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第4章 有価証券 — 何のために持っているかで処理が変わる

boki2-ch04 / 幹 約50分・枝 約27分

みずほ食品は3期目に入った。2期目に工場の隣の土地を押さえ、3期目は第2工場の増設が動いている。 売上が伸びて当座預金に厚みが出た一方、増設の支払いは工事の進み方に合わせて先の話になる。 水野社長は「寝かせておくのはもったいない」と言い、七海に相談もなく証券口座を作った。

同じころ、彦根の乾麺メーカー「湖北麺業株式会社」の株式を6割買って子会社にし、 昔から麺を卸している大垣屋商店とは、お互いの株を少しずつ持ち合うことになった。 気がつくと、みずほ食品の帳面には性格のまったく違う「株と債券」が4種類並んでいた。

この章で扱うのは、同じ「株」なのに、何のために持っているかで期末の処理が丸ごと変わるという一点。 3級では有価証券が出てこなかったので、ここは2級で完全に新しい。 逆に言えば、4つの分類さえ腹に落ちれば、あとの仕訳は分類ごとの当てはめで済む。

小話:含み損を抱えたまま笑っていられた時代

1990年代の日本の会社は、持っている株を原則として取得原価のまま帳簿に載せていた。 バブル期に買った株が三分の一になっても、売らないかぎり帳面の金額は買ったときのままで、 損失は決算書のどこにも現れない。これを含み損という。 逆に、昔から持っていて値上がりした株を期末に売れば、その差額がそのまま利益になった。 決算が苦しい年に含み益のある株を売って利益を作ることを「益出し」と呼び、 売った直後に買い戻す会社まであった。持っている株の中身は変わらないのに、利益だけが動く。

外から見ると、その会社が本当に儲かっているのか、株を売って辻褄を合わせたのかが分からない。 金融機関が大量の株を持ち合っていたこともあって、 1990年代後半の金融不安では「決算書の数字と実態が違う」ことが繰り返し問題になった。 そこで1999年に金融商品に係る会計基準が公表され、2000年度以降、 有価証券を保有目的で分け、売買目的とその他有価証券は時価で評価する扱いが入った。 一連の制度改革はまとめて会計ビッグバンと呼ばれている。

だから4分類は、几帳面な人が作った細かい仕切りではなく、 「売るために持っている物の値段を隠すと、決算書が読めなくなる」という失敗から来ている。 どの分類が時価評価かを覚えるより、売る前提かどうかで思い出すほうが早い。

col:boki2-ch04-c1
小話:「有価証券」という言葉が指しているもの

有価証券は「有価(=財産としての価値がある)」+「証券(=権利を証明する券)」でできた言葉で、 明治期に西洋の法律用語を訳す過程で作られたものだ。 ここで言っている価値は、紙そのものの価値ではない。 株券という紙切れに1,000円の価値があるのではなく、 その紙が証明している「会社に対する持分」に価値がある。 だから紙をなくしても権利は消えないし、いまは紙自体が発行されず電子的に記録されている。

この「紙ではなく権利が本体」という感覚は、簿記のほかの場面でも効いてくる。 3級で出てきた受取手形も、 電子記録債権も、証明の手段が紙から記録に変わっただけで、 帳簿が捉えているのは「後で金を受け取れる権利」のほうだった。 有価証券の分類が「紙の種類」ではなく「持っている目的」で決まるのも、 帳簿が見ているのが券面ではなく、その券が生む将来の利益だからだ。

株券が紙で存在しないなら、その価値をどう測るのか。 市場で毎日値段が付いているものは時価で、付いていないものは取得原価で測る。 分類の話は、結局この測り方の話につながっている。

col:boki2-ch04-c2

保有目的の4分類

boki2-ch04-s01 / 幹 14分・枝 8分

七海が最初に引っかかったのはここだった。西美濃電機の株も、大垣屋商店の株も、 証券会社の画面では同じ「株式」と表示される。売れば同じように現金になる。 それなのに、決算で片方は時価に書き換えろ、片方は買った値段のまま置け、と言われる。 「同じ物なのに扱いが違うのは、ごまかしではないのか」。

ごまかしではなく、帳面が表そうとしている中身が違う。 西美濃電機の株は、値上がりしたら売って利益にするために持っている。 だから七海が知りたいのは「いま売ったらいくらか」=時価だ。 一方、湖北麺業の株は、乾麺を作らせるための経営権であって、売る対象ではない。 株価が上がろうが下がろうが、みずほ食品にとっての価値は「湖北麺業を動かせること」で変わらない。

【要請】 会計の目的は、その期の成績と期末の財政状態を、外の人が読める形で報告することにある。 すぐ売る前提の株を取得原価のまま置くと、いつでも現金化できる財産の大きさが伝わらない。 逆に、売る予定のない株を毎期時価で動かすと、本業とまったく関係のない損益が 損益計算書に紛れ込み、その年に麺が売れたのかどうかが読めなくなる。 だから、どちらを表示すべきかを決めるために、持っている目的で先に分ける。

覚え方の取っ掛かりは「値札を見るか、看板を見るか」。 売るために持っているものには値札(時価)が要る。 使うために持っているものには看板(買ったときの値段=いくら投じたか)で足りる。

🔧 実務枝 — 決算書の「投資有価証券」を与信でどう読むか(約6分)

取引先の貸借対照表を見ると、固定資産の下のほうに「投資有価証券」という行がある。 金額だけ見ても意味が取れないので、注記か明細で中身を見にいくことになる。

中身が取引先や取引銀行の株(持ち合い)で埋まっている会社は、その分の資金が本業に回っていない。 売れば現金になるが、売った瞬間に相手との関係が変わるので、実際には動かせない資産に近い。 一方、中身が上場株の運用で、しかも売買目的に分類されている会社は、 その期の利益に株価の動きがそのまま乗っている。営業利益と経常利益の差が大きい期は、 本業ではなく運用で作った利益かもしれない、という読み方をする。

さらに、その他有価証券に大きな評価差額がマイナスで立っている会社は、 純資産が含み損の分だけ削られている。自己資本比率を見るときに、 この評価差額金が何割を占めているかは押さえておきたい。

で、幹の話に戻ると、外から決算書を読む側も「何のために持っているか」で読み方を変えている。 分類は帳簿の内部事情ではなく、読み手に中身を伝えるための仕切りだ。

具体例:みずほ食品が3期目に持った4つの有価証券

銘柄 買った理由 分類 取得原価
西美濃電機(株)2,000株 増設までの余資を短期で回すため 売買目的有価証券 1,212,000
岐阜産業(株)社債 額面1,000,000 満期まで持って利息を取るため 満期保有目的債券 970,000
湖北麺業(株)株式 60% 乾麺の製造を任せる子会社にするため 子会社株式 4,800,000
大垣屋商店(株)400株 得意先との取引関係を維持するため その他有価証券 600,000

買った日の仕訳は、4つとも同じ形をしている。取得原価で、その分類の科目名の借方に置くだけだ。 違いが出るのは決算日で、そこで初めて4つはばらばらに動く。

分類 期末の評価 差額はどこへ行くか
売買目的有価証券 時価 損益計算書(有価証券評価損益)
満期保有目的債券 取得原価。ただし額面との差が金利調整なら償却原価 損益計算書(有価証券利息)
子会社株式・関連会社株式 取得原価のまま どこにも行かない
その他有価証券 時価 貸借対照表の純資産(その他有価証券評価差額金)

この表の右の列がこの章の全部と言っていい。以降の2つの節は、この列を1行ずつ数字で追いかける。

用語カード

用語カード:子会社株式 term:kogaishakabushiki

手順

湖北麺業の株を例に、分類を1回決めてみる。上から順に聞いて、最初に「はい」が出たところで止まる。

  1. その会社を支配しているか、重要な影響を与えられるか。 みずほ食品は議決権の60%を持っている。過半数なので支配している。→ 子会社株式。ここで終わり。
  2. (1が「いいえ」で、かつ債券なら)満期まで持つつもりがあり、実際に持ち続けられるか。 岐阜産業の社債は、増設資金とは別枠の余資で買っていて、5年後の償還まで動かす予定がない。→ 満期保有目的債券
  3. (まだ決まらないなら)時価の変動で儲けるために、短期で売買するつもりか。 西美濃電機の株は値上がり益狙いで、数か月で回す。→ 売買目的有価証券
  4. どれでもない。 大垣屋商店の株は、支配していないし、債券でもないし、売るつもりもない。→ その他有価証券

一般化すると、判定は「支配 → 満期 → 短期売買 → 残り」の順で、株式は1・3・4のいずれか、 債券は2・3・4のいずれかに落ちる。4番目の分類名が「その他」という投げやりな名前なのは、 実際に上の3つで拾えなかった残り全部を受け止める箱だからだ。

仕訳の型

みずほ食品が4つを買った日の仕訳を並べる。金額はすべて付随費用を含めた取得原価

 6/10 (借) 売買目的有価証券 1,212,000   (貸) 当座預金 1,212,000
 4/ 1 (借) 満期保有目的債券   970,000   (貸) 当座預金   970,000
 7/ 1 (借) 子会社株式      4,800,000   (貸) 当座預金 4,800,000
 9/20 (借) その他有価証券    600,000   (貸) 当座預金   600,000

なぜ他ではダメなのか

対抗案1:分類をやめて、全部を期末の時価で評価する

一見こちらのほうが正直に見える。実際、売買目的の株はこれで正しい。壊れるのは子会社株式だ。 湖北麺業の株4,800,000円が、期末に5,600,000円と評価されたとする。差額の800,000円が利益に乗る。 みずほ食品の本業の当期純利益が800,000円だったとすると、利益が一気に2倍になる。 翌期に株価が戻って4,400,000円になれば、今度は1,200,000円の損失が乗り、本業が黒字でも赤字決算になる。 売る気のない株の値動きで、麺が売れたかどうかが読めなくなる。 そもそも子会社の価値は、子会社の稼ぎとして連結で親の決算に取り込まれる。 株価でも取り込んだら二重計上になる。

対抗案2:分類をやめて、全部を取得原価のまま置く

これは2000年前後まで日本の実務が実際に近いことをやっていたやり方で、 何が起きるかは歴史が答えを出している(小話)。 西美濃電機の株は期末時価が1,280,000円だが、帳面は1,212,000円のまま。 いつでも売って現金にできる68,000円分の余力が、外からは見えない。 逆に時価が900,000円まで落ちても帳面は1,212,000円のままで、 312,000円の含み損を抱えた会社が、健全な会社と同じ顔をして並ぶ。 売買目的の株は「いま売ったらいくらか」がその財産の全部なので、そこを隠すと数字の意味がなくなる。

よくある間違い

ここで引っかかるはず

Q. 買った後で気が変わったら、分類を変えてよいのか。 A. 原則として変えられない。変えられるとすると、値上がりした銘柄は売買目的にして評価益を出し、 値下がりした銘柄は満期保有目的やその他に移して評価を止める、という操作ができてしまう。 利益を後から作れる仕組みは、報告としての意味を失う。変更が認められるのは、 資金繰りの都合で満期まで持てなくなった等の限られた場合だけで、しかも理由の開示が要る。

Q. 同じ会社の株を、売買目的とその他有価証券の両方で持つことはできるのか。 A. できる。分類は「この株券」ではなく「この保有分の目的」に付くからだ。 ただし実務では、あとから恣意的に振り分けたと見られないよう、取得の時点で目的を記録しておく。 試験では問題文が「売買目的で取得した」「持ち合いのため取得した」と目的を明示してくれるので、 そこを読み落とさないことが得点そのものになる。

Q. 貸借対照表では4つがどこに並ぶのか。 A. 売買目的有価証券は流動資産に「有価証券」として並ぶ。 満期保有目的債券・子会社株式・その他有価証券は固定資産(投資その他の資産)に 「投資有価証券」「関係会社株式」として並ぶ。ただし満期保有目的債券のうち、 決算日の翌日から1年以内に償還が来るものは流動資産に移す。 「流動か固定か」は、目的ではなく1年で現金になるかで切り替わる。表示の話は第1章

関連マップ

flowchart TD
  A[有価証券を取得した] --> B{支配・重要な影響があるか}
  B -- 過半数を支配 --> C[子会社株式<br/>取得原価のまま]
  B -- 20〜50%程度 --> D[関連会社株式<br/>取得原価のまま]
  B -- いいえ --> E{満期のある債券で<br/>満期まで持つか}
  E -- はい --> F[満期保有目的債券<br/>償却原価<br/>boki2-ch04-s03]
  E -- いいえ --> G{短期売買で<br/>儲ける目的か}
  G -- はい --> H[売買目的有価証券<br/>時価・損益へ<br/>boki2-ch04-s02]
  G -- いいえ --> I[その他有価証券<br/>時価・純資産へ<br/>boki2-ch04-s03]
  C --> J[連結へ<br/>boki2-ch12-s02]
  I --> K[税効果へ<br/>boki2-ch09-s01]

売買目的有価証券と評価替え

boki2-ch04-s02 / 幹 16分・枝 9分

3月31日の夜、七海は証券口座の画面と帳簿を並べていた。 帳簿には西美濃電機の株が1,212,000円で載っている。画面の評価額は1,280,000円。 社長は「まだ売ってないから関係ないだろう」と言うが、七海はそうは思わなかった。 この株は、明日の朝には売れる。売れば1,280,000円の現金になる。 それを1,212,000円と書いた紙を銀行に出すのは、事実を伝えていることになるのだろうか。

【要請】 売買目的で持っている有価証券は、売ることそのものが目的で持っている。 売る前提の財産にとって、いくらで買ったかは過去の記録にすぎず、 期末時点の財産の大きさを表しているのは時価のほうだ。 だから売買目的有価証券だけは、決算で時価に書き換え、その差額をその期の損益にする。 これを評価替えという。

【必然】 差額が損益計算書に行くのは、行き先がそこしかないからでもある。 時価に書き換えると資産が68,000円増える。負債は増えていない。 資産だけが増えて負債が増えなければ、純資産は必ず68,000円増える(3級の第1章)。 その純資産の増え方を「出資でも配当でもない、この期に生じた成果」として説明するには、 収益として損益計算書を通すしかない。覚え方の取っ掛かりは「時価評価は、売ったことにして数えるやり方」。

🌿 由来枝 — 「洗替」という言葉はどこから来たか(約4分)

決算で時価に直した売買目的有価証券を、翌期の期首にもう一度取得原価に戻すやり方を洗替法という。 「洗い替える」は、もともと染物や洗い張りの世界の言い方で、 仕立てた着物をいったん解いて洗い、また元の形に仕立て直す作業を指した。 一度きれいに戻してから、また同じように仕立てる。この「いったん元に戻す」が会計に移った言葉だ。

同じ発想は3級の貸倒引当金でも出てくる。 差額補充法と洗替法の2つがあり、洗替法は前期の引当金をいったん全部戻して、 当期の見積りで積み直す。どちらも「前期の見積りを持ち越さず、いったん白紙にする」ための手続きで、 見積りが積み重なって実態から離れるのを防いでいる。

売買目的有価証券の場合、洗替法なら翌期首に評価差額を振り戻して帳簿価額を取得原価に戻し、 切放法なら期末時価をそのまま翌期の帳簿価額として引き継ぐ。 試験では問題文がどちらかを指定するので、指定を探すのが先になる。

で、幹の話に戻ると、洗替という言葉は「いったん元に戻す」という手続きの形を言っているだけで、 評価替えそのものの理屈(期末は時価で測る)は洗替でも切放でも変わらない。

具体例:西美濃電機の株を買って、一部を売って、期末を迎える

3期目の1年間に起きたのは3つだけ。順に数字を追う。

① 6/10 購入 1株600円で2,000株。売買手数料12,000円。合計 600 × 2,000 + 12,000 = 1,212,000円。 1株あたりの帳簿価額は 1,212,000 ÷ 2,000 = 606円。手数料を含めた金額が「この株を持つのにかかった値段」になる。

② 12/15 売却 800株を1株630円で売り、504,000円が当座預金に入った。 売った分の帳簿価額は 606 × 800 = 484,800円。 差額 504,000 − 484,800 = 19,200円の売却益。 残りは1,200株、帳簿価額は 606 × 1,200 = 727,200円。

③ 3/31 決算 期末時価は1株640円。1,200株なので 640 × 1,200 = 768,000円。 帳簿は727,200円なので、差額 768,000 − 727,200 = 40,800円の評価益

この期に売買目的有価証券から出た損益は、売却益19,200 + 評価益40,800 = 60,000円。 本業の利益とは別に、営業外収益としてこの60,000円が損益計算書に乗る。

用語カード

用語カード:売買目的有価証券 term:baibaimokuteki

手順

売買目的有価証券は、買う・売る・期末に直す、の3か所しか出てこない。数字で1回通す。

  1. 取得原価を出す。 本体価格 + 買うためにかかった費用(売買手数料)。 600 × 2,000 + 12,000 = 1,212,000円。1株あたり606円。
  2. 売ったら、売却価額と帳簿価額の差を取る。 504,000 − (606 × 800) = 19,200円。プラスなら有価証券売却益、マイナスなら有価証券売却損。
  3. 期末に、時価と帳簿価額の差を取る。 768,000 − 727,200 = 40,800円。プラスなら有価証券評価益、マイナスなら有価証券評価損。
  4. 翌期首に戻すかどうかを、問題文の指示で決める。 洗替法なら②の逆仕訳を期首に入れて727,200円へ戻す。切放法なら768,000円のまま引き継ぐ。

一般化すると、評価替えの金額は必ず 期末時価 − 帳簿価額 で、 符号がそのまま損益の向きになる。複数の銘柄を持っている場合は、銘柄ごとに計算して合算する。 値上がり銘柄と値下がり銘柄を先に相殺してから評価するのではない点だけ注意しておく。

仕訳の型

 6/10 (借) 売買目的有価証券 1,212,000   (貸) 当座預金 1,212,000
12/15 (借) 当 座 預 金       504,000   (貸) 売買目的有価証券 484,800
                                       (貸) 有価証券売却益     19,200
 3/31 (借) 売買目的有価証券    40,800   (貸) 有価証券評価益     40,800
翌期首(洗替法の場合)
 4/ 1 (借) 有価証券評価益     40,800   (貸) 売買目的有価証券   40,800

なぜ他ではダメなのか

対抗案1:評価益は計上せず、評価損だけ計上する(損のときだけ時価に直す)

慎重で保守的に見える。だが売買目的有価証券でこれをやると、成績が読めなくなる。 みずほ食品の例で、評価益40,800円を落としたとする。3期目の有価証券関係の損益は19,200円だけ。 翌期に1,200株を640円で売れば、そこで初めて40,800円の利益が出る。 上手く運用できたのは3期目なのに、成果は4期目の数字になる。 どちらの期の実力なのかが帳面から消えるので、期間比較という会計の目的が崩れる。 損だけ早く出すのは、貸倒引当金のように「起きる可能性が高く、金額が見積もれる損失」に対して行う考え方で、 毎日値段が付いていて明日にも売れる資産には当てはまらない。

対抗案2:時価は無視し、売ったときだけ損益を出す(取得原価主義を貫く)

計算は最も簡単で、実際に長く行われてきた。壊れるのは利益を作れてしまう点だ。 みずほ食品が3期目の決算で利益を60,000円上乗せしたいとする。 含み益のある西美濃電機株を1,200株すべて売れば、768,000 − 727,200 = 40,800円の売却益が立つ。 その直後に同じ株を768,000円で買い戻せば、持っている株数も現金もほぼ元通りで、 帳面の利益だけが40,800円増える。これを「益出し」という。 含み損のある銘柄を売らずに抱え続ければ、損は永久に表に出ない。 時価評価は、この「売るタイミングで利益を操作する余地」を消すための仕組みでもある。

よくある間違い

ここで引っかかるはず

Q. 洗替法だと翌期首に取得原価へ戻してしまう。せっかく時価に直した意味がないのでは。 A. 意味は「その期の成績を測る」ことにあって、帳簿価額を永久に時価へ寄せることではない。 洗替法は、期末時価をその期の成果の測定にだけ使い、翌期は再び取得原価からの値動きを測る。 切放法は期末時価を新しい原価とみなす。どちらでも5年通算の損益合計は同じになり、 違いは各期への配り方だけだ。試験では指示に従えばよい。

Q. 株の配当をもらったら、有価証券が増えるのか。 A. 増えない。配当は株の値段とは別に受け取る果実なので、受取配当金という収益で処理する。 債券の利息も同じく有価証券利息という収益で、元本にあたる有価証券の金額は動かさない。 元本が動くのは、買った・売った・評価替えした・償却原価法で調整した、の4つだけ。

Q. 期末に時価が分からない株はどうするのか。 A. 非上場株のように市場価格がない株式は、そもそも売買目的に分類されない。 その他有価証券に分類され、取得原価のまま置く。 つまり「時価がないから困る」という場面は、分類の段階でほぼ発生しない。 ただし発行会社の財政状態が著しく悪化した場合は、実質価額まで切り下げる(減損)。

関連マップ

flowchart LR
  A[取得<br/>手数料込みの取得原価] --> B[期中に一部売却<br/>帳簿価額との差=売却損益]
  B --> C[期末<br/>時価と帳簿価額の差]
  C --> D[有価証券評価損益<br/>営業外損益]
  D --> E[損益計算書<br/>boki2-ch01-s02]
  C --> F[翌期首の振戻し<br/>洗替法]
  A -.同じ取得原価の考え方.-> G[固定資産の取得原価<br/>boki2-ch05-s02]
  D -.差額の行き先が違う.-> H[その他有価証券<br/>boki2-ch04-s03]

満期保有目的債券(償却原価法)とその他有価証券

boki2-ch04-s03 / 幹 20分・枝 10分

岐阜産業の社債を買ったとき、七海は明細を見て手が止まった。 額面は1,000,000円と書いてある。払った金額は970,000円。30,000円足りない。 「安く買えた」と社長は喜んだが、5年後の償還日には額面どおり1,000,000円が返ってくる。 安く買えたのではなく、5年かけて30,000円もらえることが最初から決まっている

これが償却原価法の出発点になる。この30,000円は値上がり益ではない。 債券のクーポン(表面利率)が世の中の金利より低いと、その差を埋める形で価格が額面より安くなる。 つまり30,000円は、受け取り方が違うだけの利息だ。

【要請】 利息なら、受け取った日にまとめて収益にするのはおかしい。 5年間お金を貸していたことで生じた対価なので、5年間に配らないと、 どの期にいくら稼いだかが正しく出ない。3級で習った費用収益対応の考え方が、 そのまま収益の側に効いている。だから額面と取得価額の差を、 満期までの期間に少しずつ足し込んで、その分を有価証券利息にする。これが償却原価法。

一方、大垣屋商店の株(その他有価証券)は事情がまったく違う。 期末時価は660,000円で、取得原価600,000円より60,000円高い。時価評価はする。 ただし、この60,000円を損益計算書に乗せることはしない。

【要請】 売る予定がないのに、値上がり分を当期の利益にしてしまうと、 麺の商売と関係のない株価で、毎期の利益が振り回される。 かといって取得原価のまま置くと、期末の財政状態は正しく出ない。 そこで「貸借対照表は時価で正しく、損益計算書は本業の成績のまま」という 両立のさせ方として、評価差額を損益を通さず純資産に直接乗せる。 これがその他有価証券評価差額金で、2級で初めて出会う「損益を通らずに純資産が動く」項目になる。 覚え方の取っ掛かりは「まだ確定していない儲けは、利益の部屋に入れず、玄関(純資産)に置いておく」。

🔗 隣枝 — 評価差額金と税金のズレ — 第9章への橋(約6分)

その他有価証券評価差額金は、税務の世界では利益として認識されない。 税金は「売って儲けが確定したとき」にかかるので、含み益の段階では課税されない。 つまり会計は財産の増加を認識しているのに、税務は認識していない、というズレが生じる。

このズレを帳簿の上で調整するのが税効果会計で、 実際の決算では、評価差額60,000円のうち税率相当分(たとえば30%なら18,000円)を 繰延税金負債として切り出し、 純資産に載せるのは残りの42,000円だけ、という形にする。 将来売ったときに18,000円の税金を払うことが見えているので、その分は自分の取り分ではない、という考え方だ。

本書ではこの節の数字を追いやすくするため、税効果を無視した金額で書いている。 試験では「税効果会計を適用する」と指示があるかどうかで金額が変わるので、 問題文のその一文を必ず探すことになる。

で、幹の話に戻ると、税効果を入れても入れなくても、 「その他有価証券の評価差額は損益計算書を通らない」という骨格は変わらない。 まずそこだけ固めて、税率での分解は第9章で足せばいい。

具体例:社債の5年間と、持ち合い株の1年

① 満期保有目的債券(岐阜産業の社債)

2028年4月1日に取得。額面1,000,000円、取得価額970,000円(額面100円につき97円)、 償還日は2033年3月31日(5年後)、クーポンは年1.2%で毎年3月31日に受け取る。

額面と取得価額の差は 1,000,000 − 970,000 = 30,000円。 これを5年に配ると 30,000 ÷ 5 = 年6,000円

期首の帳簿価額 当期の償却額 期末の帳簿価額 クーポン 有価証券利息 合計
3期目 970,000 6,000 976,000 12,000 18,000
4期目 976,000 6,000 982,000 12,000 18,000
5期目 982,000 6,000 988,000 12,000 18,000
6期目 988,000 6,000 994,000 12,000 18,000
7期目 994,000 6,000 1,000,000 12,000 18,000

5年目の期末に帳簿価額がちょうど額面の1,000,000円になり、償還されて現金1,000,000円と入れ替わる。 償還時に損も益も出ないのが、この方法が目指している姿だ。

② その他有価証券(大垣屋商店の株)

400株を1株1,500円、合計600,000円で取得。期末時価は1株1,650円で660,000円。 差額 660,000 − 600,000 = 60,000円を、その他有価証券評価差額金として純資産に計上する。 損益計算書には1円も出てこない。翌期首には振り戻して600,000円に戻す(全部純資産直入法は洗替法で処理する)。

みずほ食品の3期目の損益計算書に乗る有価証券関係の金額を集計すると、 有価証券利息18,000 + 有価証券売却益19,200 + 有価証券評価益40,800 = 78,000円。 大垣屋商店株の60,000円と、湖北麺業株はここに入っていない。入らないことがこの章の結論になる。

用語カード

用語カード:満期保有目的債券 term:mankihoyu
用語カード:償却原価法 term:shokyakugenkaho
用語カード:その他有価証券 term:sonotayukashoken
用語カード:その他有価証券評価差額金 term:sonotayukahyokasagaku

手順

償却原価法を、岐阜産業の社債で1回通す。

  1. 額面と取得価額の差を出す。 1,000,000 − 970,000 = 30,000円。 これが満期までに追加でもらえる金額=実質的な利息。
  2. 満期までの期間で割る。 30,000 ÷ 5年 = 年6,000円。
  3. 当期に属する月数分を取る。 4月1日取得で決算が3月31日なので、12か月分=6,000円まるごと。 期の途中で買っていれば月割りする(たとえば10月1日取得なら 6,000 × 6/12 = 3,000円)。
  4. その金額だけ帳簿価額を増やし、同額を有価証券利息にする。 970,000 + 6,000 = 976,000円。有価証券利息6,000円。
  5. クーポンは別に処理する。 1,000,000 × 1.2% = 12,000円を受け取り、これも有価証券利息。 当期の有価証券利息は 6,000 + 12,000 = 18,000円になる。

一般化すると、当期の償却額は (額面 − 取得価額)÷ 償還までの年数 × 当期の保有月数 ÷ 12。 取得価額が額面より高い(打歩発行)場合は差がマイナスになり、 帳簿価額を減らして有価証券利息も減らす。符号が逆になるだけで、考え方は同じだ。

その他有価証券のほうは1行で済む。期末時価 − 取得原価を出し、 プラスなら貸方にその他有価証券評価差額金、マイナスなら借方に置く。

仕訳の型

満期保有目的債券(岐阜産業の社債)
 4/ 1 (借) 満期保有目的債券  970,000   (貸) 当座預金 970,000
 3/31 (借) 当 座 預 金        12,000   (貸) 有価証券利息 12,000
 3/31 (借) 満期保有目的債券    6,000   (貸) 有価証券利息  6,000

その他有価証券(大垣屋商店の株)
 3/31 (借) その他有価証券     60,000   (貸) その他有価証券評価差額金 60,000
翌期首の振戻し
 4/ 1 (借) その他有価証券評価差額金 60,000 (貸) その他有価証券 60,000

なぜ他ではダメなのか

対抗案1:満期保有目的債券も期末の時価で評価する

期末に世の中の金利が上がり、岐阜産業の社債の時価が940,000円に下がったとする。 時価評価をすれば、976,000 − 940,000 = 36,000円の評価損が当期の損益に立つ。 だが、みずほ食品はこの債券を満期まで持つ。5年後には額面どおり1,000,000円が返ってくる。 返ってくる金額が決まっているのに、途中の相場で36,000円の損を計上するのは、 起きない損失を報告することになる。しかも翌期に金利が下がれば36,000円の益が戻る。 本業と無関係の金利の上下で、麺屋の利益が毎期数万円ずつ揺れる。 満期まで持つと決めた債券にとって、意味のある数字は「額面までの道のり」だけだ。

対抗案2:その他有価証券の評価差額も、売買目的と同じく損益に入れる

計算は簡単になるが、損益計算書が壊れる。みずほ食品の3期目の当期純利益が800,000円だとする。 大垣屋商店株の評価差額60,000円を利益に入れれば860,000円。 翌期に株価が1株1,275円まで落ちれば 510,000 − 600,000 = −90,000円で、 本業が同じ800,000円でも当期純利益は710,000円になる。 麺の売れ行きは何も変わっていないのに、利益が860,000 → 710,000 と150,000円動く。 持ち合い株は売る予定がないので、この150,000円は現金にもならない。 現金にならない値動きで報告利益が振り回されるのを避けるために、行き先を純資産に変えている。

よくある間違い

ここで引っかかるはず

Q. 額面より安く買えたのだから、それは「値引き」や「儲け」ではないのか。 A. 債券の値段は、その債券のクーポンと世の中の金利の差で決まる。 クーポン1.2%の債券を、世の中の金利が1.8%のときに買うなら、 その差の分だけ安くしてもらわないと割に合わない。 安いのは、毎年もらえる利息が少ないことの埋め合わせなので、性質は利息と同じになる。 値引きだと考えると、なぜ償還日に必ず額面へ戻るのかが説明できなくなる。

Q. 償却原価法は、額面と取得価額に差があれば必ず使うのか。 A. 差が「金利の調整」から生じている場合に使う。 発行会社の信用が落ちて安くなっただけ、というような場合は金利調整ではないので対象外になる。 試験では「額面金額と取得価額との差額は金利の調整と認められる」という一文が付くので、 その一文があれば償却原価法、なければ取得原価のまま、と読める。

Q. その他有価証券が値下がりしていたら、純資産がマイナスの項目になるのか。 A. なる。借方にその他有価証券評価差額金が立ち、純資産の部にマイナスの行として並ぶ。 純資産の部にマイナスが並ぶこと自体は珍しくなく、繰越利益剰余金の欠損も同じ形になる。 なお、時価が著しく下落して回復の見込みがない場合は、評価差額金ではなく 投資有価証券評価損として損益計算書に落とす(減損)。ここだけは損益を通る。

関連マップ

flowchart TD
  A[額面と取得価額に差がある債券] --> B{差は金利の調整か}
  B -- はい --> C[償却原価法<br/>差を期間で配る]
  B -- いいえ --> D[取得原価のまま]
  C --> E[有価証券利息<br/>損益計算書]
  F[その他有価証券] --> G[期末時価に評価替え]
  G --> H[その他有価証券評価差額金<br/>純資産へ直接]
  H --> I[株主資本等変動計算書<br/>boki2-ch10-s03]
  H --> J[税効果で分解<br/>boki2-ch09-s02]
  C -.同じ発想.-> K[減価償却<br/>boki2-ch05-s01]

確認問題

売買目的で保有する株式2,000株(1株あたりの帳簿価額606円)のうち、800株を1株630円で売却し、
代金は当座預金に振り込まれた。この取引の仕訳として正しいものはどれか。
  1. (借)当座預金 504,000 /(貸)売買目的有価証券 504,000
  2. (借)当座預金 504,000 /(貸)売買目的有価証券 480,000、有価証券売却益 24,000
  3. (借)当座預金 504,000 /(貸)売買目的有価証券 484,800、有価証券売却益 19,200
  4. (借)当座預金 504,000 /(貸)売買目的有価証券 1,212,000、有価証券売却損 708,000
答えと解説

正解: 3

正解の根拠: 帳簿から落とすのは売った800株分の帳簿価額 606×800=484,800円。売却価額630×800=504,000円との差19,200円が有価証券売却益になる。
誤答1: 売却価額でそのまま帳簿を落としており、売却益が計上されない。帳簿価額と売却価額の差が損益になる。
誤答2: 1株600円で計算しており、取得時の売買手数料12,000円を取得原価に含め忘れている。帳簿価額は606円。
誤答4: 2,000株すべての帳簿価額を落としている。売ったのは800株だけで、残り1,200株は帳簿に残る。

参照: boki2-ch04-s02 term:baibaimokuteki

2028年4月1日に、額面1,000,000円の社債を970,000円で取得し、満期保有目的債券に分類した。
償還日は2033年3月31日、クーポンは年1.2%で毎年3月31日に受け取る。
額面金額と取得価額の差額は金利の調整と認められるため償却原価法(定額法)を適用する。
決算日2029年3月31日に計上する有価証券利息の金額はいくらか。
  1. 6,000円
  2. 12,000円
  3. 30,000円
  4. 18,000円
答えと解説

正解: 4

正解の根拠: クーポン 1,000,000×1.2%=12,000円に、償却額(1,000,000−970,000)÷5年=6,000円を加えた18,000円。現金で受け取る分と、帳簿価額を額面に近づける分の両方が利息になる。
誤答1: 償却額6,000円だけを計上しており、現金で受け取ったクーポン12,000円が抜けている。
誤答2: クーポン12,000円だけを計上しており、償却原価法による6,000円が抜けている。
誤答3: 額面と取得価額の差30,000円を全額当期の収益にしている。これは5年分の金額なので、1年あたりに配る。

参照: boki2-ch04-s03 term:shokyakugenkaho

決算にあたり、その他有価証券に分類している株式(取得原価600,000円、期末時価660,000円)を
全部純資産直入法により評価替えする。税効果会計は適用しない。正しい仕訳はどれか。
  1. (借)その他有価証券 60,000 /(貸)有価証券評価益 60,000
  2. (借)その他有価証券 60,000 /(貸)その他有価証券評価差額金 60,000
  3. (借)その他有価証券評価差額金 60,000 /(貸)その他有価証券 60,000
  4. 仕訳なし(売却するまで評価替えしない)
答えと解説

正解: 2

正解の根拠: その他有価証券は期末に時価で評価するが、差額は損益計算書を通さず純資産の「その他有価証券評価差額金」に直接計上する。時価のほうが高いので、資産が借方、純資産が貸方に立つ。
誤答1: 有価証券評価益は損益計算書の科目で、売買目的有価証券の評価差額に使う。売る予定のない株の値動きが当期純利益に乗ってしまう。
誤答3: 借方と貸方が逆。時価が取得原価を上回っているので、資産は増え、評価差額金は貸方に立つ。
誤答4: その他有価証券は時価評価の対象。取得原価のまま置くのは子会社株式・関連会社株式と、時価のない株式。

参照: boki2-ch04-s03 term:sonotayukahyokasagaku

有価証券の期末評価と貸借対照表への表示に関する記述として、最も適切なものはどれか。
  1. 子会社株式は期末に時価評価せず取得原価のまま、固定資産の投資その他の資産に表示する
  2. 満期保有目的債券は、償還日までの期間にかかわらず、すべて固定資産に表示する
  3. 売買目的有価証券の評価差額は、その他有価証券と同じく純資産の部に直接計上する
  4. その他有価証券は、時価が取得原価を下回る場合にかぎり評価替えを行う
答えと解説

正解: 1

正解の根拠: 子会社株式は事業支配のために保有しており、売却を予定していないので時価評価せず、取得原価のまま固定資産(投資その他の資産)に表示する。値動きを損益に反映させると、本業と無関係の要因で利益が振れる。
誤答2: 決算日の翌日から1年以内に償還が到来する満期保有目的債券は流動資産に表示する。流動と固定の境目は保有目的ではなく1年基準で決まる。
誤答3: 売買目的有価証券の評価差額は有価証券評価損益として損益計算書に計上する。純資産に直接計上するのはその他有価証券のほう。
誤答4: その他有価証券は時価が上回る場合も下回る場合も評価替えする。損だけを計上する扱いではない。

参照: boki2-ch04-s01 term:kogaishakabushiki