みずほ食品も創業から半年が過ぎ、帳面に出てくる名前が増えてきた。 第4章で売掛金と買掛金を覚え、第5章で手形を覚えた七海が、 次の壁にぶつかる。「後でもらえる金」の科目が、売掛金のほかに未収入金・前払金・立替金・仮払金と4つも出てくる。 「後で払う金」も買掛金のほかに未払金・前受金・預り金・仮受金と4つある。全部で14個。
ここで「多いから覚える」に走ると必ず崩れる。実際には、細かく分かれているのには理由があって、 分け方の軸はたった3本しかない。
この3本の軸が引かれているのは、帳面を後から読む人(銀行・税務署・次の経理担当)が、 残高を見ただけで「その債権はどのくらい確実に回収できるのか」を判断できるようにするためだ。 科目名は分類のラベルであって、暗記カードではない。この章はその3本の軸を1本ずつ通していく。
給与から所得税を差し引いて会社が納める源泉徴収制度は、世界的にはそれほど古いものではない。 日本では1899年(明治32年)に公社債の利子について源泉徴収が始まり、 給与に適用されたのは1940年(昭和15年)の税制改正からだとされる。 当時は戦時下で、税を確実に、しかも早く集める必要があった。 納税者一人ひとりから申告を待って徴収するより、給与を払う会社にまとめて差し引かせるほうが、 取りこぼしがなく、入金も早い。ドイツの制度を参考にしたという説明が一般的だ。
つまり源泉徴収は、従業員の便宜のためというより、徴収する側の効率のために作られた仕組みで、 会社は税務署の代わりに集金を任されている立場になる。 だから預かった税金は会社の金ではないし、納付が遅れれば会社が不納付加算税を負う。 帳面の上で預り金という負債にしておくのは、この立場を正確に映した形だ。
会社の金庫にあるのに会社の金ではない、という感覚が持てれば、 預り金を収益にしてしまう間違いは起きなくなる。
前払金として処理する手付金は、もともと「契約をやめる権利の値段」という性格を持っている。 日本の民法では、買主が手付を交付した場合、相手が契約の履行に着手するまでは、 買主は手付を放棄すれば、売主は手付の倍額を返せば、契約を解除できると定めている。 これがいわゆる「手付流し」「手付倍返し」で、不動産の売買でよく耳にする言葉だ。
ローマ法の arra(アッラ)という制度に遡るとされ、
契約が口約束だけでは頼りなかった時代に、少額の金を先に渡すことで
「本気である」ことを示し、同時に「やめるならこれを失う」という縛りをかけた。
物々交換に近い商いの中で、契約そのものを担保する工夫として生まれたものだ。
みずほ食品が西美濃製粉に渡した100,000円も、法律上はこの性格を持つ。 だからこそ、渡した時点で小麦粉を受け取る権利が確定するわけではなく、 仕入として費用に落とすこともできない。届いてはじめて仕入になる。 「前払金は仕入ではない」という処理の根拠は、実はこの契約の構造にある。
9月のある日、揖斐川フーズの専務が工場に来て社長に切り出した。 「秋の設備入替で500,000円だけ足りない。半年で返すから融通してくれないか」。 社長は帳面をめくって現金の余裕を確かめ、9月1日に500,000円を渡した。 そのとき七海が最初に書きかけた仕訳が「支払○○ 500,000/現金 500,000」だった。これが違う。
【必然】 貸した500,000円は費用にならない。会社の財産は減っていないからだ。
現金という形の財産が、「半年後に返してもらえる権利」という形の財産に変わっただけで、
これは第1章で見た「現金が製麺機に姿を変えた」のとまったく同じ構造をしている。
だから借方に立つのは費用ではなく資産で、その資産の名前が貸付金になる。
覚え方の取っ掛かりは「貸した金は、返ってくるまで会社の財産のまま」。
そして、貸し借りにはもう1つ必ず金額が付いてくる。利息だ。
【要請】 元本と利息を別々の科目で書くのは、この1年でいくら稼いだかを測りたいから。
元本の500,000円は何度貸して何度返してもらっても会社の儲けにならないが、
利息は貸したことによって新しく生まれた儲けで、会社の成績そのものになる。
同じ入金でも性格がまったく違うので、混ぜて記録すると成績が読めなくなる。
「利息」の息は、利子の子と同じで「元本が生んだもの」を指す。元となる金が子を生む、という発想が 漢字にそのまま残っている。日本の法律用語では利息(契約で生じるもの)と利子(主に公社債などから生じるもの)を 使い分ける場面があるが、簿記では受け取れば受取利息、払えば支払利息の2語で足りる。
英語の interest のほうは事情が違う。語源はラテン語の interesse(間にある・差し引きになる)で、
もともと「差額」を意味した。中世ヨーロッパでは教会が利子を取ることを厳しく戒めていたため、
貸し手は「利子」とは呼ばず、返済が遅れたことで自分に生じた損失の埋め合わせ、
すなわち id quod interest(差し引きで生じた分)という名目で受け取った、という説が有力だ。
禁じられていたものが、名前を変えて生き延びたことになる。
で、幹の話に戻ると、利息は元本とは別に生まれた「差額」であって元本の一部ではない。 だから仕訳でも、元本(貸付金)と利息(受取利息)は必ず別の行に分けて書く。
みずほ食品の1期目に実際に起きた貸し借りは、次の2件だけだ。
| 日付 | 内容 | 元本 | 年利率 | 期間 |
|---|---|---|---|---|
| 9/1 | 揖斐川フーズへ貸付(現金) | 500,000 | 年2% | 6か月(3/1返済) |
| 4/8 | 大垣中央銀行から借入 | 2,000,000 | 年3% | 利息は半年ごと後払い |
貸付のほうから見る。500,000円を1年貸したら、利息は 500,000 × 2% = 10,000円。 今回は半年しか貸していないので、その半分の5,000円になる。 3月1日に返してもらう金額は、元本500,000 + 利息5,000 = 505,000円。 この5,000円が、みずほ食品の1期目の損益計算書に載っている受取利息5,000円の正体だ。
借入のほうは、2,000,000円に年3%なので1年で60,000円。契約では半年ごとの後払いなので、 9月30日に30,000円、3月31日に30,000円を当座預金から支払う。 さらに3月31日には元本のうち500,000円を返済したので、期末の借入金残高は1,500,000円になる。 第1章の貸借対照表に載っている借入金1,500,000円は、こうして出てきた数字だ。
まず揖斐川フーズの1件で、数字を追ってみる。
同じことを借入側でやると、2,000,000 × 0.03 = 60,000円が1年分、半年分はその半分で30,000円になる。
一般化すると、利息 = 元本 × 年利率 × 月数 ÷ 12。 この式が「年利率」から始まっているのは、契約書に書いてある利率が原則として年あたりの率だからだ。 月数を12で割るのは、年に決められた率を、実際に貸した長さの分だけ切り出しているにすぎない。 なお試験では日数で指示されることもあり、その場合は月数/12 が 日数/365 に変わるだけで考え方は同じ。
9/1 (借) 貸 付 金 500,000 (貸) 現 金 500,000
3/1 (借) 現 金 505,000 (貸) 貸 付 金 500,000
(貸) 受取利息 5,000
9/30 (借) 支払利息 30,000 (貸) 当座預金 30,000
3/31 (借) 借 入 金 500,000 (貸) 当座預金 530,000
(借) 支払利息 30,000
対抗案1:貸した500,000円をその場で費用にする
「金が出ていったから費用」と考えると、9月1日に費用が500,000円立つ。 みずほ食品の1期目の当期純利益は800,000円だったので、これをやると 800,000 − 500,000 = 300,000円まで落ちる。 そして3月1日に返してもらった505,000円は、費用の相手がないので全額を収益にするしかない。 結果、9月と3月にまたがって500,000円の費用と505,000円の収益という架空の商売が帳面に残る。 売上高11,500,000円のなかに、麺を売っていない505,000円が紛れ込むことになり、 利益率も売上規模も実態から離れる。貸し借りは損益ではなく、財産の形の入れ替えだ。
対抗案2:返済時に505,000円をまとめて貸付金の回収とする
一見すると帳尻は合いそうに見える。だが貸付金の残高を見ると、借方に500,000、貸方に505,000で、 残高がマイナス5,000円になる。資産の残高がマイナスになることは、権利の性質上ありえない。 さらに受取利息が計上されないので、損益計算書の収益は 11,500,000円だけになり、 1期目の当期純利益は800,000円ではなく795,000円になる。 利息という「貸したことで稼いだ分」が、帳面のどこにも残らない。
Q. 貸付金も売掛金も「後で金をもらえる権利」なのに、なぜ科目を分けるのか。 A. 回収できる確からしさと、回収までの長さがまったく違うからだ。 売掛金は麺を納品した対価で、普通は1〜2か月で入ってくる。貸付金は相手の資金繰りを助けた金で、 返済は半年後・1年後になることが多く、相手が傾けば真っ先に焦げ付く。 第8章で出てくる貸倒引当金の見積率も、 売掛金と貸付金では変える場面がある。一緒の箱に入れてしまうと、この判断ができない。
Q. 利息は月割りでよいのか。実際は日数で計算しているはずだが。 A. 実際の金融取引は日数計算(日割り)が原則で、契約書にも「年365日日割り」と書いてある。 簿記の試験で月割りを使うのは、論点が利息の日数計算ではなく、元本と利息を分けられるかどうかにあるためで、 問題文に「月割りで計算すること」と指示が付く。日数が与えられたときは 日数/365 に置き換えればよく、 式の骨格(元本 × 年利率 × 期間の割合)は変わらない。
Q. 決算日をまたぐ利息はどう扱うのか。 A. たとえば9月30日と3月31日に半年分ずつ払う契約なら、決算日と支払日が一致しているので問題は起きない。 だが「12月31日と6月30日に半年分ずつ」という契約なら、1月から3月までの3か月分の利息は 発生しているのにまだ払っていない状態で決算を迎える。 この3か月分を当期の費用に加える処理が未払費用で、 第12章の見越し・繰延べで正面から扱う。この節では支払日と決算日が揃った形だけ見ている。
flowchart LR
A[金を渡す・受け取る] --> B{相手に返す義務があるか}
B -- 返してもらう --> C[貸付金<br/>資産]
B -- 返す --> D[借入金<br/>負債]
C --> E[受取利息<br/>収益]
D --> F[支払利息<br/>費用]
C -.手形を受け取ったら.-> G[手形貸付金<br/>boki3-ch05-s03]
E --> H[決算をまたぐ利息<br/>boki3-ch12-s02]
F --> H
12月に入って、みずほ食品では商品売買ではない金の約束が4件も重なった。 工場のシャッターが壊れて修理を頼んだが支払は翌月末、火災保険の補償内容を見直して払いすぎた保険料が戻ることになったが入金は翌月末、 西美濃製粉には来期の小麦粉を予約して手付金を先に渡し、大垣屋商店からは3月納品分の代金を先に受け取った。
七海はこの4件を全部、売掛金と買掛金で処理しようとした。実際それでも貸借は合う。 それでも科目を分けるのは、この4件が「いつ・何と引き換えに決着するか」でまったく違うからだ。
【要請】 分ける軸は2本ある。1本目は本業の商品売買から生じたものか。
麺を売った代金なら売掛金、シャッターの修理代なら未払金になる。
これは、売上と売掛金の残高を並べて「代金の回収に何日かかっているか」を測れるようにするための線引きで、
麺以外の取引が混ざると、その指標がそのまま狂う。
2本目は先に動いたのがモノ(サービス)かカネか。
先にモノが動いた(渡した・受け取った)なら未収入金・未払金、先にカネが動いたなら前払金・前受金になる。
覚え方の取っ掛かりは「未は物が先、前は金が先」。
| 日付 | 内容 | 先に動いたもの | 科目 | 金額 |
|---|---|---|---|---|
| 12/15 | 工場のシャッター修理、支払は1月末 | 修理というサービス | 未払金 | 150,000 |
| 12/20 | 火災保険の見直しで保険料が戻る、入金は1月末 | 保険という役務の減少 | 未収入金 | 80,000 |
| 2/20 | 西美濃製粉へ来期用小麦粉の手付金を現金で支払い | 現金 | 前払金 | 100,000 |
| 3/5 | 大垣屋商店から3月末納品分の代金を先に受け取り | 現金 | 前受金 | 200,000 |
上2件は、モノやサービスの受渡しがもう済んでいて、残っているのは金の授受だけ。 だから決着は「払う/受け取る」で終わる。 下2件は逆に、金だけが先に動いていて、モノはまだ動いていない。 だから決着は「小麦粉が届く」「麺を納品する」というモノの受渡しで起きる。
実際、3月25日に小麦粉が届いて前払金100,000円は仕入に振り替わり、 3月28日に麺を納品して前受金200,000円は売上に振り替わった。 だから第1章の期末貸借対照表には、前払金も前受金も残っていない。
なお、未収入金のいちばん有名な発生原因は固定資産の売却代金だ。 使わなくなった機械を売って代金が後日になる場面がそれで、 そちらは第7章で売却損益と一緒に扱う。
名前が似ているせいで最も混同されるのが、前払金と前払費用だ。 どちらも「先に払った」状態で、どちらも資産。それでも別の科目にしてある理由は、 先に払った相手から、何を受け取る権利なのかが違うからだ。
前払金は、物やサービスそのものを受け取る権利。西美濃製粉に100,000円の手付金を払ったら、 その100,000円分の小麦粉を受け取る権利が残る。時間が経っても権利は減らない。 1月経とうが3月経とうが、小麦粉が届くまでは100,000円のままだ。
前払費用は、時間の経過に対して払った分の未経過部分。1年分の家賃2,400,000円を前払いすると、 1か月経つごとに200,000円ずつ権利が減っていく。決算では「まだ経過していない月数分」だけが資産として残る。 だから前払費用は、決算整理で必ず月数按分の計算が入る(第12章)。 前払金にはこの按分がない。届いていない小麦粉を「3か月経ったから4分の1は費用」とは計算できない。
で、幹の話に戻ると、前払金かどうかは「按分できるか」で見分けられる。 時間で切り分けられるなら前払費用、モノの引渡しを待っているだけなら前払金だ。
新しい債権債務に出会ったら、次の2問を順に聞けば必ず1つに決まる。3月5日の200,000円で通してみる。
次に12月15日の150,000円。モノ(修理という役務)が先に済んで、支払だけ残っている。よって未収入金か未払金。 こちらは払う側なので未払金。負債なので増えたら貸方。ここで「本業の商品か」と聞けば、 シャッターの修理は麺の仕入ではないので買掛金ではない、と確認できる。
一般化すると、この4科目は次の2×2の表に収まる。
| こちらが受け取る側(資産) | こちらが払う側(負債) | |
|---|---|---|
| モノが先(受渡し済み・金が未決済) | 未収入金 | 未払金 |
| カネが先(入金済み・受渡しが未了) | 前払金 | 前受金 |
12/15 (借) 修 繕 費 150,000 (貸) 未 払 金 150,000
12/20 (借) 未収入金 80,000 (貸) 保 険 料 80,000
1/31 (借) 未 払 金 150,000 (貸) 現 金 150,000
2/20 (借) 前 払 金 100,000 (貸) 現 金 100,000
3/25 (借) 仕 入 100,000 (貸) 前 払 金 100,000
3/5 (借) 現 金 200,000 (貸) 前 受 金 200,000
3/28 (借) 前 受 金 200,000 (貸) 売 上 200,000
対抗案1:4件とも売掛金・買掛金で処理する
貸借は合うし、決算までに全部決済されるので、期末残高も同じになる。壊れるのは期中の指標だ。 みずほ食品の1期目の売上は11,500,000円、期末の売掛金は900,000円で、 売掛金 ÷ (売上 ÷ 365) を計算すると回収まで約28.6日という数字が出る。 ここに保険の返戻金80,000円を混ぜると売掛金は980,000円になり、同じ計算で約31.1日。 麺の回収条件は1日も変わっていないのに、指標だけが2.5日悪化する。 さらに第8章で売掛金残高の2%を貸倒引当金として積むと、 保険会社から確実に戻ってくる80,000円にまで 1,600円の引当金を積むことになる。 科目を分けるのは几帳面さではなく、指標と見積りを壊さないためだ。
対抗案2:3月5日に受け取った200,000円をその場で売上にする
現金は確かに入っている。だが3月5日時点で麺は1食も渡していない。 もしこの直後に工場が止まって納品できなくなれば、200,000円は返さなければならない。 それでも売上に立ててしまうと、返す義務が帳面のどこにも残らない。 金額でも見てみる。仮に3月28日の納品が4月にずれ込んだとすると、 売上に立てた場合の1期目の売上は11,500,000円だが、この200,000円分の仕入原価は翌期に立つ。 売上だけ当期、原価は翌期という形になり、当期の利益が過大に、翌期の利益が過小に出る。 収益は「こちらの仕事が終わった時点」で立てる、という線を守るために前受金という置き場が要る。
Q. 「本業の商品か否か」は、どこで線を引くのか。うちが機械屋なら機械の売却は売掛金になるのか。 A. そのとおりで、線は業種ではなくその会社が何を売って商売にしているかで引く。 機械を仕入れて売る商社なら、機械の販売代金は売掛金。みずほ食品が使っていた機械を手放したなら未収入金。 同じ機械でも、売った会社にとっての位置づけで科目が変わる。 判定に迷ったら「これは損益計算書の売上高に載る取引か」と聞くとよい。載るなら売掛金、載らないなら未収入金。
Q. 前受金を受け取ったら、消費税はどうなるのか。 A. 3級の消費税は税抜方式で、原則として商品を引き渡した時点で売上と 仮受消費税を計上する。前受金を受け取った時点では、まだ引渡しが終わっていないので売上も計上されない。 つまり前受金は税込・税抜の区別が出てこない預り的な性格の負債として置いておき、 引渡し時に売上と仮受消費税へ振り替える。 実務では前受金に消費税を含めて請求する場面があるが、3級の出題では引渡し時点で処理すると考えて差し支えない。
Q. 未収入金と未収収益は、結局どこが違うのか。 A. 発生の原因が「1回きりの取引」か「時間の経過」かで分かれる。 機械を売った代金や保険の返戻金は、その1件で発生して終わるので未収入金。 貸付金の利息や、貸している駐車場の賃料は、日が経つごとに少しずつ発生するので未収収益。 言い換えると、未収収益は決算日に「経過した分だけ」を計算して初めて姿を現す科目で、 第12章の決算整理で登場する。未収入金は期中の取引でその場で立つ。
flowchart TD
A[債権債務が生まれた] --> B{本業の商品売買か}
B -- はい --> C{どちらが先か}
B -- いいえ --> D{どちらが先か}
C -- モノが先 --> E[売掛金・買掛金<br/>boki3-ch04-s02]
C -- カネが先 --> F[前払金・前受金]
D -- モノが先 --> G[未収入金・未払金]
D -- カネが先 --> F
F -.時間に対する対価なら.-> H[前払費用・前受収益<br/>boki3-ch12-s02]
G -.時間に対する対価なら.-> I[未収収益・未払費用<br/>boki3-ch12-s02]
7月25日、みずほ食品ではじめての給与支払日が来た。パート職員を含めて総額600,000円。 ところが社長が実際に手渡したのは510,000円だった。差額の90,000円は会社が抜いたのではなく、 所得税30,000円と社会保険料の本人負担分60,000円を、会社が本人に代わって一時的に持っている金だ。 税務署や年金事務所へ払うのは翌月になる。この1か月、90,000円は会社の金庫にあるが会社の金ではない。
この節に出てくる6つの科目は、どれもこの「会社の金庫にあるが、会社の損得ではない金」を扱う。 性格で3組に分かれる。
【必然】 1組目は誰の負担かがズレているもの。会社が他人の負担分を先に払えば立替金(資産)、
他人の負担分を会社が一時的に持っていれば預り金(負債)。
どちらも会社の費用でも収益でもない。負担者が別にいる以上、会社の損益に触れてはいけない。
【要請】 2組目は中身がまだ確定していないもの。金は動いたが、何の取引かが決まっていない。
出ていったなら仮払金、入ってきたなら仮受金。
これは第3章の現金過不足とまったく同じ性格で、
決算までに必ず中身を突き止めて正しい科目へ振り替える、期限付きの一時置き場だ。
3組目は現金ではないが現金に近い受取物で、受取商品券と差入保証金。 どちらも「後で金に戻る権利」を持っているので資産になる。
決算書を見て取引先の状態を推し量る場面で、預り金は意外な情報を持っている。 給与から差し引いた所得税は、原則として支払った月の翌月10日までに納付する。 社会保険料も翌月末が納期限だ。つまり正常に回っている会社なら、 決算日の預り金残高はおおむね1か月分に収まる。
これが2か月分、3か月分と積み上がっている会社は、納付できていない可能性がある。 源泉所得税の滞納は、金額こそ小さくても「従業員から預かった金にまで手を付けている」ことを意味するので、 資金繰りの逼迫を示す信号として重く見られる。実際、社会保険料の滞納があると分割納付の誓約書が求められ、 その事実は金融取引の場面でも確認されることが多い。 逆に、預り金が月次でぴたりと入れ替わっている会社は、少なくとも納付の管理はできている。
同じことは立替金にも言える。役員や関係会社への立替金が何年も残高として残っている場合、 それは実質的に回収予定のない貸付金であることが多く、 資産として額面どおりには評価されない。
で、幹の話に戻ると、立替金も預り金も「会社の損得ではない金」だからこそ、 残高がいつまでも動かないこと自体が異常の合図になる。だから科目を分けて残高を追える形にしておく。
| 日付 | 内容 | 科目 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 6/10 | 職員が個人で申し込んだ資格講座の受講料を会社が立替払い | 立替金 | 20,000 |
| 7/25 | 給与600,000から所得税30,000・社会保険料本人負担60,000を差引き | 預り金 | 90,000 |
| 8/10 | 預かった所得税を税務署へ納付 | 預り金の減少 | 30,000 |
| 10/5 | 社長の展示会出張、旅費の概算を現金で前渡し | 仮払金 | 50,000 |
| 11/20 | 当座預金に内容不明の入金 | 仮受金 | 120,000 |
| 12/20 | 麺の販売代金を共通商品券で受け取り | 受取商品券 | 30,000 |
このほか、7月から2月まで資材置場を借りるにあたって敷金50,000円を差し入れ(差入保証金)、 契約が終わった2月末に全額返ってきている。
仮払金と仮受金は、その後こうなった。 10月9日、社長が帰社して精算したところ、実際にかかった旅費は43,000円で、残りの7,000円が戻った。 11月27日、銀行に問い合わせて、120,000円の入金が揖斐川フーズの売掛金回収だと判明した。 どちらも中身が判明した時点で、正しい科目へ振り替えている。
7月25日の給与を、金額の流れで確かめておく。 会社が負担した人件費は総額の600,000円。手渡したのは510,000円。差の90,000円は預り金として負債に立つ。 翌月に30,000円を税務署へ、60,000円を年金事務所などへ払うと預り金はゼロに戻る。 会社の費用は最初から600,000円で、預り金がいくら残っていようと変わらない。ここが立替金・預り金の要点になる。
7月25日の給与で、数字を追ってみる。
10月5日の仮払金も同じ順で通る。渡した50,000円は費用ではない(金額も内容も未確定)。 帰ってきて実費43,000円と分かった時点で、はじめて旅費交通費という費用が43,000円立ち、 残り7,000円は現金として戻る。
一般化すると、この節の6科目はすべて次の形をとる。 動いた金額のうち、会社の損益になる部分と、ならない部分を切り分ける。 損益にならない部分の置き場が、立替金・預り金・仮払金・仮受金・受取商品券・差入保証金だ。 そして仮払金・仮受金だけは「中身が決まっていない」ので、決算までに必ず消える運命にある。
6/10 (借) 立 替 金 20,000 (貸) 現 金 20,000
7/25 (借) 給 料 600,000 (貸) 預 り 金 90,000
(貸) 立 替 金 20,000
(貸) 現 金 490,000
8/10 (借) 預 り 金 30,000 (貸) 現 金 30,000
10/5 (借) 仮 払 金 50,000 (貸) 現 金 50,000
10/9 (借) 旅費交通費 43,000 (貸) 仮 払 金 50,000
(借) 現 金 7,000
11/20 (借) 当座預金 120,000 (貸) 仮 受 金 120,000
11/27 (借) 仮 受 金 120,000 (貸) 売 掛 金 120,000
12/20 (借) 受取商品券 30,000 (貸) 売 上 30,000
対抗案1:給与は手取りの510,000円だけを費用にする
金庫から出た金額はたしかに510,000円なので、現金の動きとしては合っている。 だが会社が負担した人件費は600,000円で、90,000円も少なく計上されることになる。 1回で90,000円、パート職員を含めて年12回なら100万円を超えるずれになり、当期純利益がその分だけ過大に出る。 さらに8月10日に税務署へ払う30,000円は、預り金という置き場がないので租税公課などの費用にするしかない。 そうすると人件費として落ちなかった分が税金の費用として落ちることになり、 損益計算書のどこに人件費がいくらあるのかが読めなくなる。 本来なら「給料600,000」の1行で済むものが、2つの費用科目に散る。
対抗案2:仮払金を使わず、渡した50,000円をその場で旅費交通費にする
精算まで済ませれば結果は同じに見える。実際、10月9日に7,000円戻った時点で 旅費交通費を7,000円取り消せば、費用は43,000円に落ち着く。 問題は決算日をまたいだときだ。仮に決算日が10月31日で、精算が11月にずれ込んだとすると、 費用は50,000円のまま締まる。実際に使ったのは43,000円なので、当期の費用が7,000円過大、 翌期は7,000円の費用のマイナス(収益のような形)が立つ。 そもそも10月5日の時点では、社長が展示会でいくら使うかは誰にも分からない。 金額が確定していないものを費用として確定させてしまうところに無理がある。 仮払金は、その無理を先送りするための正式な待機場所だ。
Q. 立替金と預り金は、どちらも「会社の損得ではない金」なのに、なぜ資産と負債に分かれるのか。 A. 立て替えた側と預かった側で、会社がどちらの立場にいるかが正反対だから。 立替金は会社が先に金を出していて、あとで返してもらう権利がある(資産)。 預り金は会社が先に金を受け取っていて、あとで納める・返す義務がある(負債)。 判定は「今、会社の金庫にその金があるか」で足りる。 金庫から出ていれば立替金、金庫に入っていれば預り金だ。
Q. 仮払金と現金過不足は、どこが違うのか。どちらも中身が分からない一時置き場に見える。 A. 発生の仕方が違う。仮払金は「金を渡すことは決めたが、いくらになるか分からない」という 意図的な一時置き場で、渡す側が自分で作る。 現金過不足は「帳簿と金庫の残高が合わない」という意図しないずれで、 原因が分からないから仕方なく作る箱だ。 共通しているのは、どちらも決算までに中身を突き止めて正しい科目へ振り替える点と、 突き止められなければ雑損・雑益に落ちる点。仮の箱は必ず決算で消える、と覚えておくとよい。
Q. 敷金を差し入れたのに、なぜ費用ではなく資産なのか。家賃と同じように毎月使っている感覚がある。 A. 家賃は「1か月住んだ(借りた)対価」として消えていく金だが、敷金は契約が終われば返ってくる金だから。 返ってくる以上、会社の財産が減ったわけではなく、現金が「返還を受ける権利」に姿を変えただけになる。 ただし現実には、原状回復費として一部が差し引かれて返ってくることが多い。 差し引かれることが決まった時点で、その分だけ費用(修繕費など)に振り替える。 返ってこないと決まった瞬間に費用になる、という順序で考えるとよい。
flowchart TD
A[会社の金庫を通ったが<br/>会社の損得ではない金] --> B{負担者がズレているだけか}
B -- はい・こちらが先に払った --> C[立替金<br/>資産]
B -- はい・こちらが預かった --> D[預り金<br/>負債]
B -- いいえ・中身が未確定 --> E{出た / 入った}
E -- 出た --> F[仮払金<br/>資産]
E -- 入った --> G[仮受金<br/>負債]
F --> H[決算までに正しい科目へ<br/>boki3-ch12-s01]
G --> H
E -.同じ性格の箱.-> I[現金過不足<br/>boki3-ch03-s01]
正解: 2
正解: 3
正解: 4
正解: 1