3期目のみずほ食品は、物が増えた年だった。第2工場の増設が動き出し、工務店への支払いが二度あった。 第1工場には乾麺ラインを据えるための補強を入れ、包装機を1台買い足し、 創業のときから使っていた製麺補助機を1台外した。配送用の軽トラックも走行距離が伸びて限界が来た。
1期目の帳面はもっと静かだった。固定資産といえば製麺機1台、減価償却費は年150,000円。 毎年3月31日に同じ金額を書き写すだけで済んだ。 ところが3期目の損益計算書に並んだ減価償却費は 800,000円(第1章)で、 中身は4つの資産、3つの計算方法に分かれている。 さらに特別損益の欄には固定資産売却益150,000円と固定資産除却損250,000円が立った。
この章で追うのは、固定資産に起きる3種類の出来事だ。価値が減っていく(償却方法が複数ある理由)、 手を入れる(費用になる支出と資産になる支出)、入れ替える(除却・買換え)。 最後に、補助金で設備を買ったときの圧縮記帳と、工事代金の前払いを溜める建設仮勘定を扱う。 3級の減価償却(定額法・間接法)が土台になる。
定率法の償却率は、会社が自由に決めているものではなく、税制で耐用年数ごとに定められている。 そしてその率は、過去に二度大きく動いた。
平成19年度の税制改正で、それまで取得原価の10%を残して償却を止めていた仕組みが廃止され、 備忘価額1円まで償却できるようになった。このとき定率法の償却率は、 定額法の償却率の2.5倍に設定された。耐用年数5年なら 1÷5×2.5 = 0.500 になる。 設備投資を早く費用にできるようにして投資を促す狙いがあったとされる。
ところが平成23年度の改正で、この倍率が 2.0倍 に引き下げられた。 法人税率の引下げと合わせた財源確保の一環で、 平成24年4月1日以後に取得した資産から適用されている。 いま「200%定率法」と呼ばれているのはこの2.0倍のことで、 それ以前に取得した資産は250%定率法のまま償却が続いている。
つまり、みずほ食品の包装機の償却率0.400という数字は、 機械の減り方を誰かが測って出したものではなく、 投資を促したい国と、税収を確保したい国の綱引きの結果として決まっている。 だから償却率は覚える対象ではなく、その年の表から引く対象になる。
戦後の復興期、国は災害復旧や産業設備の導入に多くの補助金を出した。 ところが補助金は法人税法上の益金にあたるため、受け取ればそのまま課税所得が増える。 2,000万円の補助金を出しても、当時の税率で数百万円が税として国に戻ってしまい、 設備を買うための金として使えるのは残りだけになる。 国が右手で出した金を、左手で回収している形になっていた。
そこで、補助金で取得した固定資産の帳簿価額を補助金相当額まで引き下げ、 その引下げ額を損金に算入する扱いが設けられた。これが圧縮記帳で、 補助金をもらった年の課税を消す代わりに、 以後の減価償却費が小さくなることで税金を取り戻す仕組みになっている。 免除ではなく繰延べという性格は、ここから来ている。
同じ発想は、火災保険金で建物を建て直した場合や、 道路事業で土地を収用されて代替地を買った場合にも広げられている。 いずれも「元の状態に戻すための金」で、そこに課税すると元に戻れなくなる、という共通点がある。
だから圧縮記帳の仕訳を見るときは、借方の固定資産圧縮損を損失として読まないほうがよい。 貸方の国庫補助金受贈益と対で並んでいて、 2つ合わせて「補助金をもらった年は課税しない」という1つの意思を表している。
3期目の決算整理に入って、七海は最初の壁にぶつかった。 製麺機のほうは楽だった。取得原価1,200,000円、耐用年数8年、残存価額ゼロ。 1,200,000 ÷ 8 = 150,000円を去年と同じように書けばいい(3級の第7章)。 問題は4月に買った包装機と、暮れに入れ替えた配送用トラックだった。 包装機に添えられた税理士のメモには「定率法・償却率0.400」とあり、 トラックのほうには「走った距離で按分してください」と書いてある。
「同じ固定資産なのに、どうして3通りも計算方法があるのか」。 全部を同じ式で割ってしまえば、間違いも起きないし比較もしやすいのではないか。
【要請】 減価償却がやっているのは、買ったときに出ていった金額を、その物が働く期間に配るという
一点に尽きる。3級で「300万円の車を買った年だけ赤字になるのは変だ」と習ったのがこれだった。
ここで「働く期間に配る」と言っている以上、どう配るかは、その物がどう減るかに合わせるのが筋になる。
建物のようにどの年もほぼ同じように働く物と、
機械のように新しいうちに集中して稼ぎ、あとは修理代がかさむだけになる物と、
トラックのように走った分だけすり減る物を、同じ式で割る理由がない。
つまり方法が3つあるのは選択肢を増やすためではなく、減り方の実態が3種類あるからだ。 定額法しかなければ、実態と合わない資産のところで帳面が嘘をつく。
定額法・定率法という訳語は、英語の straight-line method(直線法)と
declining-balance method(逓減残高法)に対応している。
直線法は、縦軸に帳簿価額、横軸に年数を取ると線がまっすぐ下りていくところから来た名前だ。
日本語は線の形ではなく「毎年同じ額(定額)」という中身のほうを訳語に採った。
declining balance は「減っていく残高」で、
掛ける相手(期首の帳簿価額)が小さくなっていくことを名前にしている。
日本語の「定率」は逆に、掛ける率のほうが一定であることを名前にした。
※覚え方として、「定額法は額が一定、定率法は率が一定」。
名前の漢字がそのまま何が一定かを言っていて、一定でないほうが毎年動く。
で、幹の話に戻ると、名前が「何が一定か」を言っているだけなので、 定率法の計算で毎年やることは「期首の帳簿価額に、同じ率を掛ける」の1行しかない。
3期目の減価償却費800,000円の中身を、先に全部並べる。
| 資産 | 取得原価 | 方法 | 3期目の償却額 |
|---|---|---|---|
| 建物(第1工場) 耐用年数30年 | 6,000,000 | 定額法 | 200,000 |
| 製麺機(備品) 耐用年数8年 | 1,200,000 | 定額法 | 150,000 |
| 包装機(備品) 耐用年数5年・2028年4月1日取得 | 250,000 | 200%定率法 | 100,000 |
| 配送用トラック(車両運搬具) 総走行可能距離200,000km | 2,000,000 | 生産高比例法 | 100,000 |
| 旧・製麺補助機(備品) 耐用年数6年・期末に除却 | 600,000 | 定額法 | 100,000 |
| 旧・配送用トラック 耐用年数6年・12月末に買換え | 1,200,000 | 定額法(9か月) | 150,000 |
| 合計 | 800,000 |
下の2行(除却と買換え)は次の節で扱う。この節で追うのは3行目と4行目だ。
① 包装機 — 200%定率法
2028年4月1日に250,000円で取得、耐用年数5年。公表されている表では、耐用年数5年の定率法は 償却率 0.400、改定償却率 0.500、保証率 0.10800 となっている。 3期目の償却額は 250,000 × 0.400 = 100,000円。 翌期は期首の帳簿価額150,000円に同じ0.400を掛けて60,000円。次は 90,000 × 0.400 = 36,000円。 掛ける率は一定で、掛けられる残高が減るから、償却額が毎年小さくなる。
| 期 | 期首帳簿価額 | 償却額 | 期末帳簿価額 |
|---|---|---|---|
| 3期目 | 250,000 | 100,000 | 150,000 |
| 4期目 | 150,000 | 60,000 | 90,000 |
| 5期目 | 90,000 | 36,000 | 54,000 |
| 6期目 | 54,000 | 27,000 | 27,000 |
| 7期目 | 27,000 | 26,999 | 1 |
6期目と7期目で金額の並びが崩れているのは、そこで計算のやり方が切り替わるからだ。
② 配送用トラック — 生産高比例法
2028年12月31日に旧車両を下取りに出して入れ替えた新車両。取得原価2,000,000円、 総走行可能距離200,000km、残存価額ゼロ。納車から3月31日までに走ったのは10,000km。 2,000,000 × 10,000 ÷ 200,000 = 100,000円。
ここで注意したいのは月割りをしていないことだ。12月31日の取得なので、 定額法なら3か月分に絞る計算が要る。生産高比例法は最初から「走った分」で測っているので、 3か月しか持っていなくても10,000km走ったなら10,000km分。 時間ではなく仕事量で配る方法だから、月割りという発想が出てこない。
declining-balance method(減っていく残高の方法)は同じ計算を残高の側から呼んだ言い方で、
日本語は率の側から呼んでいる。units-of-production method(生産単位法)の訳で、
時間ではなく仕事の量で価値の減りを測るという考え方が名前に出ている。設備投資の稟議で「初年度から黒字が出るか」を見るとき、償却方法の指定を読み飛ばすと数字が合わない。 2,000万円の機械を耐用年数10年で入れる案件なら、定額法の初年度は200万円、 200%定率法(償却率0.200)なら400万円。初年度だけで200万円の差が出るので、 稼働1年目の利益計画は方法の指定ひとつで黒にも赤にもなる。
取引先の決算書を読むときも同じで、設備を入れた直後の2〜3期は定率法の会社ほど利益が薄く見える。 これをそのまま業績悪化と読むと判断を誤るので、 償却前の営業利益(営業利益+減価償却費)を並べてキャッシュの出方で見直すことになる。
リースの提案でここが効くのは、リース料は毎月定額だからだ。 自社で買って定率法で償却すると初年度の費用が跳ね上がるのに対し、リースなら費用が平らに並ぶ。 「初年度の損益を平らにしたい」という相手には、費用の出方の違いそのものが提案材料になる (第6章)。
で、幹の話に戻ると、償却方法は帳簿の内部事情ではなく、 その資産がどの期にいくら費用として現れるかを決めている。だから減り方の実態に合わせる。
200%定率法を、包装機250,000円で1回通す。最初の3年は掛け算1回で終わる。
ここで気づくのは、この計算はいつまでも終わらないことだ。 残高に0.400を掛け続けるかぎり、残りは0.600倍ずつ小さくなるだけでゼロにならない。 耐用年数5年と言いながら、5年目に残高が消えない。ここを埋めるのが保証率と改定償却率になる。
一般化すると、各期の償却額は 期首帳簿価額 × 償却率、ただし その結果が(取得原価 × 保証率)を下回ったら、その期の期首帳簿価額 × 改定償却率に切り替え、 以後は同額を続ける。償却率0.400は、定額法の償却率 1 ÷ 5年 = 0.200 を **2倍(200%)**したもので、 「200%定率法」という名前はここから来ている。
生産高比例法は1行で済む。(取得原価 − 残存価額)× 当期の利用量 ÷ 総利用可能量。 トラックなら (2,000,000 − 0) × 10,000 ÷ 200,000 = 100,000円。 分母が年数ではないので、期中取得でも月割りの出番がない。
書き方は3級の間接法と同じで、方法が変わっても仕訳の形は変わらない。変わるのは金額の出し方だけだ。
3期目 決算 2029/3/31
(借) 減価償却費 100,000 (貸) 備品減価償却累計額 100,000 ← 包装機(200%定率法)
(借) 減価償却費 100,000 (貸) 車両運搬具減価償却累計額 100,000 ← トラック(生産高比例法)
(借) 減価償却費 150,000 (貸) 備品減価償却累計額 150,000 ← 製麺機(定額法)
(借) 減価償却費 200,000 (貸) 建物減価償却累計額 200,000 ← 第1工場(定額法)
対抗案1:全部を定額法でそろえる
計算は楽になる。壊れるのは、減り方が偏っている資産のところだ。 包装機250,000円を定額法(5年)で償却すると毎期50,000円。200%定率法なら 100,000 → 60,000 → 36,000 → 27,000 → 26,999円。最初の2年の合計を比べると、 定額法100,000円に対し定率法160,000円で、60,000円ぶん食い違う。
食品製造の機械は、新しいうちは止まらずに動き、年数がたつと停止と修理が増える。 つまり稼ぎは前半に寄り、修理代は後半に寄る。 定額法だと、稼ぎの大きい前半に費用が軽く、修理代のかさむ後半に減価償却費と修繕費が二重にのしかかり、 1台の機械が生む利益の形が実態と逆に出る。 定率法は前半に費用を厚く置くことで、修理代の増加と相殺させて各期の負担を平らに近づけている。
トラックのほうはもっとはっきりする。定額法(6年)なら年333,333円。 ところが3期目に走ったのは10,000km、翌期に大口の配送が付いて40,000km走ったとする。 4倍働いた年と、そうでない年に、同じ333,333円を配ることになる。 売上は4倍近く増えているのに、その売上を生んだ費用が増えない。これは対応していない。
対抗案2:定率法から保証率と改定償却率を外し、率だけで最後まで償却する
切り替えが要らなくなるので、こちらのほうが素直に見える。 包装機でやってみると、5年目の期末の帳簿価額は 250,000 × 0.600⁵ = 19,440円。 10年たっても1,511円、20年たっても12円が残る。永久にゼロにならない。 耐用年数5年と決めた資産が、とっくに廃棄したあとも貸借対照表の備品に混ざり続ける。
保証率は「このペースでは耐用年数内に償却が終わらない」と判定するための線で、 改定償却率は、そこから先を残り年数で均等に配り切るための率になっている。 最後に1円だけ残すのはまだ持っている物を帳簿から消さないためで、 処分したときにこの1円を落として除却の記録が完結する。
Q. 償却方法は会社が好きに選んでよいのか。選び直せるのか。 A. 資産の種類ごとに、実態に合う方法を会社が選んで継続して使う。 毎期変えられるとすると、利益を出したい年は定額法、圧縮したい年は定率法という操作ができてしまい、 期間比較が成り立たなくなる。だから一度決めた方法は原則として続け、 変更には正当な理由と、変更した事実の開示が要る。 試験では問題文が「定率法(償却率0.400)による」と指定してくれる。
Q. 定率法だと最初に費用が大きく出る。会社にとって損ではないのか。 A. 5年通算では、費用の合計はどの方法でも取得原価とほぼ同じ249,999円になる。 違うのは各期への配り方だけなので、5年間の利益の合計は変わらない。 早く費用にすれば早く税金が減り、遅く費用にすれば遅く減る。 効いているのは損得ではなく資金繰りのタイミングで、 この構図は圧縮記帳でもう一度出てくる。
Q. 定率法の償却率は覚えるのか。 A. 覚えない。耐用年数ごとの償却率・改定償却率・保証率は表で公表されていて、そこから引く。 試験でも問題文か資料に「償却率0.400」と与えられる。 覚えておくのは掛ける相手が期首帳簿価額であることと、 0.400が定額法の償却率(1÷5)の2倍だという成り立ちのほうだ。 成り立ちを押さえておけば、耐用年数8年なら 1÷8×2 = 0.250 と自分で作れる。
第4章の償却原価法とこの章の減価償却は、 どちらも「償却」が付くうえに毎期少しずつ帳簿価額を動かすので混ざりやすい。中身は逆を向いている。 減価償却は資産の帳簿価額を減らして、その分を費用(減価償却費)にする。 償却原価法は債券の帳簿価額を額面に向けて増やして、その分を収益(有価証券利息)にする。 片方は価値が減っていく物の話、片方は満期に額面が戻る権利の話なので、向きが違って当然になる。
共通しているのは発想で、どちらも「1回で動かすと期間比較が壊れる金額を、期間に配る」。 2級で「期間に配る」型の処理は、この2つと引当金にほぼ出そろう。
で、幹の話に戻ると、名前の「償却」に引きずられず、 帳簿価額が減るのか増えるのかを見れば、どちらの話かは一目で分かる。
flowchart TD
A[固定資産を取得した] --> B{価値はどう減るか}
B -- 時間で平らに減る --> C[定額法<br/>boki3-ch07-s02]
B -- 前半に大きく減る --> D[定率法・200%定率法<br/>boki2-ch05-s01]
B -- 使った分だけ減る --> E[生産高比例法<br/>boki2-ch05-s01]
D --> F{償却額が償却保証額を下回ったか}
F -- はい --> G[改定取得価額×改定償却率<br/>備忘価額1円まで]
C --> H[減価償却費・減価償却累計額]
E --> H
G --> H
H --> I[損益計算書と貸借対照表<br/>boki2-ch01-s02]
H -.費用の出方が違う.-> J[リース取引<br/>boki2-ch06-s01]
H -.会計と税務のズレ.-> K[税効果会計<br/>boki2-ch09-s01]
年が明けて、七海の机には工務店からの請求書が1通載っていた。第1工場の改修工事、1,500,000円。 内訳は2行だけで、「屋根葺き替え・外壁塗装 500,000」「断熱パネル増設・床補強 1,000,000」とある。 社長は「工場を直しただけだから、全部修繕費でいいだろう」と言った。 七海が引っかかったのは下の1行だった。床の補強は第2工場の乾麺ラインを見据えて 重い機械に耐えられるようにしたもので、これで工場はあと20年使えると工務店に言われている。 壊れたところを元に戻したのではなく、前より良くした支出を、直した費用と同じ扱いにしてよいのか。
【必然】 減価償却は、取得原価をその資産が働く期間に配る手続きだった。
だとすれば、働く期間そのものを延ばした支出や働く能力を上げた支出は、
延びた期間・上がった能力の分だけこれから効いてくる。
その支出をこの1年の費用にしてしまうと、効果が20年に及ぶ支出を1年で使い切ったことになる。
逆に、雨漏りを直して元どおりにしただけの支出は、その年の操業を維持するための出費で、
将来に効果が残らない。効果の及ぶ範囲が違うので、行き先も違う。
前者を資本的支出(資産に足す)、後者を収益的支出(費用にする)という。 覚え方の取っ掛かりは「元に戻したら費用、前より良くしたら資産」。
同じ年の3月31日、七海はもう1台の機械を帳簿から外した。 創業のときに買った製麺補助機で、新しい包装機を入れたので出番がなくなった。 売れるあてがなく、業者に引き取ってもらうと鉄くずとして50,000円になる。 これが除却で、売却とは扱いが違う。さらに12月末には、走行距離が伸びた軽トラックを 下取りに出して新車に入れ替えた。これが買換えで、売却と購入が同じ日に起きる。
この切り分けは、実務でいちばん揉める論点のひとつになる。 修繕費(収益的支出)にできれば当期の費用が増えて税金が減り、 資本的支出になれば費用は耐用年数に分散して当期の税金は減らない。 みずほ食品の1,000,000円で言えば、税率30%なら当期の納税額で300,000円の差が出る。 だから税務調査では「修繕費に資本的支出が混ざっていないか」が定番の確認項目になる。
判定の目安として、税務の実務では「使用可能期間が延びたか」「価値が増えたか」を見て、 どちらでもなければ修繕費とする考え方が使われている。 少額のものや周期的に行う修繕は修繕費として扱ってよい範囲があり、 実際の判定は請求書の内訳の書き方で決まってしまうことが多い。 だから工事の見積段階で、原状回復の部分と機能向上の部分を分けて書いてもらうことになる。
与信の側から取引先の決算書を読むときも同じで、 修繕費が急に膨らんだ期がある会社は、更新すべき設備を修理でつないでいる可能性がある。 「今回は修繕で済ませたい」と言われたときに過去の修繕費の推移を見ておくと、 それが先送りなのかどうかの当たりが付く。
で、幹の話に戻ると、資本的支出と収益的支出の切り分けは、 その支出の効果がこの1年で終わるか、これから先も続くかという1点で決まっている。
① 改修工事(2029年3月20日 完成、代金1,500,000円は小切手)
| 内訳 | 金額 | 中身 | 区分 |
|---|---|---|---|
| 屋根葺き替え・外壁塗装 | 500,000 | 傷んだ部分を元に戻す | 収益的支出 → 修繕費 |
| 断熱パネル増設・床補強 | 1,000,000 | 使用可能年数が20年に延びた | 資本的支出 → 建物 |
資本的支出の1,000,000円は建物の金額に足し込む。3月20日の完成なので3期目はほとんど使っておらず、 償却は翌期から、延長後の残存使用可能年数20年で 1,000,000 ÷ 20 = 年50,000円になる。 元からある建物6,000,000円の年200,000円は、これまでどおり続く。
② 除却(2029年3月31日)
旧・製麺補助機(備品)。取得原価600,000円、2026年4月1日取得、耐用年数6年、定額法で年100,000円。 期首の減価償却累計額は2年分の200,000円。3期目の償却100,000円を計上すると累計は300,000円になり、 帳簿価額は300,000円。引き取り業者の見積りでは鉄くずとして50,000円の価値がある。
300,000 − 50,000 = 250,000円の固定資産除却損。 残った50,000円は現金にはなっていないので売却益ではない。 まだ物として手元にあり、あとで売れば50,000円になる財産なので、貯蔵品という資産に振り替える。
③ 買換え(2028年12月31日)
旧・配送用トラック。取得原価1,200,000円、2026年4月1日取得、耐用年数6年、定額法で年200,000円。 期首の減価償却累計額は400,000円。4月から12月までの9か月分を月割りで計上すると 200,000 × 9 ÷ 12 = 150,000円で、累計は550,000円、帳簿価額は650,000円。
新車両は2,000,000円。旧車両の下取価額は800,000円で、差額1,200,000円を小切手で支払った。 下取価額800,000円 − 帳簿価額650,000円 = 150,000円の固定資産売却益。
除却損250,000円と売却益150,000円は、どちらも毎期起きるとは限らない臨時の損益なので、 損益計算書では特別損失・特別利益に並ぶ(第1章)。
capital expenditure(設備投資支出、略してCAPEX)の訳で、
払った金が資産として会社に残るタイプの支出、という意味になる。
対する収益的支出は revenue expenditure で、その期の収益を生むために使い切る支出のこと。除却と買換えは、どちらも**「まず当期分の減価償却を計上してから、資産を帳簿から外す」**という 2段構えになる。順番を守れば、あとは差額を拾うだけで済む。
除却を、旧・製麺補助機で1回通す。
買換えを、旧・配送用トラックで1回通す。
一般化すると、除却は 帳簿価額 − 処分見込額 = 除却損、 買換えは 下取価額 − 旧資産の帳簿価額 = 売却損益 で、 新資産は下取りと切り離して取得原価で計上する。 どちらも1の手順を飛ばすと帳簿価額が過大になり、損益が丸ごとずれる。
改修工事 2029/3/20
(借) 建 物 1,000,000 (貸) 当座預金 1,500,000
(借) 修 繕 費 500,000
除却 2029/3/31
(借) 減価償却費 100,000 (貸) 備品減価償却累計額 100,000
(借) 備品減価償却累計額 300,000 (貸) 備 品 600,000
(借) 貯 蔵 品 50,000
(借) 固定資産除却損 250,000
買換え 2028/12/31
(借) 減価償却費 150,000 (貸) 車両運搬具減価償却累計額 150,000
(借) 車両運搬具減価償却累計額 550,000 (貸) 車両運搬具(旧) 1,200,000
(借) 車両運搬具(新) 2,000,000 (貸) 当 座 預 金 1,200,000
(貸) 固定資産売却益 150,000
対抗案1:改修工事1,500,000円を全額修繕費にする
社長の言い分どおりにすると、3期目の販売費及び一般管理費が1,000,000円増える。 3期目の営業利益は2,700,000円だったので(第1章)、1,700,000円に落ちる。 一方、翌期からは資本的支出分の減価償却費50,000円が計上されないので、 翌期以降20年にわたって毎期50,000円ずつ利益が多く出る。
同じ1,000,000円が3期目に全部乗るか20年に分かれるかの違いなので、20年通算の利益は同じになる。 壊れるのは各期の比較のほうだ。銀行が3期目と4期目を並べたとき、 営業利益が1,700,000 → 2,750,000と1,050,000円も跳ね上がって見える。 麺の売れ行きは変わっていないのに、工事代の処理ひとつで「急に立ち直った会社」に見えてしまう。 そのうえ、床の補強で20年使えるようになった工場という財産が、貸借対照表に1円も現れない。
対抗案2:買換えで、下取価額800,000円を新車両の値引きとして処理する
新車両を 2,000,000 − 800,000 = 1,200,000円で計上し、旧車両は帳簿価額650,000円のまま消して 差額550,000円を除却損にする、というやり方。支払った現金は1,200,000円なので一見つじつまが合う。
壊れるのは翌期以降の減価償却費だ。新車両を1,200,000円で計上すると、 総走行可能距離200,000kmに配ったときの1kmあたりの金額は6円になる。 本来は 2,000,000 ÷ 200,000 = 10円なので、4割少ない費用しか計上されない。 20万km走り切るまでの合計で800,000円の費用が消え、その分だけ利益が過大に出続ける。 3期目の損益も食い違う。正しく処理すれば売却益150,000円(特別利益)だが、 このやり方では除却損550,000円(特別損失)になり、当期純利益で700,000円の差が出る。
Q. 除却した資産をあとで実際に40,000円で売ったら、どうなるのか。 A. 貯蔵品50,000円を帳簿から落とし、受け取った40,000円との差10,000円を損失にする。 除却の時点では見積りで貯蔵品を立てているので、実際の売却額との差はその時点で調整する。 逆に60,000円で売れれば10,000円の利益が出る。 つまり除却は「使用をやめた」という事実の記録で、換金はその後の別の取引になる。
Q. 修繕費と資本的支出の判定は、金額の大きさで決まらないのか。 A. 決まらない。判定の軸は使用可能期間が延びたか、価値が増えたかの2つで、 100万円の雨漏り修理は修繕費、10万円の機能追加は資本的支出になりうる。 ただし実務上は、少額のものや周期的な修繕を修繕費として扱ってよい範囲が税務で定められていて、 そこには金額の線が入る。試験では問題文が「〇〇円は改良のための支出である」と示してくれる。
Q. 買換えで下取価額が帳簿価額を下回ったら、どう書くのか。 A. 差額が固定資産売却損(借方・特別損失)になる。仕訳の形は同じで、 貸方にあった売却益が借方の売却損に移るだけだ。 下取価額が500,000円なら 650,000 − 500,000 = 150,000円の売却損で、 新車両2,000,000円のうち差額1,500,000円を小切手で支払うことになる。
除却損は、実際に使うのをやめた日に、そこで初めて計上する。 一方、第7章で扱う修繕引当金は、 まだ修繕していない段階で将来の修繕費を先に費用にする。 同じ固定資産をめぐる処理なのに、片方は起きてから、片方は起きる前に計上する。
違いは「起きることが決まっていて、金額が見積もれるか」にある。 3年に一度の大規模修繕のように契約や実績から金額まで見当がつくものは、 負担を1年に集中させると期間比較が壊れるので、期間に配って先に積む。 これに対して、どの機械をいつ除却するかは事前に決まっていない。 決まっていないものを見積もって費用にすると、 利益を減らしたい年に「そろそろ捨てるつもり」と言えば費用が作れてしまう。 3級の貸倒引当金も同じ線引きになっている。
で、幹の話に戻ると、除却は見積りではなく事実の記録なので、 使用をやめた日に、そのときの帳簿価額と処分価値の差だけを損として書く。
flowchart TD
A[固定資産に金を払った] --> B{取得後の支出か}
B -- 取得時 --> C[取得原価に含める<br/>boki3-ch07-s01]
B -- 取得後 --> D{使用可能期間が延びた<br/>価値が増えたか}
D -- はい --> E[資本的支出<br/>建物などに加算]
D -- いいえ --> F[収益的支出<br/>修繕費]
G[使うのをやめた] --> H{代金や下取価額が入るか}
H -- 入らない --> I[除却<br/>処分価値は貯蔵品]
H -- 入る --> J[売却・買換え<br/>下取価額と帳簿価額の差]
I --> K[固定資産除却損<br/>特別損失]
J --> L[固定資産売却損益<br/>特別損益]
K --> M[損益計算書<br/>boki2-ch01-s02]
L --> M
F -.見積りで先に積む場合.-> N[修繕引当金<br/>boki2-ch07-s01]
第2工場の工事が始まって半年、七海の手元には工務店への支払いの控えが2枚たまっていた。 7月の着工時に3,000,000円、12月の上棟時に3,000,000円。請負総額は9,000,000円で、 残りの3,000,000円は完成引渡しのときに払う約束になっている。 建物はまだ建っておらず、壁も屋根もない。 「建物として6,000,000円を計上して、減価償却も始めるのか」と七海は考えて、手が止まった。
【必然】 減価償却は、その資産が働いている期間に取得原価を配る手続きだった。
まだ建っていない工場は1日も働いていないので、配る先の期間がまだ始まっていない。
かといって、払った6,000,000円を費用にするのもおかしい。この金は消えたのではなく、
完成した工場という形で戻ってくる約束と引き換えに渡してある。
資産ではあるが、まだ減価償却の対象になる「建物」ではない。
この中間の状態を受け止めるのが建設仮勘定で、
完成引渡しの日に、建物へまとめて振り替えるという使い方をする。
もうひとつ、七海が翌期に扱うことになったのが補助金だった。 第2工場に入れる乾麺乾燥機5,000,000円について、 岐阜県の食品製造業向けの設備導入補助金2,000,000円が交付されることになった。 補助金が入金された日、七海は素直に仕訳を書いた。 当座預金2,000,000円が増えて、相手は収益。国庫補助金受贈益2,000,000円。
ここで問題が起きる。この2,000,000円は利益なので、そのまま課税所得に乗る。 税率30%なら600,000円の税金がかかり、手元に残る補助金は1,400,000円になる。 5,000,000円の機械を買うために2,000,000円を出したはずの補助金が、 税金で目減りして、設備投資の後押しになりきらない。
【要請】 そこで、補助金で取得した資産の帳簿価額を補助金の分だけ減らし、
その減らした額を損失として計上して受贈益と相殺する扱いが設けられている。
これが圧縮記帳で、法人税法の「国庫補助金等で取得した固定資産等の圧縮額の損金算入」という
規定に根拠がある。受贈益2,000,000円と圧縮損2,000,000円が相殺されるので、
補助金をもらった年の課税所得は増えない。
覚え方の取っ掛かりは「補助金に税をかけると補助にならない」。
① 建設仮勘定(3期目〜4期目) — 第2工場の建設、請負総額9,000,000円。
| 日付 | 内容 | 金額 |
|---|---|---|
| 2028/7/10 | 着工時の手付金(小切手) | 3,000,000 |
| 2028/12/20 | 上棟時の中間金(小切手) | 3,000,000 |
| 2029/3/31 | 3期目の決算。未完成 | 建設仮勘定 6,000,000 のまま |
| 2029/6/30 | 完成引渡し。残金を支払い | 3,000,000 |
3期目の決算では、建設仮勘定6,000,000円が有形固定資産に並ぶ。減価償却は行わない。 まだ使っていないので、配る期間が始まっていないからだ。 2029年6月30日の引渡しで、建設仮勘定6,000,000円と残金3,000,000円を合わせた 9,000,000円が建物に振り替わり、そこから償却が始まる。
② 圧縮記帳(4期目)
| 日付 | 内容 | 金額 |
|---|---|---|
| 2029/5/20 | 補助金が当座預金に入金 | 2,000,000 |
| 2029/7/1 | 乾麺乾燥機(機械装置)を取得 | 5,000,000 |
| 2029/7/1 | 直接減額方式で圧縮 | 2,000,000 |
| 2030/3/31 | 決算・減価償却(耐用年数10年・定額法・9か月) | 225,000 |
圧縮後の機械装置の帳簿価額は 5,000,000 − 2,000,000 = 3,000,000円。 減価償却費は 3,000,000 ÷ 10 × 9 ÷ 12 = 225,000円。 圧縮しなければ375,000円だったので、毎期の費用は少なくなる。
ここが圧縮記帳のいちばん大事なところだ。 補助金をもらった年の税金は2,000,000円分の所得が消えて減るが、 その代わりに10年間、毎期200,000円ずつ減価償却費が少なくなる(500,000円のはずが300,000円)。 10年で 200,000 × 10 = 2,000,000円。最初に消した所得が、10年かけてそっくり戻ってくる。 つまり圧縮記帳は税金を免除する仕組みではなく、税金を払う時期を後ろにずらす仕組みになる。
設備投資の相談で補助金の話が出たとき、最初に確認したいのは その設備を「買う」のか「借りる」のかになる。圧縮記帳は、 補助金を受けた本人が固定資産を取得して自分の帳簿に載せることが前提になっている。 所有権が移転しない形のリースでは資産を保有しているのは借手ではないので、 借手側で国庫補助金等の圧縮記帳を使うという絵は原則として描けない。
これは提案の組み立てに直結する。補助金2,000,000円・設備5,000,000円の例で言えば、 購入+圧縮記帳なら補助金2,000,000円がまるごと設備資金に回り、税負担は10年に分散する。 リースで導入すれば毎月の支払いが平準化される代わりに、 その補助金は圧縮記帳の枠に乗らないので、受け取った年に課税される可能性が出てくる。 どちらが有利かはその会社のその期の課税所得次第で逆転し、 赤字で繰越欠損金を抱えている会社なら受贈益に課税されないので、圧縮記帳の価値は小さい。
補助金制度の側の扱いも押さえておきたい。補助金によっては、リース会社と共同で申請し、 補助金相当額をリース料から差し引いた形で設備を導入する仕組みが用意されているものがある。 使えるかどうかは制度ごとに違うので、公募要領の該当箇所を確認したうえで話をすることになる。
稟議書の書き方としては、「補助金2,000,000円」と一行で書かず、 圧縮記帳の可否まで含めた手取りベースで並べると審査部が判断しやすい。 使える前提なら2,000,000円がそのまま投資額の圧縮になり、使えない前提なら税引後で1,400,000円相当。 この差600,000円はリース料に直すと月あたり数千円の水準になるので、 比較の土俵をそろえないと結論が動いてしまう。
で、幹の話に戻ると、圧縮記帳は「補助金への課税を後ろにずらす」仕組みなので、 その会社が課税される状態にあるか、そして資産を自分で持つかどうかで効き目が変わる。
建設仮勘定は、払うたびに溜めて、完成の日に一気に振り替える。
圧縮記帳(直接減額方式)は、3つの日付を順に処理する。
一般化すると、直接減額方式でやっているのは 補助金の額だけ資産の取得原価を下げ、下げた額を損失にして受贈益と相殺するだけのことになる。 以後の減価償却は下げた後の金額から出発する。2級で問われるのはこの直接減額方式で、 実務にはもうひとつ、資産の金額を動かさず純資産の側に圧縮積立金を積む方式もある。
建設仮勘定
2028/ 7/10 (借) 建設仮勘定 3,000,000 (貸) 当座預金 3,000,000
2028/12/20 (借) 建設仮勘定 3,000,000 (貸) 当座預金 3,000,000
2029/ 6/30 (借) 建 物 9,000,000 (貸) 建設仮勘定 6,000,000
(貸) 当座預金 3,000,000
圧縮記帳(直接減額方式)
2029/ 5/20 (借) 当座預金 2,000,000 (貸) 国庫補助金受贈益 2,000,000
2029/ 7/ 1 (借) 機械装置 5,000,000 (貸) 当座預金 5,000,000
2029/ 7/ 1 (借) 固定資産圧縮損 2,000,000 (貸) 機械装置 2,000,000
2030/ 3/31 (借) 減価償却費 225,000 (貸) 機械装置減価償却累計額 225,000
対抗案1:建設中の支払いを、そのつど建物として計上する
仕訳は簡単になる。壊れるのは決算だ。建物として計上した以上、減価償却をしないと理屈が合わない。 耐用年数30年で計算すると、7月分は9か月で 3,000,000 ÷ 30 × 9 ÷ 12 = 75,000円、 12月分は4か月で33,333円。まだ屋根も付いていない工場に、合計108,333円の減価償却費が計上される。
減価償却は、その資産が働いて収益を生む期間に原価を配る手続きだった。 1本の麺も作っていない建物に費用を配れば、その費用に対応する収益がどこにもない。 そのうえ、翌期に完成して本当に使い始めたときの帳簿価額は8,891,667円で、 取得原価9,000,000円が帳簿から読めなくなる。償却の起点は「払った日」ではなく「使い始めた日」だ。
対抗案2:補助金2,000,000円を、機械装置の取得原価から直接差し引いて3,000,000円で計上する
結果の帳簿価額は圧縮記帳と同じ3,000,000円になるので、こちらのほうが早い。壊れるものは2つある。
ひとつは記録が消えることだ。帳簿には「3,000,000円の機械」としか残らないので、 5,000,000円の設備を2,000,000円の補助金で導入した事実が読めない。 補助金には、一定期間内に処分すると返還を求められる条件が付いていることが多く、その管理ができなくなる。
もうひとつは、補助金の入金と資産の取得が別の期にまたがったときに破綻することだ。 入金が3月20日(期末)で取得が翌期の7月1日なら、受贈益2,000,000円だけが先の期に立つ。 取得原価から差し引く方式では先の期の受贈益を打ち消す手段がないので、 税率30%なら600,000円の税金が先に出ていく。 受贈益と圧縮損を別々に立てる形にしておくと、この期ズレを税務上の手当てで処理する道が残る。
Q. 圧縮記帳をすると、結局は得なのか損なのか。 A. 通算では同じで、変わるのは時期だけになる。 補助金をもらった年の税金は2,000,000円分の所得が消えて減るが、 その後10年間、毎期200,000円ずつ減価償却費が少なくなるので、その分の税金は毎年増える。 10年で合計2,000,000円が戻るので、税額の合計は変わらない。 効いているのは、設備を買う一番苦しいときに手元の資金を残せることのほうで、 これは定率法が早めに費用を出すのと同じ性質の効き方になる。
Q. 建設仮勘定は貸借対照表のどこに並ぶのか。 A. 有形固定資産の中に、建物・機械装置・車両運搬具などと並んで表示する。 まだ建物ではないが、固定資産であることは変わらないからだ。 減価償却累計額の控除が付かない点だけが、ほかの有形固定資産と違う。 表示区分の考え方は第1章で扱った。
Q. 圧縮記帳は補助金以外にも使うのか。 A. 使う場面がある。保険金で建物を建て直したときや、 土地を収用されて代わりの土地を買ったときなど、 受け取った金額に課税すると元の状態に戻せなくなる場面に共通して用意されている。 2級の出題範囲では国庫補助金と工事負担金が中心になるが、 根っこにある考え方は「元に戻すための金に課税しない」で同じになる。
圧縮記帳は日本の税制の中で育った用語で、英語に一対一で対応する言葉がない。 国際的な会計基準では、補助金を資産の帳簿価額から控除する方法と、 繰延収益として負債に計上して耐用年数にわたって収益に振り替える方法が並んでいて、 「圧縮」にあたる語は使われない。
日本語で「圧縮」という強い言葉が当てられたのは、 やっていることが帳簿価額を押し下げる操作そのものだからだと考えられる。 ※覚え方として、5,000,000円の機械を帳簿の上で3,000,000円まで押し縮める絵を思い浮かべると、 「圧縮」も「直接減額方式」も同じ動作を言っているだけだと分かる。
この用語の性格が実務での誤解の元にもなっている。 「圧縮できますか」と聞かれたとき、相手が期待しているのは税金が消えることであることが多いが、 実際に起きるのは支払い時期の後ろ倒しだ。説明する側は免除ではなく繰延べという一語を先に置く。
で、幹の話に戻ると、名前の強さに引きずられず、 仕訳では「受贈益と同額の損を立てて打ち消す」という1点だけを見ておけばよい。
flowchart TD
A[工事代金を前払いした] --> B[建設仮勘定<br/>償却しない]
B --> C[完成引渡し]
C --> D[建物・機械装置へ振替<br/>ここから減価償却]
E[国庫補助金を受け取った] --> F[国庫補助金受贈益<br/>特別利益]
F --> G{その資産を自分で取得したか}
G -- はい --> H[圧縮記帳<br/>固定資産圧縮損]
G -- いいえ・リース --> I[圧縮記帳の対象外<br/>boki2-ch06-s01]
H --> J[圧縮後の帳簿価額で減価償却<br/>boki2-ch05-s01]
J --> K[税金は10年かけて戻る<br/>boki2-ch09-s01]
D --> J
正解: 2
正解: 3
正解: 4
正解: 1
正解: 2