければ、差額200,000円は還付される。 仕訳では、相殺した結果が借方に残るので「未収還付消費税」といった資産の科目になる。 3級では納める側(仮受のほうが大きい)で出題されるが、 引き算の結果がどちらに転んでも仕組みは同じだと押さえておけばよい。

Q. 免税事業者だったときに受け取っていた消費税相当額は、どうなっていたのか。 A. 納める義務がなかったので、そのまま会社の収入になっていた。 これが「益税」と呼ばれてきたもので、インボイス制度が導入された背景の1つになっている。 みずほ食品も1期目は免税事業者だったので、 第1章の損益計算書に消費税の科目は1つも出てこない。 売上11,500,000円は消費税を意識せずに計上された金額になっている。 第12章で1期目の決算整理を扱うときに消費税の項目が出てこないのは、 このためだ。

関連マップ

flowchart TD
  A[売上 700,000 + 消費税 70,000] --> B[仮受消費税<br/>負債]
  C[仕入 400,000 + 消費税 40,000] --> D[仮払消費税<br/>資産]
  B --> E{決算で相殺}
  D --> E
  E -- 仮受のほうが大きい --> F[未払消費税<br/>負債]
  E -- 仮払のほうが大きい --> G[還付を受ける]
  F --> H[翌期に納付]
  B -.性格が近い.-> I[預り金<br/>boki3-ch06-s03]

確認問題

株主総会において、繰越利益剰余金を財源として配当金300,000円を支払うことが決議された。
なお、資本金は3,000,000円、資本準備金および利益準備金の残高はいずれもゼロである。
このとき繰越利益剰余金から減額される金額はいくらか。
  1. 30,000円
  2. 300,000円
  3. 330,000円
  4. 750,000円
答えと解説

正解: 3

正解の根拠: 配当額300,000円に加え、その10分の1にあたる30,000円を利益準備金として積み立てる。合計330,000円が繰越利益剰余金から減る。積立ての上限は資本金の4分の1(750,000円)だが、まだ達していないので全額を積む。
誤答1: 30,000円は利益準備金への積立額だけ。株主へ支払う300,000円が抜けている。
誤答2: 300,000円は配当額だけ。同時に積み立てる利益準備金30,000円が抜けている。
誤答4: 750,000円は準備金の積立ての上限額(資本金の4分の1)であって、今回減らす金額ではない。

参照: boki3-ch09-s01 term:riekijunbikin

株主総会で配当金300,000円の支払が決議されたが、支払は後日となる。決議日の仕訳として正しいものはどれか。
  1. (借) 繰越利益剰余金 300,000 / (貸) 当座預金 300,000
  2. (借) 繰越利益剰余金 330,000 / (貸) 未払配当金 300,000、利益準備金 30,000
  3. (借) 支払配当金 330,000 / (貸) 未払配当金 300,000、利益準備金 30,000
  4. (借) 資本金 330,000 / (貸) 未払配当金 300,000、利益準備金 30,000
答えと解説

正解: 2

正解の根拠: 決議日にはまだ支払っていないので、株主に対する支払義務を未払配当金という負債で受ける。同時に利益準備金30,000円を積み立て、合計330,000円を繰越利益剰余金から減らす。
誤答1: 決議日には現金・預金が動いていない。また利益準備金の積立てが抜けている。
誤答3: 配当は費用ではなく利益の処分なので、支払配当金のような費用科目は使わない。損益計算書には出てこない。
誤答4: 配当の財源は繰越利益剰余金。資本金は配当に回せないので減らせない。

参照: boki3-ch09-s01 term:miharaihaitokin

決算にあたり、当期の法人税、住民税及び事業税の合計額が420,000円と確定した。
なお、期中に中間納付として170,000円を納めており、仮払法人税等として処理してある。
決算の仕訳として正しいものはどれか。
  1. (借) 法人税等 420,000 / (貸) 仮払法人税等 170,000、未払法人税等 250,000
  2. (借) 法人税等 250,000 / (貸) 未払法人税等 250,000
  3. (借) 法人税等 420,000 / (貸) 未払法人税等 420,000
  4. (借) 仮払法人税等 170,000、法人税等 250,000 / (貸) 未払法人税等 420,000
答えと解説

正解: 1

正解の根拠: 損益計算書に載る費用は年間の確定額420,000円。すでに中間納付した170,000円は資産(仮払法人税等)として残っているので貸方で消し、残りの250,000円を未払法人税等として負債に立てる。
誤答2: 費用が250,000円になってしまい、中間納付した170,000円が費用として認識されない。仮払法人税等も資産に残ったままになる。
誤答3: 仮払法人税等を消していないため、資産と負債が両方170,000円ふくらむ。
誤答4: 仮払法人税等を借方に置いており、資産をさらに増やしている。中間納付は決算で減らす側。

参照: boki3-ch09-s02 term:miharaihojinzei

商品を770,000円(うち消費税70,000円)で掛け販売した。税抜方式による仕訳として正しいものはどれか。
  1. (借) 売掛金 700,000 / (貸) 売上 700,000
  2. (借) 売掛金 770,000 / (貸) 売上 770,000
  3. (借) 売掛金 770,000 / (貸) 売上 700,000、仮払消費税 70,000
  4. (借) 売掛金 770,000 / (貸) 売上 700,000、仮受消費税 70,000
答えと解説

正解: 4

正解の根拠: 得意先に請求する金額は税込みの770,000円なので売掛金は770,000円。収益になるのは本体の700,000円だけで、消費税70,000円は後で納める税なので仮受消費税という負債で受ける。
誤答1: 売掛金が税抜きになっている。相手に請求できるのは消費税を含めた770,000円。
誤答2: 消費税70,000円まで売上にしており、売上高が過大になる。会社の収益ではない。
誤答3: 受け取った側なので仮受消費税。仮払消費税は自分が仕入や経費で払った側に使う。

参照: boki3-ch09-s03 term:kariukeshohizei

決算において、仮受消費税の残高は620,000円、仮払消費税の残高は380,000円であった。
税抜方式による決算の仕訳として正しいものはどれか。
  1. (借) 仮払消費税 380,000 / (貸) 仮受消費税 380,000
  2. (借) 仮受消費税 620,000 / (貸) 仮払消費税 380,000、未払消費税 240,000
  3. (借) 租税公課 240,000 / (貸) 未払消費税 240,000
  4. (借) 仮受消費税 620,000 / (貸) 未払消費税 620,000
答えと解説

正解: 2

正解の根拠: 受け取った税620,000円から払った税380,000円を差し引いた240,000円が納める金額。負債である仮受消費税を借方で消し、資産である仮払消費税を貸方で消して、差額を未払消費税として負債に立てる。
誤答1: 仮受消費税の残高620,000円が消えず、仮払消費税も相殺できていない。納税額も出てこない。
誤答3: 税込方式で処理していた場合の考え方。税抜方式では消費税が損益に出ないので、租税公課という費用は立たない。
誤答4: 仮払消費税380,000円を差し引いていないため、納税額が実際の2倍以上になる。仕入で払った税を控除するのが消費税の仕組み。

参照: boki3-ch09-s03 term:karibaraishohizei