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第9章 税効果会計 — 会計の利益と税金の所得がずれる

boki2-ch09 / 幹 約35分・枝 約18分

3期目の決算が固まりかけた5月、七海は税理士から届いた法人税の申告書の下書きを見て手を止めた。 損益計算書の税引前当期純利益は2,000,000円。ところが申告書の「所得金額」の欄には2,400,000円と書いてある。 400,000円多い。計算間違いかと思って電話をすると、税理士は「合っています」と即答した。

「会計の利益と、税金の計算のもとになる所得は、別の物差しで測っているので一致しません」

七海が納得できなかったのはその先だ。所得が2,400,000円なら、税金は720,000円になる。 これを損益計算書に「法人税等 720,000」と書くと、税引前利益2,000,000円に対する負担は36%になる。 実効税率は30%と聞いていたのに、決算書を見た人は「この会社は36%も税金を取られている」と読む。 帳面の数字が、そのままでは事実を伝えない。

この章はそのズレを扱う。3級では、法人税等は「計算された税額をそのまま書く」だけだった(第9章)。 2級では、そのズレの一部がいずれ元に戻る性質のものであることに気づき、 戻る分を帳面の上で先取りして調整する。これが税効果会計になる。

読み手の本業でいえば、取引先の決算書に載っている「繰延税金資産」という行の正体を知る章でもある。

小話:自己資本の中身が問われた年

繰延税金資産は、将来の税金が減るという見込みの上に立っている資産で、 見込みが崩れれば取り崩され、その分だけ純資産が減る。 この性質が現実の問題として表に出たのが、2000年代前半の日本の金融機関だった。

不良債権の処理で多額の貸倒れを見込んで費用に計上する一方、 税務上はその全額がすぐには損金にならない。差は将来減算一時差異として積み上がり、 それに税率を掛けた繰延税金資産が、自己資本の中で無視できない割合を占めるようになった。 将来十分な利益が出れば回収できる資産だが、業績の見通しが悪化すれば回収できない。 2003年には、大手銀行で繰延税金資産の計上額が監査の場で絞り込まれ、 自己資本比率が急落して公的資金の注入に至る事例が生じた。

だから繰延税金資産は、金額の大きさだけを見て「資産が厚い」と読んではいけない項目になっている。 この章で回収可能性の話を外せないのは、それが資産かどうかを決める条件そのものだからだ。

col:boki2-ch09-c1
小話:決算書が先か、申告書が先か

日本の法人税は、確定した決算に基づいて申告する仕組みを取っている。 株主総会で承認された決算をもとに、そこから加算・減算をして所得を計算する。 だから順番は決算書が先で、申告書が後になる。 会計と税務が別の物差しでありながら、出発点が同じ利益であるのは、この仕組みのためだ。

この順番は、実務の風景を決めている。 決算で引当金をいくら積むかは会社が決め、そのうち損金になる範囲は法令が決める。 両者が食い違った分が申告調整として表に出る。 最初から税務の基準に合わせて引当金を積んでしまえば調整は消えるが、 そのときは会計が実態を写さなくなる。 実際、税務の基準に合わせた決算をしてしまい、決算書が実態から離れる会社は今もある。

みずほ食品の七海が申告書の下書きを見て違和感を持ったのは、正しい反応だった。 2つの数字が並ぶのは間違いではなく、2つの目的が同時に動いている証拠で、 その差をどう帳面に反映するかを決めたのが税効果会計になる。

col:boki2-ch09-c2

なぜ利益と所得がずれるのか(一時差異と永久差異)

boki2-ch09-s01 / 幹 17分・枝 9分

七海は税理士から送られてきた計算過程の紙を、もう一度上から読んだ。 税引前当期純利益2,000,000円から出発して、4つの調整が並んでいる。

合計して2,400,000円。どれも「会計では費用にしたが、税金の計算では引かせない」 または「会計では収益にしたが、税金の計算では数えない」という調整だった。

【要請】 そもそも、なぜ2つの数字が要るのか。 会計が答えようとしているのは「この会社は1年でどれだけ稼いだか」であり、読み手は銀行や取引先だ。 将来の損失が見込めるなら、引当金を積んででも早めに費用にしたほうが、実態に近い。 一方、税金が答えようとしているのは「どの会社からいくら取るか」で、読み手は国だ。 見積りで費用を増やせる仕組みを認めると、会社ごとに見積りの甘辛が出て、同じ稼ぎの会社が違う税額になる。 だから税務は、費用として認める範囲を法令で細かく決め、見積りの部分を締める。 目的が違うので、同じ会社の同じ1年について、2つの数字が出る。

【必然】 ここからが2級の本題になる。4つの調整は、性質が2種類に割れる。 貸倒引当金の超過額200,000円と減価償却の超過額100,000円は、今年は引かせてもらえないが、将来引ける。 実際に貸倒れが起きた年、あるいは税務上の耐用年数が過ぎた年に、その分だけ所得が減る。 つまり時期がずれているだけで、通算すれば会計と税務は同じ額になる。これが一時差異だ。

交際費150,000円と受取配当金50,000円は違う。交際費のうち損金にならない部分は、 何年待っても損金にならない。受取配当金の益金不算入も、将来課税されることはない。 ずれたまま二度と戻らない。これが永久差異になる。

覚え方の取っ掛かりは「いつか帳尻が合うものと、合わないもの」。 帳尻が合うものだけが、税効果会計の相手になる。

🌿 由来枝 — 「損金」「益金」という言葉はどこから来たか(約4分)

会計は費用・収益と言い、税務は損金・益金と言う。同じものを指しているようで、別の言葉を使っている。 これは翻訳の都合ではなく、法令が独自の定義を置いているためで、 法人税法は益金の額から損金の額を控除した金額を所得としている。 「金」が付くのは、法令上の計算要素であることを示す言い方で、 資本金・剰余金と同じく、条文の中で金額として扱われるものに付く語感がある。

言葉が別なのは、実は親切でもある。もし税務も「費用」という言葉を使っていたら、 会計の費用と税務の費用が同じ範囲だと思い込みやすい。 損金・益金という耳慣れない言葉が出てくることで、 別の物差しの話をしていると読み手が身構えられる。

※覚え方として、「損金=税務が引かせてくれる費用」「益金=税務が数える収益」と置き換えて読むと、 申告書の加算・減算の意味がそのまま取れるようになる。 加算されているものは「会計では費用にしたが損金にならなかったもの」だと分かる。

で、幹の話に戻ると、言葉が違うのは物差しが違うからで、 その違いが金額として現れたものが、この章で扱う差異ということになる。

🔧 実務枝 — 取引先の決算書で「法人税等」の負担率を見る(約7分)

与信の場で決算書を見るとき、税引前当期純利益と法人税等を並べて割り算をすると、 その会社の税負担率が出る。実効税率がおおむね30%前後なので、 負担率が45%や50%になっている会社は、何かが損金にならなかったことを示している。

理由はいくつかある。交際費が多い、役員給与のうち損金にならない部分がある、 過去の欠損金を使い切って繰越控除が効かなくなった、といった事情だ。 逆に負担率が極端に低い会社は、繰越欠損金を使っていることが多い。 つまり過去に大きな赤字を出しており、その残りで今の税金が抑えられている。

負担率の異常値は、それ自体が悪いことを意味するわけではない。 ただ、損益計算書の当期純利益だけを見ていると気づけない情報が、そこに落ちている。 「今期は黒字だが繰越欠損金でほとんど税金を払っていない」会社は、 欠損金を使い切った翌期から、同じ利益でも手元に残る現金が減る。 資金繰りの読みが変わってくる。

で、幹の話に戻ると、この負担率のずれの正体が、まさに一時差異と永久差異であって、 税効果会計は、そのうち一時差異の分だけを帳面の上でならす仕組みだということになる。

具体例:みずほ食品の3期目の申告調整

税引前当期純利益 2,000,000円。法定実効税率は30%とする。

調整項目 金額 加算か減算か 種類
貸倒引当金の繰入限度超過額 200,000 加算 一時差異(将来減算)
減価償却の償却限度超過額 100,000 加算 一時差異(将来減算)
交際費の損金不算入額 150,000 加算 永久差異
受取配当金の益金不算入額 50,000 減算 永久差異

課税所得 = 2,000,000 + 200,000 + 100,000 + 150,000 − 50,000 = 2,400,000円 法人税等 = 2,400,000 × 30% = 720,000円

このまま損益計算書を作ると、次のようになる。

金額
税引前当期純利益 2,000,000
法人税等 720,000
当期純利益 1,280,000

負担率は 720,000 ÷ 2,000,000 = 36.0%。実効税率30%とは6ポイント離れている。

このうち、一時差異の300,000円(200,000 + 100,000)に対応する税金 300,000 × 30% = 90,000円は、 将来その差異が解消する年に、所得が300,000円減って税金が90,000円安くなる。 今年多く払っている90,000円は、税金の前払いに近い性質を持っている。 永久差異の分(150,000 − 50,000 = 100,000、税額で30,000円)は、二度と戻らないので前払いではない。

用語カード

用語カード:税効果会計 term:zeikokaikei
用語カード:一時差異 term:ichijisai

手順

みずほ食品の数字で、差異の仕分けを1回通す。

  1. 申告調整の項目を並べる。 加算4項目・減算1項目のうち、どれが加算でどれが減算かを写す。
  2. 1項目ずつ「将来どうなるか」を聞く。 貸倒引当金の超過200,000円 → 実際に貸倒れた年に損金になる。将来減算一時差異。 減価償却の超過100,000円 → 税務上の耐用年数が過ぎた年に損金になる。将来減算一時差異。 交際費150,000円 → 何年経っても損金にならない。永久差異。 受取配当金50,000円 → 将来課税されない。永久差異
  3. 一時差異だけを合計する。 200,000 + 100,000 = 300,000円。
  4. 法定実効税率を掛ける。 300,000 × 30% = 90,000円。これが税効果の金額になる。
  5. 永久差異には何もしない。 交際費も受取配当金も、税効果の計算に入れない。

一般化すると、税効果の金額は 一時差異の残高 × 法定実効税率。 掛けるのはその期に発生した差異ではなく、期末時点の一時差異の残高である点が要になる。 前期から繰り越した差異が残っていれば、それも含めた残高に税率を掛け、 前期末に計上した金額との差だけを当期の調整額にする。

仕訳の型

この節では、まず法人税等そのものの仕訳を確認する。税効果の仕訳は次の節で扱う。

中間納付(11月)
11/30 (借) 仮払法人税等 300,000   (貸) 当座預金 300,000

決算(3/31)確定した年税額 720,000
 3/31 (借) 法人税等     720,000   (貸) 仮払法人税等  300,000
                                  (貸) 未払法人税等  420,000

なぜ他ではダメなのか

対抗案1:会計の利益をそのまま所得として、税金を計算する

計算は一本化されて簡単になる。実際、税金の計算を会社の決算に合わせるという考え方自体はある。 壊れるのは公平性だ。みずほ食品が貸倒引当金を200,000円多めに積み、 同じ規模の同業他社が積まなかったとする。会計上の利益は、みずほ食品が2,000,000円、他社が2,200,000円。 そのまま課税すれば、税額は600,000円と660,000円になる。 見積りを厚くしただけで、税金が60,000円変わる。 引当金は将来の見込みなので、いくらにするかには幅がある。 その幅がそのまま税額の差になると、見積りを厚くする動機が生まれ、 最終的には税収が会社の判断に左右される。だから税務は損金の範囲を法令で締める。

対抗案2:ズレは税務の話なので、会計側では何もしない(法人税等をそのまま書く)

3級まではこのやり方だった。壊れるのは損益計算書の読み方になる。 みずほ食品の3期目は負担率36.0%、4期目に貸倒れが実際に起きて差異が解消したとすると、 その期の課税所得は逆に300,000円減り、税額は90,000円少なくなる。 仮に4期目の税引前利益も2,000,000円なら、法人税等は630,000円、負担率31.5%。 同じ2,000,000円を稼いだ2つの期で、当期純利益が1,280,000円と1,370,000円になる。 稼ぐ力は変わっていないのに、税金の計算のタイミングだけで最終利益が90,000円違って見える。 差異が戻ることが分かっているなら、その戻りを待たずに帳面の上でならしたほうが、期間比較ができる。

よくある間違い

ここで引っかかるはず

Q. 税効果会計を適用すると、払う税金は減るのか。 A. 1円も減らない。納付する金額は申告書で決まった720,000円のままだ。 動くのは損益計算書の見え方だけで、法人税等720,000円の下に法人税等調整額という行が加わり、 最終的な当期純利益が変わる。税金を減らす手続きではなく、税金費用を期間に配る手続きという位置づけになる。 節税の話と混ざると、この章は最後まで意味が取れなくなる。

Q. 会計と税務で数字が2つあるのは無駄ではないか。1つにまとめられないのか。 A. 目的が違うので1つにはできない。会計は「実態に近い成績を外に報告する」ため、 将来の損失を見積もってでも早く費用にする。税務は「公平に課税する」ため、 見積りの部分を認めず、確実になった時点で損金にする。 どちらも正しく、正しさの基準が違う。 片方に合わせると、もう片方の目的が達成できなくなるので、2つ作って差を管理するほうが安く済む。

Q. 差異が解消するのは何年後か分からない。それでも計算できるのか。 A. 解消する時期そのものは金額に影響しない。掛けるのは残高と税率だけだからだ。 ただし、解消する時期に会社が黒字でなければ、所得を減らす効果は出ない。 そこで、繰延税金資産を計上してよいかどうかを判断するときに、 将来その差異を使い切れるだけの所得が見込めるか(回収可能性)を検討する。 この話は次の節で扱う。

関連マップ

flowchart TD
  A[税引前当期純利益] --> B[申告調整]
  B --> C{将来解消するか}
  C -- する --> D[一時差異<br/>税効果の対象]
  C -- しない --> E[永久差異<br/>対象外]
  D --> F{将来の所得を減らすか}
  F -- 減らす --> G[将来減算一時差異<br/>繰延税金資産<br/>boki2-ch09-s02]
  F -- 増やす --> H[将来加算一時差異<br/>繰延税金負債<br/>boki2-ch09-s02]
  B --> I[課税所得 → 法人税等<br/>boki3-ch09-s02]
  G --> J[貸倒引当金・引当金<br/>boki2-ch07-s01]
  H --> K[その他有価証券評価差額金<br/>boki2-ch04-s03]

将来減算一時差異と繰延税金資産

boki2-ch09-s02 / 幹 18分・枝 9分

七海は、90,000円という数字の置き場所で悩んだ。 この90,000円は、今年多く納めた税金のうち、将来返ってくる分にあたる。 返ってくるといっても、税務署が現金で返すわけではない。 将来の年に、所得が300,000円少なく計算され、その年の税金が90,000円安くなるという形で戻る。

【必然】 将来の税金が安くなる権利は、会社にとって値打ちのあるものだ。 前払家賃が「将来サービスを受けられる権利」として資産になるのと同じ構造で、 将来の支出を減らせる権利も資産になる。だからこれを繰延税金資産として借方に立てる。 相手科目は現金でも負債でもないので、貸方には法人税等調整額という科目を置く。 これは法人税等のマイナスとして働き、損益計算書で法人税等の下に並ぶ。

【要請】 こうすると何が起きるか。法人税等720,000円から調整額90,000円が差し引かれ、 実質的な税金費用は630,000円になる。税引前利益2,000,000円に対する比率は31.5%。 実効税率30%との差1.5ポイントは、永久差異(交際費と受取配当金の差引100,000円×30%=30,000円)から出ている。 戻る分だけをならし、戻らない分は残す。 これが税効果会計がやっていることの全部と言っていい。

逆向きの差異もある。その他有価証券の評価差額のように、 会計では財産が増えているのに税務では課税されておらず、 将来売ったときに課税されるものだ。これは将来加算一時差異と呼ばれ、 将来の税金が増える義務として繰延税金負債を貸方に立てる。 覚え方の取っ掛かりは「将来の税金が減るなら資産、増えるなら負債」。

🔧 実務枝 — 繰延税金資産は与信でどう扱われるか(約8分)

取引先の貸借対照表に「繰延税金資産」という行が大きく立っているとき、 その中身は将来の税金が安くなる権利であって、売れば現金になる財産ではない。 しかも、その権利が使えるのは将来その会社が黒字を出したときに限られる。 赤字が続けば、所得を減らす相手がないので、権利は使われないまま眠る。

だから会計基準は、繰延税金資産に回収可能性の検討を求めている。 将来の課税所得の見込み、過去の業績、一時差異の解消時期を見て、 回収が見込めない部分は計上しない。既に計上している分も、 見込みが悪化すれば取り崩す。取り崩すと、その分だけ費用が増えて純資産が減る。

ここが与信で効いてくる。業績が悪化した会社は、 本業の赤字に加えて繰延税金資産の取崩しという二段目の損失を出すことがある。 自己資本比率を見るときは、純資産の中で繰延税金資産がどれだけの割合を占めているかを見ておくと、 悪化局面での自己資本の目減りの幅が読める。

で、幹の話に戻ると、繰延税金資産が資産として認められるのは 「将来使える見込みがある」からで、この条件が外れれば資産ではなくなる。 権利であっても、使える当てがなければ財産にはならないという、資産の定義そのものの話に戻ってくる。

🔗 隣枝 — その他有価証券の評価差額を分解する — 第4章の続き(約6分)

第4章で、大垣屋商店の株(その他有価証券)の評価差額60,000円を そのまま純資産に載せた。あのときは税効果を無視すると断ってあった。ここでその続きをやる。

会計では、期末に時価が60,000円上がったことを認識している。 税務は、売って儲けが確定するまで課税しない。つまり会計だけが財産の増加を認識している状態で、 将来売ったときに60,000円が課税される。将来加算一時差異にあたる。

税率30%なら、将来払う税金は18,000円。これを繰延税金負債として切り出し、 純資産に載せるのは残りの42,000円だけにする。

 3/31 (借) その他有価証券 60,000  (貸) 繰延税金負債            18,000
                                  (貸) その他有価証券評価差額金 42,000

貸方が2つに割れるのは、60,000円の増加のうち18,000円分は 将来国に渡すことが決まっていて、株主の取り分ではないからだ。 なお、この仕訳では法人税等調整額を使わない。 元の評価差額が損益計算書を通っていないので、その税効果も損益計算書を通さない、という対応関係になる。

で、幹の話に戻ると、繰延税金負債は「将来払う税金の予約」で、 繰延税金資産の裏返しにすぎない。どちらも一時差異×税率という同じ式から出てくる。

具体例:3期目と4期目を並べる

前提を置き直す。法定実効税率30%、税引前当期純利益は3期目・4期目とも2,000,000円。 3期目に発生した将来減算一時差異300,000円が、4期目にすべて解消したとする。

3期目(差異が発生した年)

一時差異の期末残高 300,000円 × 30% = 繰延税金資産 90,000円。前期末はゼロなので、当期の調整額は90,000円。

金額
税引前当期純利益 2,000,000
法人税等 720,000
法人税等調整額 △90,000
当期純利益 1,370,000

4期目(差異が解消した年)

課税所得 = 2,000,000 − 300,000 + 150,000 − 50,000 = 1,800,000円(永久差異は毎期同額と仮定)。 法人税等 = 1,800,000 × 30% = 540,000円。 一時差異の期末残高はゼロなので繰延税金資産もゼロ。前期末90,000円を取り崩すので、当期の調整額は+90,000円。

金額
税引前当期純利益 2,000,000
法人税等 540,000
法人税等調整額 +90,000
当期純利益 1,370,000

2期とも当期純利益1,370,000円で並ぶ。 税効果を適用しなければ、 3期目1,280,000円・4期目1,460,000円となり、稼ぐ力が同じなのに180,000円の差が出ていた。 負担率もどちらも31.5%で揃う。残った1.5ポイントは永久差異の分で、これは消えない。

用語カード

用語カード:繰延税金資産 term:kurinobezeikinshisan
用語カード:繰延税金負債 term:kurinobezeikinfusai
用語カード:法人税等調整額 term:hojinzeitochoseigaku

手順

3期目の税効果の仕訳を、数字で1回通す。

  1. 期末の将来減算一時差異の残高を出す。 貸倒引当金の超過200,000 + 減価償却の超過100,000 = 300,000円。
  2. 法定実効税率を掛ける。 300,000 × 30% = 90,000円。これが期末にあるべき繰延税金資産の残高。
  3. 前期末の残高と比べる。 前期末はゼロ。差は +90,000円。
  4. 回収可能性を確かめる。 将来、差異が解消する期に十分な所得が見込めるかを検討する。 見込めない部分は資産に計上しない。
  5. 差の分だけ仕訳する。 繰延税金資産を90,000円増やし、同額を法人税等調整額の貸方に置く。

4期目は同じ手順で、期末残高がゼロ、前期末が90,000円なので、差は −90,000円。 繰延税金資産を貸方で減らし、法人税等調整額を借方に置く。

一般化すると、当期の仕訳金額は (期末の一時差異残高 × 税率)−(前期末に計上済みの繰延税金額)。 毎期、残高を洗い替える形になっていて、 3級の貸倒引当金を差額補充法で積むときの考え方と同じ形をしている。

仕訳の型

3期目(差異が発生し、繰延税金資産を計上する)
 3/31 (借) 繰延税金資産    90,000   (貸) 法人税等調整額 90,000

4期目(差異が解消し、繰延税金資産を取り崩す)
 3/31 (借) 法人税等調整額  90,000   (貸) 繰延税金資産   90,000

その他有価証券の評価差額に税効果を適用する場合(第4章の続き)
 3/31 (借) その他有価証券 60,000   (貸) 繰延税金負債            18,000
                                   (貸) その他有価証券評価差額金 42,000

なぜ他ではダメなのか

対抗案1:繰延税金資産を、回収可能性を検討せずに全額計上する

計算は機械的になって楽だ。壊れるのは資産の意味になる。 みずほ食品が4期目に大きな赤字を出し、その後も黒字の見込みが立たないとする。 将来減算一時差異300,000円は、所得を減らす相手がいないので使えない。 それでも90,000円を資産に計上し続ければ、使えない権利が財産として貸借対照表に並ぶ。 純資産もその分だけ厚く見える。業績が悪い会社ほど、実体のない資産で自己資本が支えられる形になり、 決算書を見た銀行は自己資本比率を実際より高く読む。 だから将来の所得の見込みを検討し、回収できない分は計上しない。

対抗案2:一時差異も永久差異も区別せず、全部に税効果を適用する

区別する手間はなくなる。壊れるのは、二度と取り崩せない残高が残る点だ。 交際費の損金不算入150,000円に税効果を適用すると、繰延税金資産が45,000円立つ。 この45,000円は、将来どの期にも解消しない。翌期も翌々期も、同じ理由でさらに積み上がる。 5年で225,000円。取り崩す機会が永久に来ない資産が貸借対照表に溜まっていく。 資産は将来の利益に繋がるから資産なので、繋がる先がないものは最初から載せない。

よくある間違い

ここで引っかかるはず

Q. 繰延税金資産は、いつか現金になるのか。 A. 現金として受け取ることはない。将来の年に納める税金が減るという形でだけ実現する。 その意味では、前払費用に似ている。 前払家賃も現金では戻ってこないが、将来家賃を払わずに部屋を使えるという形で実現する。 将来の支出を減らせる権利という資産の型は、簿記にいくつも出てくる。

Q. 回収可能性の判断は、試験でどこまで問われるのか。 A. 2級では「回収可能性に問題はない」と問題文に書かれていることがほとんどで、 判断そのものを問われることは少ない。ただし、 回収可能性という条件があることを知らないと、繰延税金資産がなぜ資産なのかが説明できない。 条件付きの資産だと押さえておけば、実務で決算書を読むときにも効く。

Q. 法人税等調整額がプラスの年とマイナスの年があるのは、赤字と黒字の話か。 A. 業績とは関係がない。差異が発生した年は資産が増えるので貸方(利益が増える向き)、 解消した年は資産が減るので借方(利益が減る向き)になる。 みずほ食品の例では、3期目も4期目も税引前利益は同じ2,000,000円で、 どちらも黒字のまま、調整額の符号だけが入れ替わっている。 符号を決めているのは、差異の残高が増えたか減ったかだけだ。

関連マップ

flowchart TD
  A[将来減算一時差異の期末残高] --> B[× 法定実効税率]
  B --> C{回収可能性はあるか}
  C -- ある --> D[繰延税金資産<br/>借方]
  C -- ない --> E[計上しない]
  D --> F[法人税等調整額<br/>貸方=税金費用の減少]
  F --> G[当期純利益<br/>boki2-ch01-s02]
  H[将来加算一時差異] --> I[繰延税金負債<br/>貸方]
  I --> J[その他有価証券評価差額金の分解<br/>boki2-ch04-s03]
  D --> K[引当金の繰入超過<br/>boki2-ch07-s01]
  D --> L[減価償却の償却超過<br/>boki2-ch05-s01]

確認問題

決算にあたり、当期に生じた将来減算一時差異300,000円について税効果会計を適用する。
法定実効税率は30%、前期末の繰延税金資産の残高はゼロであり、回収可能性に問題はない。
正しい仕訳はどれか。
  1. (借)繰延税金資産 90,000 /(貸)法人税等調整額 90,000
  2. (借)法人税等調整額 90,000 /(貸)繰延税金資産 90,000
  3. (借)繰延税金資産 300,000 /(貸)法人税等調整額 300,000
  4. (借)法人税等 90,000 /(貸)未払法人税等 90,000
答えと解説

正解: 1

正解の根拠: 将来減算一時差異300,000円に税率30%を掛けた90,000円が、将来の税金を減らす権利にあたる。資産なので借方、相手科目は法人税等調整額で、法人税等を減らす向き(貸方)に立つ。
誤答2: 借方と貸方が逆で、差異が解消した年の仕訳。発生した年は繰延税金資産が増える。
誤答3: 一時差異の金額そのものを計上している。資産になるのは差異に税率を掛けた税額部分だけ。
誤答4: 実際に納める法人税等の仕訳で、税効果の調整ではない。税効果会計を適用しても納付額は変わらない。

参照: boki2-ch09-s02 term:kurinobezeikinshisan

税引前当期純利益は2,000,000円である。申告調整は、貸倒引当金繰入限度超過額200,000円(加算)、
減価償却限度超過額100,000円(加算)、交際費の損金不算入額150,000円(加算)、
受取配当金の益金不算入額50,000円(減算)である。法定実効税率30%で税効果会計を適用したとき、
損益計算書に計上される法人税等調整額はいくらか。
  1. 120,000円(貸方)
  2. 135,000円(貸方)
  3. 90,000円(貸方)
  4. 30,000円(借方)
答えと解説

正解: 3

正解の根拠: 税効果の対象は将来解消する一時差異だけ。貸倒引当金の超過200,000円と減価償却の超過100,000円の合計300,000円に30%を掛けた90,000円が、法人税等を減らす向き(貸方)に立つ。
誤答1: 交際費150,000円を含めた400,000円に税率を掛けた金額。交際費の損金不算入は永久差異で、将来解消しないため対象外。
誤答2: 加算・減算をすべて通算した450,000円に税率を掛けた金額。永久差異を含めている点が誤り。
誤答4: 永久差異100,000円に税率を掛けた金額を借方に置いている。永久差異には税効果を適用せず、また当期は差異が発生した年なので調整額は貸方になる。

参照: boki2-ch09-s01 term:ichijisai

その他有価証券(取得原価600,000円、期末時価660,000円)について、全部純資産直入法により評価替えを行う。
税効果会計を適用し、法定実効税率は30%とする。正しい仕訳はどれか。
  1. (借)その他有価証券 60,000 /(貸)その他有価証券評価差額金 60,000
  2. (借)その他有価証券 60,000 /(貸)法人税等調整額 18,000、その他有価証券評価差額金 42,000
  3. (借)その他有価証券 60,000 /(貸)繰延税金資産 18,000、その他有価証券評価差額金 42,000
  4. (借)その他有価証券 60,000 /(貸)繰延税金負債 18,000、その他有価証券評価差額金 42,000
答えと解説

正解: 4

正解の根拠: 会計は含み益60,000円を認識しているが、税務は売却まで課税しない。将来売却時に課税される将来加算一時差異なので、60,000×30%=18,000円を繰延税金負債とし、純資産に載せるのは残りの42,000円になる。
誤答1: 税効果を適用していない場合の仕訳。設問は適用する前提なので、将来払う税金の分を切り出す必要がある。
誤答2: 法人税等調整額は損益計算書の項目。元の評価差額が損益を通っていないので、その税効果も損益を通さず、評価差額金の側で調整する。
誤答3: 将来の税金が増える場面なので負債であり、繰延税金資産ではない。資産が貸方に立っている点も形が合わない。

参照: boki2-ch09-s02 term:kurinobezeikinfusai

税効果会計に関する記述として、最も適切なものはどれか。
  1. 税効果会計を適用すると、その期に納付する法人税等の金額が減少する
  2. 税効果会計の対象となるのは一時差異であり、永久差異は対象とならない
  3. 交際費の損金不算入額は、将来解消するため繰延税金資産の計上対象となる
  4. 繰延税金資産は、将来の課税所得の見込みにかかわらず、一時差異の全額に税率を掛けて計上する
答えと解説

正解: 2

正解の根拠: 税効果会計は、会計上の利益と課税所得のズレのうち、将来解消して税金の額に影響するもの(一時差異)だけを対象とする。永久差異は将来にわたって解消しないため、対象にならない。
誤答1: 納付額は申告書で確定した金額のままで変わらない。動くのは損益計算書上の税金費用の表示だけ。
誤答3: 交際費の損金不算入は将来にわたって解消しない永久差異にあたる。繰延税金資産を計上すると、取り崩す機会のない残高が残る。
誤答4: 繰延税金資産には回収可能性の検討が必要で、将来その差異を解消できるだけの課税所得が見込めない部分は計上しない。

参照: boki2-ch09-s01 term:zeikokaikei