2027年の年明け、みずほ食品の事務所に机がもう1つ増えた。 パート職員を1人、事務に入れたのだ。取引先が増えて、七海ひとりでは記帳が追いつかなくなっていた。
ところがここで問題が起きる。仕訳帳は1冊しかない。 第2章で見たとおり、すべての取引はまず仕訳帳に日付順で書かれ、 そこから総勘定元帳へ転記される。1冊の帳簿に2人が同時に書き込むことはできない。 片方が書いているあいだ、もう片方は待つしかない。
この行き詰まりを外す道具が伝票だ。 仕訳帳という1冊のノートの代わりに、1枚1取引の紙を使う。 紙なら何枚でも同時に書ける。書いた人が違っても、日付順に並べれば仕訳帳と同じものになる。
もう1つ、この章で扱うのが証ひょうになる。 請求書、領収書、納品書、預金通帳、給与明細。 帳簿に書かれた数字の裏付けになる紙のことで、伝票とは役割がまったく違う。 伝票は会社が自分で作る記帳の道具、証ひょうは外から来る事実の証拠になる。 2つが並んで章の名前になっているのは、 どちらも「帳簿の周りにある紙」だが、向きが逆だからだ。
伝票会計が生まれた理由は、理論ではなく物理的な制約にある。 仕訳帳は綴じられた1冊のノートで、日付順に隙間なく書いていく。 書いている人が1人しかいないうちは何の問題も無いが、 取引が増えて経理が2人、3人になった途端に行き詰まる。 1冊のノートに2人が同時にペンを入れることはできない。
そこで、仕訳帳のページをあらかじめバラして、 1枚1取引の紙にしてしまう。これが伝票だった。 紙なら何人でも同時に書ける。営業担当が売上を、 出納係が入出金を、それぞれ自分の場所で起票し、 一日の終わりに日付順に集めて綴じれば、仕訳帳と同じものが出来上がる。
副産物として、承認の仕組みも作れるようになった。 伝票に承認欄を印刷しておけば、上長が押印した伝票だけを帳簿に載せる運用ができる。 1冊のノートに直接書く方式では、書いてしまったものを後から承認するしかない。 支出の伝票を切った人と承認する人を分ける、 現金を扱う人と記帳する人を分ける、といった内部統制の考え方は、 伝票という様式があってはじめて実装できる。
会計ソフトの入力画面がいまも「振替伝票」と呼ばれ、 承認のワークフローが付いているのは、この流れをそのまま引き継いだためになる。 帳簿を紙から解放したのが伝票だと考えると、 なぜわざわざ様式を分けるのかが腑に落ちる。
簿記の教科書や国税庁の文書には「証ひょう」という交ぜ書きが出てくる。 これは本来「証憑」と書く言葉で、「憑」の字が常用漢字表に入っていないために、 公用文の書き方の決まりに従って平仮名にしている。
「憑」は、憑(つ)く・憑(よ)りどころにする、という字だ。 「証憑」で「証明の拠りどころ」になる。 帳簿に書かれた数字が拠って立つ根拠、という意味がそのまま字に入っている。
法律の条文では別の言葉が使われることもある。 法人税法の条文は「帳簿書類」と書き、 消費税法は仕入税額控除の要件として「請求書等」と書く。 実務では「証憑」「エビデンス」「原始資料」といった呼び方も混ざるが、 指しているものは同じで、取引が実際にあったことを外から確かめられる書類になる。
近年この分野で大きく変わったのが保存の方法だった。 電子帳簿保存法の改正で、電子でやり取りした請求書は電子のまま、 日付・金額・取引先で検索できる形で保存することが求められるようになった。 紙に印刷して綴じるだけでは要件を満たさない。 インボイス制度(第9章)でも、 適格請求書を保存していなければ仕入税額控除が受けられない。
つまり証ひょうは、いまや「取っておくと安心な紙」ではなく、 保存の仕方まで含めて税額に直結する書類になっている。 帳簿の周りにある紙のほうが、帳簿そのものより神経を使う場面が増えた。
1月から伝票を使い始めるにあたって、七海は何枚の種類を用意するか決めなければならなかった。 文具店には5種類の伝票が売られていた。 入金伝票、出金伝票、仕入伝票、売上伝票、振替伝票。これを5伝票制という。
【要請】 種類を分ける発想は単純で、同じ形の取引をまとめて1枚の様式にすれば、書く量が減る。
現金が入ってくる取引は、必ず借方が現金になる。
だから入金伝票には借方を印刷しておき、貸方の科目と金額だけを書けばよい。
出ていく取引なら貸方が必ず現金なので、借方だけを書く。
仕入伝票は借方が仕入で固定、売上伝票は貸方が売上で固定になる。
七海が選んだのは3伝票制だった。入金伝票、出金伝票、振替伝票の3つ。 仕入伝票と売上伝票を使わないことにしたのは、 みずほ食品の売上が現金と掛けの両方で立つので、 売上伝票と入金伝票のどちらに書くかを毎回判断するくらいなら、 振替伝票に普通の仕訳を書いたほうが速いと考えたからだ。
【必然】 3伝票制の考え方は、次の1行に尽きる。
現金が動いたかどうかで、まず振り分ける。
覚え方の取っ掛かりは「現金が動いたら片側だけ、動かなかったら両側」。
ここで1つだけ収まりの悪い取引が出てくる。 2027年2月17日、関ケ原製麺へ麺を200,000円で売り、 そのうち50,000円をその場で現金で受け取り、残り150,000円は掛けにした。 現金は動いている。だが取引の全部が現金というわけでもない。 入金伝票と振替伝票の、どちらに書けばよいのか。
これが一部現金取引で、書き方が2通り認められている。
伝票が広く使われるようになったのは、大正から昭和にかけて企業の規模が大きくなり、 経理を複数人で分担する必要が出てきたころだとされる。 仕訳帳という1冊の綴じ帳では、書ける人が同時に1人に限られる。 それを1枚1取引の紙に置き換えれば、営業担当が売上伝票を、 出納係が入出金の伝票を、それぞれ同時に起票できる。
5伝票制が主流だったのは、手書きの時代に印刷済みの科目を増やすほど記入量が減るからだった。 売上伝票なら貸方に「売上」と印刷しておけるので、 書くのは相手先と金額だけで済む。1日に何十枚も書く現場では、この差が効いた。
やがてコンピュータで記帳するようになると、事情が変わる。 科目を印刷しておく利点が消え、代わりに 「この取引はどの伝票に書くのか」という判断のほうが手間になった。 仕入伝票と売上伝票は掛け取引を前提にしているので、 現金売上をどう扱うかで毎回迷う。そこで種類を減らした3伝票制が広まった。
いまは伝票そのものを使わない会社が多い。 会計ソフトの入力画面が振替伝票の形をしているので名前だけが残っていて、 紙の伝票を綴じている会社は少ない。 ※覚え方として、伝票は「仕訳帳を1枚ずつバラしたもの」だと思っておくと、 なぜ日付順に並べ直すと仕訳帳になるのかが腑に落ちる。
で、幹の話に戻ると、3伝票制で問われているのは 現金が動いたかどうかで様式を選び、選んだ様式のルールどおりに書けるかという一点になる。
帳簿に書かれた数字は、それだけでは何の証明にもならない。 売上320,000円と書いてあっても、本当に麺を納めたのかは帳簿からは分からない。 それを裏付けるのが証ひょうで、納品書、請求書、領収書、契約書、預金通帳などがこれにあたる。
法人税法では、帳簿と証ひょうを原則として7年間保存することが求められている (欠損金が生じた事業年度については10年間)。 消費税の仕入税額控除を受けるためにも、 インボイス(適格請求書)の保存が要件になっている(第9章)。 つまり証ひょうは「念のため取っておく紙」ではなく、 保存していないと税務上の取扱いが変わる書類になる。
2022年以降は電子帳簿保存法の改正で、 電子でやり取りした請求書は電子のまま保存することが原則になった。 メールで届いたPDFの請求書を印刷して綴じるだけでは足りず、 日付・金額・取引先で検索できる形で保存する必要がある。
取引先の与信を見る場面でも、証ひょうは効いてくる。 決算書の数字だけでは実態が分からないとき、 主要な取引の契約書や請求書の写しを見せてもらうことがある。 売上が大きく伸びているのに請求書の枚数が変わっていない、 特定の1社に売上が集中している、といったことは、 決算書の合計欄からは読み取れない。
で、幹の話に戻ると、伝票は会社が自分で作る記帳の道具、 証ひょうは外から来る事実の裏付けで、向きが逆になっている。 伝票を起こすときは、必ず手元の証ひょうを見ながら書く。
みずほ食品の1日を、伝票に起こしてみる。
| # | 取引 | 現金は動いたか | 伝票 |
|---|---|---|---|
| 1 | 大垣屋商店へ麺を320,000円で掛け販売 | 動かない | 振替伝票 |
| 2 | 西美濃製粉から小麦粉を180,000円で掛け仕入 | 動かない | 振替伝票 |
| 3 | 揖斐川フーズから売掛金150,000円を現金で回収 | 増えた | 入金伝票 |
| 4 | 事務用品8,000円を現金で購入(消耗品費) | 減った | 出金伝票 |
| 5 | 関ケ原製麺へ麺を200,000円で販売。現金50,000円、残り掛け | 一部が増えた | 2枚に分かれる |
| 6 | 買掛金120,000円を現金で支払 | 減った | 出金伝票 |
1から4と6は、迷うところがない。 借方か貸方の片方が現金で決まっているので、伝票にはもう片方の科目と金額だけを書く。
5の一部現金取引 — 2通りの書き方
方法A:取引を2つに分解する
200,000円の販売を、「現金で50,000円売った」と「掛けで150,000円売った」という 2つの取引が同時に起きたものとみなす。
方法B:いったん全額を掛け取引とし、直後に一部を回収したとみなす
200,000円全額を掛けで売り、その直後に50,000円を回収した、と2段階で考える。
どちらも、最終的に残る売掛金は150,000円、売上は200,000円で同じになる。 違うのは売掛金勘定を通る金額だ。 方法Aでは売掛金が150,000円しか動かないが、方法Bでは200,000円増えて50,000円減る。
みずほ食品は方法Bを選んだ。理由は請求書にある。 関ケ原製麺に出した請求書は200,000円で、 その場で50,000円を受け取った領収書を別に切っている。 得意先元帳にも「200,000円を売り、50,000円を回収した」と残るほうが、 証ひょうと帳簿の形が揃う。
slip や voucher と呼ばれるが、voucher は証ひょうの意味でも使われるので
日本語ほどきれいに分かれていない。2月17日の6件を、順に伝票へ振り分ける。
一般化すると、3伝票制の起票は **「現金の増減で様式を選び、印刷されていない側だけを書く」**という作業になる。
入金伝票に現金と書いたり、出金伝票に現金と書いたりしないのは、 その側が様式として最初から決まっているからだ。 書いてしまうと、集計のときに現金が二重に計上される。 入金伝票に書かれた科目は必ず貸方、出金伝票に書かれた科目は必ず借方、と押さえておく。
伝票に書いた内容を、仕訳に戻すとこうなる。
振替伝票① (借) 売 掛 金 320,000 (貸) 売 上 320,000
振替伝票② (借) 仕 入 180,000 (貸) 買 掛 金 180,000
振替伝票③ (借) 売 掛 金 200,000 (貸) 売 上 200,000 ← 方法B
入金伝票① 科目 売掛金 150,000 → (借) 現 金 150,000 / (貸) 売掛金 150,000
入金伝票② 科目 売掛金 50,000 → (借) 現 金 50,000 / (貸) 売掛金 50,000 ← 方法B
出金伝票① 科目 消耗品費 8,000 → (借) 消耗品費 8,000 / (貸) 現 金 8,000
出金伝票② 科目 買掛金 120,000 → (借) 買掛金 120,000 / (貸) 現 金 120,000
方法Aで起票すると、③と入金伝票②だけが次のように変わる。
振替伝票③' (借) 売 掛 金 150,000 (貸) 売 上 150,000 ← 方法A
入金伝票②' 科目 売上 50,000 → (借) 現 金 50,000 / (貸) 売 上 50,000
対抗案1:一部現金取引を、入金伝票1枚だけで処理する
「現金が入ったのだから入金伝票」と考えると、 入金伝票に「売上 200,000」と書きたくなる。だがこれは成立しない。 入金伝票は借方が現金で固定されているので、この1枚は 「現金200,000/売上200,000」という仕訳を意味してしまう。
| 正しい起票(方法B) | 入金伝票1枚だけ | |
|---|---|---|
| 現金の増加 | 50,000 | 200,000 |
| 売掛金の増加 | 150,000 | 0 |
| 売上 | 200,000 | 200,000 |
| 金庫の実際有高との差 | 一致 | 150,000円多い |
実際に金庫に入ったのは50,000円なので、帳簿の現金が150,000円多くなる。 月末に金庫を数えれば現金過不足が150,000円出る (第3章)。しかも関ケ原製麺への売掛金150,000円が帳簿のどこにも無いので、 回収すべき代金を請求し忘れる。 伝票は様式ごとに片側が固定されているぶん、 固定された側の金額が事実と違うと、そのまま帳簿の誤りになる。
対抗案2:3伝票制ではなく5伝票制にして、売上伝票・仕入伝票を使う
書く量は減る。売上伝票なら貸方が「売上」で固定されているので、相手先と金額だけで済む。 問題は、売上伝票が掛け取引を前提にしていることにある。
5伝票制では、売上はすべていったん売掛金として売上伝票に書き、 現金で受け取った分は入金伝票で回収したことにする、という決まりになっている。 つまり方法Bを強制される形になる。 現金売上が多い会社では、1件の売上に必ず2枚の伝票が必要になり、かえって枚数が増える。
| 3伝票制 | 5伝票制 | |
|---|---|---|
| 2/17 の伝票枚数 | 7枚 | 8枚 |
| 掛け売上320,000 | 振替伝票1枚 | 売上伝票1枚 |
| 現金50,000+掛け150,000 | 2枚 | 2枚 |
| 現金だけの売上があった場合 | 入金伝票1枚 | 売上伝票+入金伝票の2枚 |
| 判断が必要な場面 | 現金が動いたか | どの伝票の対象か+現金が動いたか |
みずほ食品のように現金売上と掛け売上が混ざる会社では、 様式を増やしたぶんだけ「どの伝票に書くか」の判断が増える。 3伝票制が広まったのは、判断の回数を1つに減らせるからになる。 現在の検定試験で3伝票制が扱われるのも、この事情による。
Q. 一部現金取引に2通りの書き方があるのは変ではないか。どちらかが正しいはずだ。 A. どちらも正しい。最終的に残る売上200,000円と売掛金150,000円は同じで、 違うのはそこへ至る途中の見せ方だけになる。 方法Aは「起きた事実をそのまま2つに割る」、 方法Bは「請求書の全額をいったん立ててから、受け取った分を消す」という考え方だ。 どちらを選ぶかは、証ひょうの形や社内の運用に合わせて会社が決める。 みずほ食品が方法Bを選んだのは、請求書が200,000円で切ってあるからだった。 試験では必ず問題文に指示があるので、自分で選ぶ場面は出てこない。
Q. 伝票を使うと、仕訳帳はもう要らないのか。 A. 要らなくなる。伝票を日付順に綴じたものが仕訳帳の役割を果たすので、 伝票会計を採用している会社では仕訳帳を別に作らない。 第2章で見た帳簿の全体像でいうと、 主要簿のうち仕訳帳の位置に伝票が入る形になる。 総勘定元帳のほうは変わらず必要で、伝票から転記する。 その転記をまとめて効率よくやるための表が、次の節の仕訳日計表になる。
Q. 証ひょうは帳簿に金額を書き写したら、捨ててよいのか。 A. 捨てられない。法人税法で原則7年間の保存が求められている。 帳簿の数字が正しいことを外から確かめる唯一の資料なので、 税務調査でも金融機関の資料請求でも、最初に見られるのが証ひょうになる。 第10章で見たとおり、 試算表では見つからない誤りは、帳簿の外の資料と突き合わせるしかない。 その突き合わせの相手が証ひょうだ。捨ててしまうと、確かめる手段そのものが無くなる。
flowchart TD
A[取引が起きる] --> B[証ひょうが手元に届く<br/>請求書・領収書]
B --> C{現金が動いたか}
C -- 増えた --> D[入金伝票<br/>貸方の科目だけ書く]
C -- 減った --> E[出金伝票<br/>借方の科目だけ書く]
C -- 動かない --> F[振替伝票<br/>両側を書く]
C -- 一部だけ --> G[2枚に分ける<br/>方法A / 方法B]
D --> H[仕訳日計表<br/>boki3-ch11-s02]
E --> H
F --> H
G --> H
H --> I[総勘定元帳<br/>boki3-ch02-s02]
2月17日の夕方、机の上には7枚の伝票が並んでいる。 このあと七海がやることは、第2章でやったのと同じ転記だ。 伝票1枚ずつを見て、総勘定元帳の該当する口座に金額を書き写していく。
だが7枚を1枚ずつ転記すると、元帳に書く行は14行になる。 1日でこれなら、1か月では300行を超える。 しかも同じ勘定に何度も書くことになる。 2月17日だけでも、現金の口座には入金2件・出金2件の4行、 売掛金の口座には4行が並ぶ。
【要請】 ここで発想を変える。元帳に必要なのは、1件ずつの明細ではない。
総勘定元帳が持っているのは各勘定の合計と残高で、
どの取引から来た金額かを追いたいときは伝票そのものを見ればよい。
それなら、1日分の伝票を勘定ごとに集計してから、
1日1回だけ元帳へ転記すれば足りる。
この集計表が仕訳日計表になる。 2月17日なら、現金の借方に200,000円、貸方に128,000円、 売掛金の借方に520,000円、貸方に200,000円、というように、 その日に伝票へ書かれた金額を勘定ごとに合計した表だ。 元帳への転記はこの表から行うので、書く行は勘定の数だけになる。
【必然】 そして、仕訳日計表の借方合計と貸方合計は必ず一致する。
伝票1枚は仕訳1本と同じなので、どの伝票も借方と貸方が同額になっている。
それを勘定ごとに配り直して足しただけなら、総額は動かない。
第10章の試算表とまったく同じ原理で、
一致しなければ、伝票の起票か集計のどこかが壊れている。
覚え方の取っ掛かりは「仕訳日計表は、1日ぶんの試算表」。
この教材にはここまでで、勘定を縦に並べて借方と貸方を横に並べる表が3つ出てくる。 仕訳日計表、試算表、 そして精算表(第12章)だ。 見た目が似ているので混ざりやすいが、集めている範囲と目的が違う。
| 表 | 集める範囲 | 何のために作るか |
|---|---|---|
| 仕訳日計表 | その日の伝票だけ | 元帳への転記をまとめる |
| 試算表 | 期首から現在までの累計 | 転記が崩れていないかを検算する |
| 精算表 | 期首から期末までの累計+決算整理 | 決算書を組み立てる |
仕訳日計表はその日の発生額しか載らないので、残高の欄が無い。 試算表は累計なので残高が出る。 精算表は試算表に決算整理と決算書の欄を足したものになる。
3つとも借方合計と貸方合計が一致するが、 一致する理由はどれも同じで、もとの仕訳が貸借同額だからになる。 逆に言えば、3つとも「片側だけの誤り」しか捕まえられない。
で、幹の話に戻ると、仕訳日計表は試算表の1日版で、 やっていることは勘定ごとの集計にすぎない。新しい理屈は何も出てこない。
仕訳日計表を毎日作る実務上の理由は、転記の手間よりも現金の管理にある。
日計表を作れば、その日の現金の借方合計と貸方合計が1行で出る。 2月17日なら借方200,000円、貸方128,000円。 前日の残高にこれを足し引きすれば、その日の終わりの帳簿上の現金残高が出る。 金庫を数えて一致するかを、その日のうちに確かめられる。
これを毎日やっていれば、ずれが出たとき探す範囲はその日の伝票だけになる。 月末にまとめて数えると、ずれの原因は1か月分の中のどこかになり、 第3章の現金過不足として 原因不明のまま残る可能性が高くなる。
現金を扱う量が多い業種ほど、この締めが重要になる。 小売や飲食では1日の終わりにレジを締めて日計表と照合するのが基本動作で、 これができていない店は、盗難や記帳漏れが起きても気づけない。
取引先を見る側から言うと、現金商売の会社で日々の締めが甘い場合、 決算書の現金残高がそのまま信用できるとは限らない。 帳簿にあるはずの現金が実際には無い、という状態は珍しくない。
で、幹の話に戻ると、仕訳日計表は転記の効率化のための表であると同時に、 現金を1日単位で締めるための道具になっている。
前の節で起こした7枚の伝票(方法Bで起票)を、勘定ごとに集計する。
| 伝票 | 借方 | 貸方 |
|---|---|---|
| 振替伝票① | 売掛金 320,000 | 売上 320,000 |
| 振替伝票② | 仕入 180,000 | 買掛金 180,000 |
| 振替伝票③ | 売掛金 200,000 | 売上 200,000 |
| 入金伝票① | 現金 150,000 | 売掛金 150,000 |
| 入金伝票② | 現金 50,000 | 売掛金 50,000 |
| 出金伝票① | 消耗品費 8,000 | 現金 8,000 |
| 出金伝票② | 買掛金 120,000 | 現金 120,000 |
仕訳日計表(2027年2月17日)
| 借方 | 元丁 | 勘定科目 | 元丁 | 貸方 |
|---|---|---|---|---|
| 200,000 | 1 | 現金 | 1 | 128,000 |
| 520,000 | 3 | 売掛金 | 3 | 200,000 |
| 120,000 | 11 | 買掛金 | 11 | 180,000 |
| — | 売上 | 31 | 520,000 | |
| 180,000 | 41 | 仕入 | — | |
| 8,000 | 45 | 消耗品費 | — | |
| 1,028,000 | 合計 | 1,028,000 |
現金の借方200,000円は入金伝票2枚(150,000+50,000)、 貸方128,000円は出金伝票2枚(8,000+120,000)の合計になる。 売掛金の借方520,000円は振替伝票①③(320,000+200,000)、 貸方200,000円は入金伝票2枚(150,000+50,000)。
「元丁」という欄は、総勘定元帳の何ページ目へ転記したかを書き込む欄で、 転記が済んだ印にもなる。ここが空欄の行があれば、転記していないと分かる。
方法Aで起票していたら
一部現金取引を方法A(取引を分解する)で起票していた場合、 振替伝票③が「売掛金150,000/売上150,000」、 入金伝票②が「現金50,000/売上50,000」になる。日計表は次のように変わる。
| 勘定科目 | 方法Bの借方 | 方法Bの貸方 | 方法Aの借方 | 方法Aの貸方 |
|---|---|---|---|---|
| 現金 | 200,000 | 128,000 | 200,000 | 128,000 |
| 売掛金 | 520,000 | 200,000 | 470,000 | 150,000 |
| 売上 | — | 520,000 | — | 520,000 |
| 合計 | 1,028,000 | 1,028,000 | 978,000 | 978,000 |
売掛金だけが借方・貸方とも50,000円ずつ小さくなり、日計表の合計も50,000円小さくなる。 それでも売掛金の残高(520,000 − 200,000 = 320,000、470,000 − 150,000 = 320,000)は同じになる。 どちらの方法でも、元帳に残る残高は変わらない。
daily summary などと呼ばれるが、日本の伝票会計の実務で発達した様式なので
そのままの訳語は定着していない。2月17日の伝票から、元帳への転記までを1回通す。
一般化すると、伝票会計の流れは 伝票 → 仕訳日計表 → 総勘定元帳になる。 第2章の「仕訳帳 → 総勘定元帳」と比べると、 真ん中に集計の一手が入っただけで、行き先は同じだ。
この手順で事故が起きるのは、2と3で科目の側を取り違えたときになる。 入金伝票に書かれた科目は貸方、出金伝票に書かれた科目は借方。 現金の側は伝票の種類で決まっているので、 書かれている科目のほうが反対側に来ると覚えておく。
なお、得意先ごと・仕入先ごとの残高を管理する補助簿(第2章)へは、 日計表からではなく伝票から直接転記する。 日計表では相手先の情報が消えてしまうためで、 総勘定元帳へは日計表から、補助簿へは伝票から、と経路が2本に分かれる。
仕訳日計表から総勘定元帳へ転記した結果を、勘定の形で書くとこうなる。
現金(元丁1)
2/17 仕訳日計表 200,000 │ 2/17 仕訳日計表 128,000
売掛金(元丁3)
2/17 仕訳日計表 520,000 │ 2/17 仕訳日計表 200,000
買掛金(元丁11)
2/17 仕訳日計表 120,000 │ 2/17 仕訳日計表 180,000
売上(元丁31)
│ 2/17 仕訳日計表 520,000
仕入(元丁41)
2/17 仕訳日計表 180,000 │
消耗品費(元丁45)
2/17 仕訳日計表 8,000 │
対抗案1:仕訳日計表を作らず、伝票から直接元帳へ転記する
集計の手間が省ける。実際、取引が少ない会社ならこのほうが速い。 みずほ食品の2月17日で比べる。
| 日計表を経由(正) | 伝票から直接 | |
|---|---|---|
| 元帳に書く行数(2/17) | 8行 | 14行 |
| 1か月(20営業日)の行数 | 160行 | 280行 |
| 転記漏れの検算 | 日計表の左右で確認できる | できない |
| 現金の日々の締め | 日計表の2行で足りる | 4行を拾う |
行数の差も効くが、決定的なのは3行目になる。 伝票から直接転記する場合、転記の途中で借方と貸方の一致を確かめる場所が無い。 1枚ずつ転記していくので、1枚分を飛ばしても気づかない。 日計表を経由すれば、集計の段階で借方合計と貸方合計を突き合わせられる。 第10章の試算表と同じ検算が、1日単位で入る形になる。
伝票を1枚落としていた場合、日計表の左右は一致してしまう (その伝票の借方も貸方も両方落ちるため)。 それでも現金の残高が金庫と合わなくなるので、その日のうちに気づける。
対抗案2:伝票の相手科目を、元帳にそのまま書き写す
元帳を見るだけで取引の中身が分かるので、親切に見える。 だが日計表を経由している以上、これはできない。
2月17日の現金の借方200,000円は、入金伝票2枚を足した金額だ。 1枚は揖斐川フーズからの売掛金回収150,000円、 もう1枚は関ケ原製麺からの回収50,000円。 相手科目はどちらも売掛金だが、相手先は違う。 金額200,000円に対して1つの相手先を書くことはできない。
さらに、消耗品費8,000円と買掛金120,000円を足した現金の貸方128,000円は、 相手科目そのものが2つある。 書くとすれば「諸口」になるが、それなら「仕訳日計表」と書くほうが どこを見れば明細が分かるかまで示せる。
| 「仕訳日計表」と書く | 相手科目を書こうとする | |
|---|---|---|
| 現金 借方200,000 の相手 | 仕訳日計表(伝票を見る) | 売掛金(相手先は不明) |
| 現金 貸方128,000 の相手 | 仕訳日計表(伝票を見る) | 諸口(中身は不明) |
| 明細へ戻れるか | 戻れる | 戻れない |
元帳が明細を持たないのは欠陥ではなく、明細は伝票と補助簿が持つという役割分担になっている。 だから得意先元帳へは日計表を経由せず、伝票から直接転記する。
Q. 仕訳日計表の合計1,028,000円という数字には、何か意味があるのか。 A. その日に伝票へ書かれた金額の総額、という以上の意味は無い。 売上でも現金の増加でもなく、借方に書かれた金額をすべて足した数にすぎない。 方法Aで起票すれば978,000円になるように、 起票の仕方によって変わる数字なので、業績の指標にはならない。 意味があるのは「借方合計と貸方合計が一致するか」という点だけになる。 第10章の合計試算表の合計額と同じ性格の数字だ。
Q. 伝票が1枚もなかった勘定は、日計表に載せなくてよいのか。 A. その日に動きが無い勘定は載せない。 仕訳日計表はその日の発生額を集める表なので、発生が無ければ行が要らない。 みずほ食品の2月17日なら、備品も借入金も資本金も動いていないので載らない。 これが試算表との大きな違いになる。試算表は期首からの累計なので、 残高がある勘定はすべて載る。 **日計表は「今日動いたもの」、試算表は「今ある全部」**と押さえておくとよい。
Q. 会計ソフトを使えば伝票も日計表も要らないのに、なぜ試験で問われるのか。 A. 問われているのは伝票という様式そのものではなく、 片側が固定された記録から、もとの仕訳を復元できるかという力になる。 入金伝票に「売掛金 150,000」とだけ書いてある紙を見て、 「現金150,000/売掛金150,000」という仕訳を頭の中で組み立てる。 この作業は、預金通帳の入出金明細から仕訳を起こす場面や、 証ひょうから取引を読み取る場面とまったく同じ形をしている。 会計ソフトが自動で取り込んだ銀行明細を仕訳に直す作業も、やっていることは変わらない。
flowchart TD A[伝票 7枚<br/>boki3-ch11-s01] --> B[勘定ごとに集計] B --> C[仕訳日計表<br/>boki3-ch11-s02] C --> D[総勘定元帳<br/>boki3-ch02-s02] A --> E[得意先元帳・仕入先元帳<br/>boki3-ch02-s03] D --> F[試算表<br/>boki3-ch10-s01] C -.1日分の検算.-> F F --> G[決算整理<br/>boki3-ch12-s01]
正解: 3
正解: 2
正解: 1
正解: 4
正解: 3