みずほ食品の3期目は、麺の作り方より「売り方」が変わった年になった。 大垣の第2工場が動き出して品目が倍に増え、彦根の湖北麺業からも乾麺が入ってくる。 新しい得意先のマルヤマ食品とは、乾麺の納品と陳列什器の設置をひとつの契約にまとめた。 揖斐川フーズからは1年分の代金を先にもらう定期便の話が来た。 そのうえ、製麺の技術を他社に教える仕事まで引き受けた。麺を1袋も渡さずに代金をもらう仕事だ。
3期目に七海がいちばん多く社長に聞かれたのは「今月は儲かっとるのか」だった。 3級で習った三分法では、その質問に決算日まで答えられない。 仕入は費用として積み上がっていくだけで、売った分の原価は期末に棚卸をして初めて逆算できるからだ。 月が変わるたびに工場を止めて在庫を数えるわけにもいかない。
この章で扱うのは3つある。 売った瞬間に原価を書く方法(三分法の代わりになる書き方)、 いつ売上を計上してよいのかという判断そのもの、 そして物が動かない商売の売上と原価。 どれも3級の商品売買から地続きで、3級で保留にした問いに2級が答えを出しにいく形になっている。
日本の会計には長いあいだ、収益をいつ計上するかを定めた包括的な基準が存在しなかった。 拠り所は企業会計原則の一文だけで、あとは業種ごとの慣行に委ねられていた。 出荷した日に売上を立てる会社もあれば、相手が受け取った日に立てる会社もあり、 検収が終わるまで待つ会社もあった。同じ業界の2社を並べても、 売上の計上時期が違えば、決算期をまたぐ取引の分だけ数字がずれる。
国際的には、IASBとFASBが共同で作業を進め、2014年に収益認識の基準 (IFRS第15号/ASC Topic 606)を公表した。 契約の中の約束を1つずつ数え、果たすたびに収益を認識する、という5ステップの考え方だ。 日本の企業会計基準委員会もこれに合わせ、2018年に「収益認識に関する会計基準」を公表し、 2021年4月1日以後に開始する事業年度から原則適用となった。 日商簿記2級に契約資産・契約負債・返金負債が入ってきたのは、この流れによる。
だから契約資産という科目は、几帳面な会計士が増やした細目ではなく、 「いつ売上か」がばらばらだった状態を1本の物差しに揃えた結果として現れたものになる。 覚えるべきは科目名ではなく、約束を果たしたかどうかで判断する、という物差しのほうだ。
決算日に棚から商品を下ろして数えると、帳簿の数と合わないことのほうが多い。 みずほ食品でも、帳簿の380個に対して実地では368個しかなかった。 消えた12個は盗まれたわけではなく、たいていは配送中の破損、サンプル出し、 数え間違い、記録し忘れといった小さな漏れの積み重ねになる。 小売の世界では、この目減りをまとめてロス、あるいは棚卸差異と呼び、 売上高に対する比率で管理している。
面白いのは、この12個が「発見されるまで存在していた」という点だ。 帳簿の上では3月30日まで380個あることになっていて、 数えた瞬間に368個へ書き換わる。会計は現物を見ていない。 見ているのは記録で、記録と現物のずれを年に一度だけ突き合わせている。
だから売上原価対立法にしても、帳簿の在庫が自動的に正しくなるわけではない。 売った都度に原価を落とすので帳簿上の在庫は常に計算されているが、 その計算が現実と合っているかは、棚を数えるまで誰にも分からない。 棚卸減耗損という科目は、その帳簿と現実の距離を毎期きちんと測る、 という手続きが残っていることの証拠になっている。
4月の終わり、社長が事務所に来て「4月はどうやった」と聞いた。 七海は帳簿を開いたが、答えられなかった。 売上は1,500,000円と出ている。仕入も1,200,000円と出ている。 差し引き300,000円が儲けかというと、そうではない。 4月に仕入れた小麦粉のうち、まだ倉庫に残っている分がある。 逆に、3月から持ち越した在庫を4月に使い切った分もある。 売れた麺の原価がいくらだったかは、月末に工場を止めて棚を数えないと出てこない。
3級の三分法は、期中は原価を追いかけないという割り切りで成り立っていた。 1日に何十件も麺が出ていく現場で、1件ごとに原価を確定させるのは無理だったからだ (boki3-ch04-s01)。 その代わり、売上原価が分かるのは年に1回、決算で「しーくり・くりしー」をやったあとになる。
【要請】 ところが3期目のみずほ食品には、月ごとに成績を知りたい事情ができた。
第2工場の増設で借入が増え、大垣中央銀行に月次の試算表を出すことになった。
品目が倍に増えたので、どの商品で稼いでいるのかも見たい。
会計の目的が「1年の成績を外に報告すること」だけなら三分法で足りる。
期中の意思決定にも使うなら、期中いつでも売上総利益が読める帳簿が要る。
【必然】 期中いつでも粗利を出したいなら、売った瞬間に原価を書くしかない。
売上と売上原価を対にして同じタイミングで立てれば、その差がそのまま売上総利益になる。
そのためには、商品を「費用の仮置き場(仕入)」ではなく、
手元にある財産(商品)として資産に持ち続ける必要がある。
買ったら商品(資産)、売ったら売上(収益)と同時に売上原価(費用)へ振り替える。
売上と売上原価が対になって立つので、売上原価対立法という。
覚え方の取っ掛かりは「三分法は年に1回まとめて逆算、対立法は売るたびに即計算」。 どちらが正しいかではなく、原価をいつ確定させるかの違いしかない。
取引先から月次試算表を出してもらうと、まず見るのは売上高ではなく売上総利益率になる。 みずほ食品の4月なら 450,000 ÷ 1,500,000 = 30.0%。 これが5月に28%、6月に25%と落ちていれば、値引きで数字を作りにいっているか、 原材料が上がったのに売価に転嫁できていないかのどちらかを疑う。
ところが、三分法で月次を作っている会社の試算表には、この数字が出てこない。 仕入勘定の残高しかないので、粗利率を出そうとすると 「仕入高 ÷ 売上高」で代用することになり、在庫が動いた月は数字が跳ねる。 4月に小麦粉をまとめ買いした月だけ原価率が急に悪く見え、翌月は急に良く見える。 月次の推移で判断しようとすると、この揺れがそのまま誤読になる。
だから決算書だけでなく月次を見せてもらう場合は、 在庫をどう捉えた数字なのかを先に確かめる。 売上原価対立法や、月次で概算の棚卸をしている会社の数字は推移で読めるが、 仕入をそのまま原価扱いしている会社の数字は、3か月・6か月でならして見ないと意味が取れない。
で、幹の話に戻ると、売上原価対立法が実務で選ばれる理由は答案のためではなく、 月ごとの数字が判断に使える形で出てくることにある。
売上原価対立法という名前は、初めて見ると身構える。 対立と書いてあると、売上と売上原価が争っているように読めてしまう。 そうではなく、ここでの「対立」は対(つい)になって立つという意味で使われている。 売上を立てた同じ仕訳の中で、売上原価も並べて立てる。だから対立法という。
英語では、在庫の記録の仕方を perpetual inventory system(継続記録法)と
periodic inventory system(棚卸計算法)に分ける。
売った都度に帳簿の在庫を減らしていくのが前者で、売上原価対立法はこちらの考え方に乗っている。
期末に数えて初めて原価が決まる三分法は後者にあたる。
perpetual はラテン語 perpetuus(絶え間ない)から来ていて、
記録が途切れずに続くという語感がそのまま名前になっている。
※覚え方として、「売上と売上原価が対で立つ=対立法」と読むと科目の並びまで思い出せる。 仕訳を2行書く方法だ、と形で覚えておけば、期末に何を追加すべきかも整理しやすい。
で、幹の話に戻ると、名前が難しいだけで、やっていることは 「売った瞬間に、売値と原価を並べて書く」という一点に尽きる。
4月に起きたのは3つだけだった。3期目の期首在庫は480,000円ある。
| 日付 | 取引 | 金額 |
|---|---|---|
| 4/5 | 西美濃製粉から小麦粉などを掛けで仕入 | 1,200,000 |
| 4/20 | 大垣屋商店・揖斐川フーズへ麺を掛けで販売 | 売価 1,500,000 |
| 4/20 | 上記で引き渡した麺の原価 | 1,050,000 |
売上原価対立法で書くと、4月末の帳簿はこうなっている。
棚を数えなくても、帳簿を見るだけで4月の粗利450,000円と、 月末に持っている在庫630,000円が出ている。ここが三分法との決定的な違いになる。
同じ4月を三分法で書くと、帳簿にはこう並ぶ。
粗利を出そうとすると 1,500,000 − 1,200,000 = 300,000円という数字が出るが、 これは4月の粗利ではない。在庫が480,000から630,000へ150,000円増えた分がそのまま歪みになっていて、 実際の450,000円と150,000円ずれる。在庫が動いた月ほど、三分法の期中残高は意味を失う。
3期目の1年を通すと、次の数字になった。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 期首商品 | 480,000 |
| 当期仕入高 | 9,600,000 |
| 売上高 | 14,400,000 |
| 売上原価勘定の残高 | 9,700,000 |
| 帳簿上の期末商品 | 480,000 + 9,600,000 − 9,700,000 = 380,000 |
決算日に実地棚卸をしたら、帳簿では380個(原価@1,000円)あるはずの乾麺が368個しかなかった。 さらに、その368個は湿気で品質が落ちていて、正味売却価額が@950円まで下がっていた。
380,000 − 12,000 − 18,400 = 349,600 で合う。 帳簿の在庫と現物の差が数量で出たのが棚卸減耗損、単価で出たのが商品評価損になる。
perpetual inventory system)にあたり、
perpetual はラテン語 perpetuus(絶え間ない)で、記録が途切れず続くことを指す。まず4月の1か月を、例えばの数字で1回通す。
決算日にやることは、三分法とは中身が入れ替わる。
一般化すると、売上原価対立法の期末に残る仕事は 「帳簿の商品残高 → 実際にある物の価値へ寄せる」だけになる。 三分法では期末棚卸が売上原価の計算そのものだったが、対立法では売上原価は期中に確定しているので、 棚卸は帳簿が現実とずれていないかの確認という役割に変わる。
棚卸減耗損と商品評価損の計算は、順番を固定しておくと迷わない。 先に数量の差、後に単価の差。先に単価を下げてしまうと、減耗分に下げた単価を掛けることになり、 金額が変わってしまう。減耗した12個は帳簿上の原価@1,000円のまま消す。
同じ4月を、2つの方法で並べる。
売上原価対立法
4/ 5 (借) 商 品 1,200,000 (貸) 買 掛 金 1,200,000
4/20 (借) 売 掛 金 1,500,000 (貸) 売 上 1,500,000
(借) 売 上 原 価 1,050,000 (貸) 商 品 1,050,000
3/31 (借) 棚卸減耗損 12,000 (貸) 商 品 12,000
(借) 商品評価損 18,400 (貸) 商 品 18,400
三分法(比較)
4/ 5 (借) 仕 入 1,200,000 (貸) 買 掛 金 1,200,000
4/20 (借) 売 掛 金 1,500,000 (貸) 売 上 1,500,000
3/31 (借) 仕 入 480,000 (貸) 繰 越 商 品 480,000
(借) 繰 越 商 品 380,000 (貸) 仕 入 380,000
対抗案1:三分法のまま、毎月末に棚卸をして粗利を出す
理屈の上ではこれで月次の粗利が出る。実際、小さな商店ではこの運用がある。 みずほ食品で試すと何が起きるか。 第2工場を含めて品目は120種類、原材料と製品を合わせて棚は数十列ある。 1回の実地棚卸に半日、製造ラインを止めて全員でかかる。これを年12回やると、 製造の稼働が年6日分消える。4月の粗利450,000円を知るために、 月商1,200,000円規模のラインを半日止める計算が合わない。
しかも、それだけやっても分からないものが残る。 三分法の帳簿には「あるはずの在庫」の数字が無いので、実地で368個と数えても、 それが正常なのか12個減っているのかを判定できない。 棚卸減耗損12,000円という数字は、帳簿の380個と現物の368個を突き合わせて初めて出る。 対立法は帳簿の側に在庫を持っているので、この突き合わせができる。
対抗案2:分記法(商品勘定1本で、売るたびに商品売買益を出す)
売った瞬間に原価を落とす点は対立法と同じで、仕訳は1行短くなる。 4/20 を分記法で書くとこうなる。
4/20 (借) 売 掛 金 1,500,000 (貸) 商 品 1,050,000
(貸) 商品売買益 450,000
壊れるのは、売上高1,500,000円という数字が帳簿から消える点だ。 損益計算書に載るのは商品売買益450,000円だけになる。 銀行に「年商はいくらか」と聞かれて、14,400,000円ではなく粗利4,700,000円しか答えられない。 売上高が無ければ、前年比も、業界平均との比較も、売上高営業利益率も出せない。 3級で分記法を退けた理由(boki3-ch04-s01)はここにあった。 売上原価対立法は、分記法の長所(期中に原価が分かる)だけを取り、 短所(売上高が消える)を潰すために、売上と売上原価を2行に分けて書いている。
Q. 売上原価対立法なら、決算整理はもう何も要らないのではないか。 A. 売上原価を作る仕訳は要らないが、実地棚卸とその差の処理は必要になる。 帳簿の商品380,000円は「売ったと記録した分を引いた残り」であって、 本当に倉庫にあるかどうかは別の話だからだ。 こぼれた、傷んだ、記録し忘れた、といったずれは必ず出る。 棚卸減耗損と商品評価損は、その帳簿と現実のずれを帳簿側に取り込むための処理で、 三分法でも対立法でも同じように出てくる。
Q. 期中に原価が分かるほうが明らかに便利なら、なぜ三分法が残っているのか。 A. 売った瞬間に原価を確定させるには、その商品の原価が販売時点で分かっている必要がある。 みずほ食品の3期目は、品目ごとに原価を持てるようになったから対立法に移れた。 1期目のように帳面と電卓でやっている段階では、レジを打つ人が原価を知らないので回らない。 つまり分かれ目は理屈ではなく、原価を引ける仕組みを持っているかにある。 試験では問題文が「売上原価対立法による」「三分法による」と指定するので、 そこを読み落とさないことが得点そのものになる。
Q. 棚卸減耗損と商品評価損は、損益計算書のどこに載るのか。 A. 商品評価損は原則として売上原価の内訳に含める。品質が落ちた分は、 売れた商品の原価と同じく本業の中で生じた目減りだからだ。 棚卸減耗損は、毎期ふつうに発生する程度のもの(原価性がある)なら売上原価または販売費に、 災害や異常な原因によるものなら営業外費用・特別損失に置く。 どちらも金額の計算は同じで、置き場所だけが原因によって変わる。 問題文に「棚卸減耗損は売上原価に算入する」といった指示が付くので、そこに従う。
flowchart TD
A[商品を仕入れた] --> B{原価をいつ確定させるか}
B -- 期末にまとめて逆算 --> C[三分法<br/>仕入・売上・繰越商品<br/>boki3-ch04-s01]
B -- 売った瞬間 --> D[売上原価対立法<br/>商品・売上・売上原価]
C --> E[決算整理<br/>しーくり・くりしー]
D --> F[期中いつでも売上総利益]
E --> G[実地棚卸]
D --> G
G --> H[棚卸減耗損<br/>数量の差]
G --> I[商品評価損<br/>単価の差]
H --> J[損益計算書の区分<br/>boki2-ch01-s02]
I --> J
D --> K[返品権付き販売の原価処理<br/>boki2-ch02-s02]
5月の連休明け、七海は新しい得意先マルヤマ食品の契約書を前に手が止まった。 4月25日に乾麺600ケースを納品済みで、伝票にも受領印がある。 それなのに、請求書が出せない。契約書に 「乾麺の納品および専用陳列ラックの設置が完了したのち、代金を一括して請求する」と書いてあるからだ。 ラックの設置は6月20日の予定になっている。
麺はもう相手の倉庫にある。こちらの在庫からは消えている。 3級で習ったとおりなら、引き渡した時点で売上を立て、売掛金を計上する (boki3-ch04-s02)。 しかし、いま七海が持っているのは売掛金だろうか。 請求書すら出せないものを「代金を請求する権利」と呼んでいいのか。
【要請】 ここで会計が用意した答えは、売上と請求権を切り離すことだった。
売上を立ててよいかどうかは、約束したことを果たしたかどうかで決まる。
乾麺600ケースを渡した時点で、その部分について約束は果たされている。
相手はその麺を自由に使えるし、こちらは返せと言えない。
これを「商品に対する支配が相手に移った」という。
支配が移った以上、その分の収益は3期目のものとして計上しないと、
麺を作って納めた期と、売上が立つ期がずれてしまう。
一方、代金を請求できるかどうかは契約の書きぶりの問題で、 ラック設置という別の約束が終わるまで待たされる。 売上は立つが、請求権はまだ確定していない。この宙に浮いた状態を置くための箱が契約資産になる。
【必然】 逆の順番になることもある。代金を先にもらい、麺を後で渡す場合だ。
現金は入っているが、約束はまだ果たしていない。
資産(現金)が増えた以上、貸方に何かが立たないと貸借が合わない。
そこに収益を立てると、渡していない麺の代金を今期の成績にしてしまう。
だから立てるのは麺を渡す義務、つまり負債になる。これが契約負債で、
3級で習った前受金と実質は同じものだ。
さらに厄介なのが返品だ。返品されるかもしれない分まで売上に立てると、 翌期に返品されたときに前期の売上を取り消すことになる。 統計的に5%返ってくると分かっているなら、その5%は最初から売上にしない。 返す義務を負債として立てておく。これが返金負債になる。
覚え方の取っ掛かりは「約束を果たしたかで売上、請求できるかで資産の名前が決まる」。 2つの問いを分けて持つのが、この節の全部と言っていい。
日本には長いあいだ、収益をいつ計上するかを定めた包括的な会計基準が無かった。 拠り所は企業会計原則の「売上高は、実現主義の原則に従い、商品等の販売 又は役務の給付によって実現したものに限る」というただ一文で、 細かいところは業種ごとの慣行と実務指針に委ねられていた。
国際的には、IASBとFASBが共同で作業を進め、2014年に収益認識の基準 (IFRS第15号/ASC Topic 606)を公表した。 契約の中の約束を1つずつ数え、履行義務を果たすたびに収益を認識する、という5ステップの考え方だ。 日本の企業会計基準委員会もこれに合わせ、2018年に「収益認識に関する会計基準」を公表し、 2021年4月1日以後に開始する事業年度から原則適用となった。 日商簿記2級に契約資産・契約負債・返金負債が入ってきたのは、この流れによる。
つまり、契約資産という科目が新しいのは日本の話であって、 「約束を果たしたら収益」という考え方自体は、 3級で習った売掛金の理屈(引き渡した瞬間に権利が生まれる)と地続きになっている。
で、幹の話に戻ると、収益認識基準は新しい理屈を持ち込んだのではなく、 業種ごとにばらばらだった「いつ売上か」の判断を1本の物差しに揃えたものだと見ると、 覚える科目の数がぐっと減る。
与信の現場で決算書を見ると、流動資産に「契約資産」という行が立っている会社がある。 金額だけ見ても意味が取れないので、売掛金との比率と、前期からの増え方を見る。
契約資産は、売上を計上したのに請求権がまだ確定していない金額だ。 つまり相手に請求書すら出していない売上が、そこに積み上がっている。 残高が売掛金に対して大きく、しかも前期から急に増えている会社は、 契約の最後の履行義務がなかなか終わらない状態にある可能性がある。 設備の据付が終わらない、検収が下りない、といった事情が典型で、 そのまま長引けば値引き交渉や契約解除に発展する。
回収の順番も違う。売掛金は期日が来れば入金されるが、契約資産は 残りの約束を果たして初めて売掛金になり、そこからさらに支払サイトを待つ。 資金繰り表を作るときに、契約資産を売掛金と同じ回収予定に並べると必ず狂う。 リース物件の代金支払や、設備投資の資金計画をこの前提で組んでいる会社は、 売上が伸びているのに現金が入らないという状態になりやすい。
で、幹の話に戻ると、契約資産と売掛金を分けて持つ意味は答案の作法ではなく、 同じ「売上の後に来る資産」でも、現金になるまでの距離が違うことを外から読めるようにする点にある。
似た名前が3つあるので、ここで整理しておく。
3級で習った前受金は、商品を渡す前に代金の一部または全部を受け取ったときの負債だった。 前受収益は、家賃や利息のように時の経過で発生する収益を先に受け取った分で、 決算整理で当期分と次期分に切り分けるために使う(boki3-ch12-s02)。 契約負債は、顧客との契約に基づいて対価を受け取った、あるいは受け取る期限が来たのに、 まだ約束した物やサービスを渡していない義務を指す。
前受金と契約負債は、指しているものがほぼ重なる。 収益認識基準では契約負債という呼び方に揃えるが、 貸借対照表に「前受金」と表示することも認められているので、 試験では問題文や答案用紙の科目一覧に従うのが早い。 前受収益は時の経過で解ける点が違い、こちらは契約負債とは別に残る。
で、幹の話に戻ると、名前は3つあっても中身は「まだ果たしていない約束」で共通していて、 どの言葉を使うかは基準と表示の問題にすぎない。
① マルヤマ食品との契約(契約資産)
契約総額1,000,000円。中身は2つの約束に分かれている。
| 履行義務 | 独立販売価格 | 完了日 |
|---|---|---|
| 乾麺600ケースの引渡し | 600,000 | 4月25日 |
| 専用陳列ラック10台の製作・設置 | 400,000 | 6月20日 |
代金は両方が完了したのちに一括請求し、翌月末入金という条件になっている。
② 揖斐川フーズとの定期便契約(契約負債)
3月1日に、4月からの1年分の乾麺代1,200,000円を先に受け取った。 毎月100,000円分ずつ納品していく契約になっている。
3期目に納品したのは3月分の100,000円だけ。 残りの1,100,000円は、まだ麺を渡していない分なので売上にできない。 期末の貸借対照表には契約負債1,100,000円が流動負債として並ぶ。
③ 大垣屋商店への返品権付き販売(返金負債)
2月15日、新商品の乾麺を売価2,000,000円(原価1,400,000円)で掛販売した。 新商品なので「売れ残った分は返品してよい」という条件を付けている。 過去の同種の販売実績から、5%が返品されると見積もった。
翌期4月に、実際の返品が売価80,000円分だったとする。 見積りより20,000円少なかったので、その分は売上に振り替える。 戻ってきた商品の原価は 80,000 × 70% = 56,000円で、 返品資産70,000円との差14,000円は売上原価に足す。
contract asset の訳語で、収益認識基準の用語として2018年に日本へ入ってきた。
契約単位でものを見るという基準の発想が、科目名にそのまま出ている。contract liability の訳語。
3級で習った前受金を、収益認識基準の用語に置き換えたものにあたり、
貸借対照表に前受金として表示することも認められている。refund liability。
返品を受けたときに代金を返す(あるいは売掛金を消す)義務なので、負債になる。マルヤマ食品の契約を、例えばの数字で5つの問いに通す。
一般化すると、収益認識は 「契約を見つける → 約束を数える → 金額を決める → 約束ごとに配る → 果たした分を売上にする」 という5つの順番になる。この順番のうち、2級で数字が動くのは主に4と5になる。
売上を立てたあと、借方に何を置くかは別の問いで決める。
返品権付き販売は、手順4の「金額を決める」で効いてくる。 2,000,000円のうち5%は返ってくると見込んでいるので、 最初から1,900,000円しか売上にしない。残り100,000円は返金負債。 原価の側も同じ割合で分け、返ってくる見込みの70,000円は費用にせず返品資産として資産に残す。 売上原価対立法で書いているので、原価の行が同時に出てくる点が第1節と繋がる。
① マルヤマ食品(契約資産)
4/25 (借) 契 約 資 産 600,000 (貸) 売 上 600,000
6/20 (借) 売 掛 金 1,000,000 (貸) 契 約 資 産 600,000
(貸) 売 上 400,000
7/31 (借) 当 座 預 金 1,000,000 (貸) 売 掛 金 1,000,000
② 揖斐川フーズ(契約負債)
3/ 1 (借) 当 座 預 金 1,200,000 (貸) 契 約 負 債 1,200,000
3/31 (借) 契 約 負 債 100,000 (貸) 売 上 100,000
③ 大垣屋商店(返金負債・返品資産)
2/15 (借) 売 掛 金 2,000,000 (貸) 売 上 1,900,000
(貸) 返 金 負 債 100,000
(借) 売 上 原 価 1,330,000 (貸) 商 品 1,400,000
(借) 返 品 資 産 70,000
翌期 4/10 実際の返品が売価80,000円だったとき
(借) 返 金 負 債 100,000 (貸) 売 掛 金 80,000
(貸) 売 上 20,000
(借) 商 品 56,000 (貸) 返 品 資 産 70,000
(借) 売 上 原 価 14,000
対抗案1:契約資産を使わず、すべて売掛金で処理する
科目が1つ減るので簡単に見える。壊れるのは、決算書を読む側の判断だ。 6月20日より前にみずほ食品が決算を迎えたとして、貸借対照表を2通りで並べる。
| 契約資産を分ける | すべて売掛金 | |
|---|---|---|
| 売掛金 | 3,600,000 | 4,200,000 |
| 契約資産 | 600,000 | ― |
| 流動資産 合計 | 4,200,000 | 4,200,000 |
合計は同じでも、意味がまったく違う。 上の表なら「請求済みで期日待ちが3,600,000円、まだ請求書も出せていないものが600,000円」と読める。 下の表では、4,200,000円すべてが期日待ちに見える。 実際にはその600,000円は、ラックの設置が終わるまで1円も請求できない。 設置が長引けば入金も遅れるし、契約が解除されれば売上ごと取り消される。 貸倒引当金を見積もる際も、 契約資産と売掛金では回収できない理由が違うので、同じ率を掛けると実態から離れる。
対抗案2:返品の見込みを無視して、2,000,000円を全額売上にする
見積りが要らないので事務は楽になる。数字で何が起きるかを見る。
| 見込みを織り込む | 全額売上にする | |
|---|---|---|
| 3期目の売上 | 1,900,000 | 2,000,000 |
| 3期目の売上原価 | 1,330,000 | 1,400,000 |
| 3期目の売上総利益 | 570,000 | 600,000 |
| 4期目に返品80,000円が起きたとき | 売上 +20,000/原価 +14,000 | 売上 △80,000/原価 △56,000 |
| 4期目の損益への影響 | +6,000 | △24,000 |
全額売上にすると、3期目の粗利が30,000円多く出て、その分が4期目にマイナスとして返ってくる。 金額が小さいうちは誤差に見えるが、返品率の高い商材で売上が10倍になれば300,000円の振れになる。 しかも、返品は決算期をまたいで起きるので、3期目は良く見え、4期目は悪く見えるという 一方向のゆがみになる。返品されると分かっているものを売上に立てるのは、 現金にならない収益を報告することと同じで、期間比較という会計の目的から外れる。
Q. 契約資産と売掛金は、結局どちらも「あとで入る金」ではないのか。 A. 入るまでの条件が違う。売掛金は、こちらがやるべきことを全部終えていて、 あとは支払期日が来るのを待つだけの状態を指す。 契約資産は、こちらにまだ果たすべき約束が残っている状態で、 その約束を果たせなければ請求権は生まれない。 法律の言い方をすれば、売掛金は債権として確定しているが、契約資産はまだ確定していない。 だから、どちらも資産ではあるが、現金になるまでの距離と、消えてしまうリスクが違う。
Q. 前受金という科目を使ってはいけないのか。 A. 使ってよい場面がある。収益認識基準は契約負債という用語を使うが、 貸借対照表の表示としては前受金という科目名も認められている。 3級で習った前受金の理屈(渡していないから負債)は何も変わっていない。 試験では答案用紙の科目一覧や問題文の指示にどちらが載っているかで決まるので、 中身は同じで呼び名が2つあると押さえておけば迷わない。
Q. 返品の見積りが外れたら、前期の決算をやり直すのか。 A. やり直さない。見積りは、その時点で得られる情報に基づいて行うもので、 後から実績が違っても過去の決算は動かさない。 差は実際に返品が起きた期に調整する。みずほ食品の例なら、 見積り100,000円に対して実際の返品が80,000円だったので、差の20,000円を4期目の売上に振り替えた。 同じ考え方は3級の貸倒引当金でも出てきた (boki3-ch08-s01)。見積りは当たらなくてよく、差を翌期で調整するのが型になる。
flowchart TD
A[顧客と契約を結んだ] --> B{約束を果たしたか}
B -- まだ --> C{対価を受け取ったか}
C -- 受け取った --> D[契約負債<br/>負債]
C -- まだ --> E[仕訳なし]
B -- 果たした --> F[売上を計上]
F --> G{請求権は確定したか}
G -- 確定 --> H[売掛金<br/>boki3-ch04-s02]
G -- 他の履行義務が残る --> I[契約資産]
I --> H
F --> J{返品されそうな分があるか}
J -- ある --> K[返金負債+返品資産]
K --> L[売上原価の調整<br/>boki2-ch02-s01]
D --> M[前受金・前受収益との整理<br/>boki3-ch06-s02]
H --> N[貸倒れの見積り<br/>boki2-ch03-s02]
3期目の10月、大垣屋商店の専務から妙な相談が来た。 店で出す麺のメニューを一緒に考えてほしい、という話だった。 麺を売るのではなく、麺の使い方を教える。 社長は「銭になるならやる」と即答し、開発料400,000円で引き受けた。
2月には、揖斐川フーズから工場の製麺ラインを立ち上げる指導の依頼が来た。 契約額1,200,000円、期間は3月から翌年5月まで。着手金として600,000円を先に受け取った。
七海は帳簿の前で困った。この仕事には、渡す物が無い。 麺なら倉庫から出ていく瞬間があり、そこで売上を立てればよかった。 技術指導には出ていく物が無いので、いつ売上にしてよいのかが自分では決められない。 かかった費用のほうも困る。技術者の給料と出張費は毎月出ていくが、 その支出は10月のものなのか、指導が終わる翌期5月のものなのか。
【要請】 費用収益対応の考え方をそのまま当てると、答えは一本に決まる。
指導のためにかかった費用は、その指導の代金を受け取る期の費用でなければならない。
3期目に480,000円払って、収益が4期目に1,200,000円立つなら、
3期目は480,000円の赤字、4期目は1,200,000円まるごとの黒字になり、
どちらの期も本当の姿を表さない。
だから、まだ収益になっていない仕事にかかった費用は、費用のまま置かずに資産として持ち越す。
その置き場が仕掛品になる。
【由来】 「役務」は service にあたる語として法令や会計で使われてきた漢語で、
「役」も「務」もつとめ・はたらきを指す。物ではなく人のはたらきを提供する取引、という中身が
そのまま漢字に出ている。※覚え方として、「役務収益=はたらきを提供して得た収益、
役務原価=そのはたらきにかかった原価」と読み下すと、
売上・売上原価と1対1で対応していることが見えてくる。
【必然】 そして、収益をいつ立てるかは前節の話がそのまま効く。
物が動かなくても、約束を果たしたかどうかという物差しは同じだ。
メニュー開発は10月に納品して終わったので10月に収益。
製麺ライン指導は翌期5月に完了するので、3期目には1円も収益に立たない。
先に受け取った600,000円は、渡していない仕事の代金なので契約負債になる。
仕掛品(しかかりひん)は、もともと工業簿記の科目だ。 製造途中の製品、つまり原材料でもなく完成品でもない状態のものを指す。 小麦粉が製麺機に入って、まだ袋詰めが終わっていない麺がこれにあたる。
サービス業がこの科目を借りているのは、状態がまったく同じだからだ。 技術者が3か月動いて、まだ指導が完了していない。 支出は済んでいるが、収益にはなっていない。 物としての形が無いだけで、費用と収益のあいだで宙に浮いているという点は製造途中の麺と変わらない。
そのため、決算での扱いも同じになる。仕掛品は資産として貸借対照表に残り、 完成(=役務の提供完了)したときに費用へ振り替えられる。 製造業なら仕掛品→製品→売上原価、サービス業なら仕掛品→役務原価という順路になる。 名前が違うだけで、支出をいったん資産に留め、収益が立つ期に費用へ落とすという骨格は共通している。
で、幹の話に戻ると、仕掛品という科目に身構える必要はなく、 繰越商品や前払費用と同じ 「まだ費用にしない置き場」の一種だと見ればいい。
取引先の損益計算書で、売上高が「商品売上高」と「役務収益」に分かれていることがある。 このとき、粗利率を全体で1本にして見ると判断を誤る。
物販は原価率が7割、8割になることが珍しくないが、 サービスの原価は人件費が中心なので、原価率が5割を切ることもある。 両方を持つ会社の全体粗利率が前期より改善していても、 物販が落ちてサービスの比率が上がっただけ、ということが起きる。 売上構成が変わったのか、本当に稼ぐ力が上がったのかは、区分ごとに見ないと分からない。
資金の動き方も違う。サービスは先に人件費が出ていき、完了して初めて請求できる。 仕掛品と契約負債の残高が両方大きい会社は、着手金で回している状態にあることが多い。 着手金が止まると資金繰りが一気に細るので、受注残と着手金の条件まで見にいく。 設備投資の相談を受けたときに、決算書の売上だけで判断できないのはこのためだ。
で、幹の話に戻ると、役務収益と役務原価を売上・売上原価と分けて持つのは、 商売の性質が違うものを1本にまとめると読めなくなるからで、 科目を分ける理由はここでも「外から中身が見えるようにするため」になる。
① メニュー開発(当期に完了)
| 日付 | 内容 | 金額 |
|---|---|---|
| 10/5 | 担当した技術者の給料を支払 | 180,000 |
| 10/5 | 大垣屋商店への出張の旅費を支払 | 70,000 |
| 10/20 | この案件のためにかかった分を集計 | 250,000 |
| 10/31 | メニューを納品し、開発料を請求 | 400,000 |
役務収益400,000円、役務原価250,000円。 この仕事の売上総利益は 400,000 − 250,000 = 150,000円、利益率は37.5%になる。
② 製麺ライン立上げ指導(当期は未完了)
| 日付 | 内容 | 金額 |
|---|---|---|
| 2/10 | 着手金を当座預金で受領 | 600,000 |
| 3/25 | 3月までにかかった技術者の給料 | 350,000 |
| 3/25 | 同じく出張旅費 | 130,000 |
| 3/31 | 決算日。指導はまだ完了していない | ― |
3期目の損益計算書に、この案件から出てくる金額はゼロになる。 役務収益も役務原価も立たない。代わりに貸借対照表に2つ残る。
翌期5月に指導が完了すると、そこで初めて 役務収益1,200,000円と役務原価480,000円が立ち、利益720,000円が4期目のものになる。 現金は3期目に600,000円入り、費用も3期目に480,000円出ているのに、 損益はどちらも4期目に計上される。この期ずれこそが、この節で押さえる形になる。
service にあたる語で、「役」も「務」もつとめ・はたらきを指す。
物ではなく人のはたらきを提供して得た収益、という中身がそのまま漢字に出ている。
※覚え方として「はたらきを売って得た収益」と読み下すとよい。メニュー開発の案件を、例えばの数字で1回通す。
未完了の案件は、手順3と4に進まないまま決算を迎える。
一般化すると、サービス業の処理は 「支出 → 仕掛品(資産に留める)→ 提供完了 → 役務収益と役務原価を同時に立てる」 という4段階になる。三分法の商品が「仕入 → 繰越商品 → 売上原価」と動くのと同じ形で、 物が無い分だけ、資産に留める判断を案件が終わったかどうかで行う点が違う。
なお、サービスの提供が一定の期間にわたって進んでいく契約では、 進捗度に応じて期間中に収益を認識する扱いもある。 2級では、問題文が「役務の提供が完了した」「進捗度に応じて」と明示するので、 その一文を先に探すのが金額を合わせる近道になる。
① メニュー開発(当期完了)
10/ 5 (借) 給 料 180,000 (貸) 当 座 預 金 180,000
(借) 旅費交通費 70,000 (貸) 当 座 預 金 70,000
10/20 (借) 仕 掛 品 250,000 (貸) 給 料 180,000
(貸) 旅費交通費 70,000
10/31 (借) 売 掛 金 400,000 (貸) 役 務 収 益 400,000
(借) 役 務 原 価 250,000 (貸) 仕 掛 品 250,000
② 製麺ライン指導(当期未完了)
2/10 (借) 当 座 預 金 600,000 (貸) 契 約 負 債 600,000
3/25 (借) 仕 掛 品 480,000 (貸) 給 料 350,000
(貸) 旅費交通費 130,000
3/31 決算:仕掛品480,000と契約負債600,000を貸借対照表に残す(仕訳なし)
翌期 5/20 指導完了
(借) 契 約 負 債 600,000 (貸) 役 務 収 益 1,200,000
(借) 売 掛 金 600,000
(借) 役 務 原 価 480,000 (貸) 仕 掛 品 480,000
対抗案1:着手金を受け取った時点で役務収益にする
現金が入った日に売上を立てるので、判断に迷わない。数字で2期分を並べる。
| 完了時に収益 | 着手金を受領時に収益 | |
|---|---|---|
| 3期目の役務収益 | 0 | 600,000 |
| 3期目の役務原価 | 0 | 480,000 |
| 3期目の損益 | 0 | +120,000 |
| 4期目の役務収益 | 1,200,000 | 600,000 |
| 4期目の役務原価 | 480,000 | 0 |
| 4期目の損益 | +720,000 | +600,000 |
2期を通算すればどちらも720,000円で一致する。違うのは配り方だ。 右の列では、3期目に費用480,000円をぶつけて利益120,000円、 4期目は費用ゼロで利益600,000円になる。 同じ1本の仕事なのに、儲けが2つの期に不自然に割れる。 指導そのものは翌期5月まで続いていて、3期目の時点では相手に何も渡し終えていない。 渡していないものの代金を成績にすると、翌期に契約が解除されたときに前期の利益を取り消すことになる。
対抗案2:仕掛品を使わず、支出した期の費用のままにする
給料も旅費も現に払っているのだから費用でよい、という発想はありうる。 これも数字で見る。
| 仕掛品に留める | 支出した期の費用 | |
|---|---|---|
| 3期目の役務収益 | 0 | 0 |
| 3期目の費用 | 0 | 480,000 |
| 3期目の損益 | 0 | △480,000 |
| 4期目の役務収益 | 1,200,000 | 1,200,000 |
| 4期目の費用 | 480,000 | 0 |
| 4期目の損益 | +720,000 | +1,200,000 |
右の列では、3期目が480,000円の赤字、4期目が1,200,000円の黒字になる。 みずほ食品の本業の当期純利益が800,000円規模であることを思い出すと、 この1件だけで3期目は6割の減益、4期目は1.5倍の増益に見える。 仕事の中身は3期目も4期目も変わらず進んでいるのに、決算書は激しく上下する。 銀行が2期分を並べて業績の傾向を読もうとしても、読めるのは処理の癖だけになる。 費用と収益を同じ期に対応させるという要請から、この案は採れない。
Q. 物を渡していないのに、なぜ「原価」という言葉を使うのか。 A. 原価は物の値段のことではなく、その収益を得るために費やしたものを指している。 麺なら小麦粉と製造にかかった金額、技術指導なら技術者の時間と移動にかかった金額。 どちらも「売った物・提供したはたらきに直接ひもづく支出」という点で同じ性格を持つ。 だから損益計算書でも同じ位置(売上高の直下)に並び、 差額がその商売の売上総利益になる。物の有無ではなく、対応関係のほうが本質になる。
Q. 指導が3年がかりの契約だったら、3年間ずっと収益ゼロなのか。 A. その場合は、一定の期間にわたって履行義務が充足されると判断し、 進捗度に応じて各期に収益を配る扱いになる。 たとえば3年で3,000,000円の契約の1年目に、費やした原価が全体の見積り原価の30%に達していれば、 900,000円を1年目の役務収益にする。 2級では問題文が「役務の提供が完了した時点で」あるいは「進捗度に応じて」と明示するので、 先にその一文を探すのが金額を合わせる手順になる。
Q. 仕掛品と、3級で習った前払費用は何が違うのか。 A. どちらも「まだ費用にしない置き場」だが、待っている理由が違う。 前払費用は、家賃や保険料のように時が経てば費用になるもので、 決算日から先の期間に対応する分を資産に戻している(boki3-ch12-s02)。 仕掛品は、時が経っても費用にはならない。 その案件の収益を立てる日が来たときに、初めて役務原価へ姿を変える。 時間で解けるか、収益で解けるかが分かれ目になる。
flowchart TD
A[サービスの仕事を受注] --> B{代金を先に受け取ったか}
B -- 受け取った --> C[契約負債<br/>boki2-ch02-s02]
A --> D[給料・旅費などを支出]
D --> E[案件に直接かかった分を集計]
E --> F[仕掛品<br/>資産に留める]
F --> G{役務の提供は完了したか}
G -- まだ --> H[決算:仕掛品のまま繰越]
G -- 完了 --> I[役務収益]
G -- 完了 --> J[役務原価]
C --> I
I --> K[損益計算書の売上高区分<br/>boki2-ch01-s02]
J --> K
F -.同じ発想.-> L[繰越商品・前払費用<br/>boki3-ch12-s02]
正解: 3
正解: 2
正解: 1
正解: 4
正解: 2