3級で書いた1期目の貸借対照表は、右下がずいぶん静かだった。 純資産の部にあるのは資本金3,000,000円と繰越利益剰余金800,000円の2行だけ。 資本金は設立の日に「(借)現金 3,000,000/(貸)資本金 3,000,000」と1本書いたきり、 1年間まったく動かなかった。
3期目はそうはいかない。第2工場の増設で外から4,000,000円を集め、株主総会で配当を出し、 持ち合いで買った大垣屋商店の株が値上がりする。純資産の部は2行から6行に増え、 しかも増え方の性質がばらばらだ。損益計算書を通って増えたものと、 通らずに増えたものが同じ枠の中に並ぶ。
この章で扱うのは、その6行がどこから来たのかという一点だけ。 出所さえ分かれば、仕訳は「どの行を動かすか」を選ぶ作業になる。 3級の株式会社の資本からの続きなので、地続きの部分は多い。
いまは資本金1円でも株式会社を作れるが、これは比較的新しい話になる。 1990年(平成2年)の商法改正で最低資本金制度が入り、 株式会社を設立するには1,000万円、有限会社でも300万円の資本金が必要になった。 ねらいは、看板だけの会社が債権者に迷惑をかけるのを防ぐことにあった。 資本金という数字に、会社の信用を担保させようとしたわけだ。
ところが実際には、設立の日に1,000万円を用意して登記し、 翌日に全額を運転資金として使ってしまえば、会社の財産は残らない。 資本金は「設立の日にいくら払い込んだか」の記録であって、 今日いくら持っているかを保証するものではない。 起業の入口だけが高くなり、守りたかった債権者は守られなかった。 2003年には5年以内に最低資本金を満たせばよいという特例が作られ、 2005年に成立した会社法(2006年施行)で最低資本金制度そのものが廃止された。
代わりに残ったのが、資本金と準備金を配当に回させないという規制のほうだ。 入口で金額を求めるのをやめ、出口で外に出す金を絞るやり方に切り替わった。 だから資本金の額そのものより、その額を超えて剰余金がいくら積み上がっているか、 そして配当でどれだけ出ていったかを見るほうが、会社の体力を言い当てる。
配当のたびに10分の1を積み立て、資本金の4分の1まで来たら止める。 この2つの数字には、面積や利率のような計算の裏付けがない。 明治32年(1899年)の旧商法にすでに、利益配当のたびに 利益の20分の1以上を準備金として積み立て、資本の4分の1に達するまで続ける、 という趣旨の規定が置かれていた。割合は改正のたびに動いたが、 「配るたびに一定割合を積み、資本金の4分の1で打ち止め」という骨格は 100年以上ほとんど変わらずに残っている。
なぜ4分の1なのかを説明する定説はない。 資本金の全額を二重に積ませるのは重すぎ、10分の1では薄すぎる、 という程度の相場観が当時の立法過程で選ばれたと考えるほかない。 ※覚え方として、「株主に配るときは1割を置いていく。置いた分が資本金の4分の1まで貯まれば、もう置かなくていい」 と、配当のたびに小銭を貯金箱へ入れる絵で覚えると、10分の1と4分の1が混ざりにくい。
数字そのものに理屈がなくても、なぜ積ませるのかには理屈がある。 株主が有限責任である以上、債権者が当てにできるのは会社の財産だけで、 その財産が配当で薄くなっていくのを止める仕掛けが要る。 数字は相場観でも、仕掛けの目的のほうは100年前から変わっていない。
第2工場の見積りが出た日、水野社長は封筒を持ったまま事務所で立ち尽くしていた。 建物16,000,000円、製麺ライン8,000,000円、締めて24,000,000円。 大垣中央銀行に持ち込むと、支店長は「18,000,000円までなら出せます。 ただし残りは自己資金を入れてください」と言った。 借入で全部を賄うと、返済が始まった途端に月々の資金繰りが持たない、というのが理由だった。
自己資金6,000,000円のうち2,000,000円は手元の当座預金から出す。 残りの4,000,000円をどうするか。社長は弟の水野和彦、麺を長く卸してきた大垣屋商店、 それに現場の従業員10人に声をかけ、株を買ってもらうことにした。 1株4,000円で1,000株、合わせて4,000,000円。これが増資、会社法の言い方だと募集株式の発行になる。
七海が引っかかったのはここからだった。4,000,000円が入ってくるのだから、 資本金は3,000,000+4,000,000で7,000,000円になるはずだ。 ところが税理士は「全額を資本金にしなくてもいい。半分は資本準備金にできます」と言う。 どちらに置いても入ってくる現金は同じなのに、置き場所を2つに分けられる。分ける意味はどこにあるのか。
【要請】 意味は、資本金という数字が債権者にとっての最後の砦になっていることから来ている。
株式会社の株主は有限責任で、会社が潰れても失うのは出資した金額までだ。
社長個人の財産に取り立てはいかない。だから会社に金を貸す側、
たとえば大垣中央銀行や西美濃製粉から見れば、当てにできるのは会社そのものの財産だけになる。
その財産を株主が配当でどんどん外へ持ち出せたら、貸した側はたまらない。
そこで会社法は「資本金」という線を引き、その分は配当で外に出せないことにした。
【必然】 すると、資本金を大きくするほど会社は身動きが取れなくなる。
資本金は登記されるので外から見えるが、減らすには株主総会の特別決議に加えて、
官報に公告して1か月以上の異議申述期間を置く債権者保護手続が要り、変更登記の費用もかかる。
一方、資本準備金も配当に回せない点は同じだが、登記事項ではなく、取り崩すのも普通決議で足りる。
同じ「外に出せない金」でも、資本金は固く締めた蓋、資本準備金は少し緩い蓋、という差がある。
だから会社法は、払込金額の2分の1を超えない額なら資本金にしなくてよい、という選び方を残した。
覚え方の取っ掛かりは「資本金は登記される数字、準備金は登記されない数字」。 外から見えるものほど動かしにくい、と考えると、手続の重さの違いも一緒に思い出せる。
準備金は英語の reserve の訳語で、reserve はラテン語 reservare(取っておく・残しておく)から来ている。
使うためではなく、使わずに取り分けておくことがこの語の芯にある。
日本語の「準備」も、あらかじめ備えて置いておく意味なので、当て方としては素直な訳だ。
同じ発想の言葉は簿記の中に何度も出てくる。3級で習った貸倒引当金の「引当」も、 将来の損に引き当ててあらかじめ取り分けておくという意味だった。 準備金と引当金は、片方が純資産、片方が資産のマイナスや負債という違いはあるが、 「先に取り分けておく」という動きは同じところから出ている。
なお「資本準備金」「利益準備金」は会社法が積立てを義務づけているので法定準備金と呼ばれる。 会社が自分の判断で利益剰余金の中に作る新築積立金や別途積立金は任意積立金といい、 名前は似ているが法定準備金ではない。
で、幹の話に戻ると、準備金は「取っておく」ための箱で、資本金と同じく配当には回せない。 違いは箱の蓋の固さだけだ、と押さえておけば十分に足りる。
3期目の8月から9月にかけて、増資は次の順で進んだ。
| 日付 | 出来事 | 金額 |
|---|---|---|
| 8/10〜8/20 | 1,000株の募集に対して申込みがあり、申込証拠金を受け取った | 4,000,000 |
| 8/20 | 申込証拠金を大垣中央銀行の別段預金に預け入れた | 4,000,000 |
| 9/ 1 | 払込期日。申込証拠金を資本金・資本準備金に振り替えた | 4,000,000 |
| 9/ 1 | 別段預金を当座預金に預け替えた | 4,000,000 |
| 9/ 5 | 証券代行手数料・登記の登録免許税を当座預金から支払った | 120,000 |
引き受けた内訳は、社長の弟が500株、大垣屋商店が150株、従業員10人で350株。 このうち大垣屋商店の150株(600,000円)は、みずほ食品が同じころ大垣屋商店の株400株を 600,000円で買ったのと対になっている。互いに相手の株を持ち合ったわけで、 みずほ食品から見た大垣屋商店株の話は第4章にある。
資本金にいくら入れるか
払込金額の総額は 4,000 × 1,000 = 4,000,000円。 このうち資本金にしないでよいのは2分の1を超えない額なので 2,000,000円まで。 みずほ食品は税理士の勧めどおり、会社法が認める最低額を資本金にした。
増資後の資本金は 3,000,000 + 2,000,000 = 5,000,000円、資本準備金は 2,000,000円になる。
3級で書いた設立時の1本も、実は半分の1,500,000円を資本準備金にすることができた。 みずほ食品が全額を資本金にしたのは、社長が 「資本金3,000,000円と書いてあったほうが取引先に格好がつく」と言ったからだ。 そのときの定款の認証手数料・設立登記の登録免許税など180,000円が創立費で、 1期目の損益計算書では「その他費用955,000円」の中に含まれている。
reserve の訳で、ラテン語 reservare(取っておく)に遡る。
利益準備金とともに、会社法が積立てを求める法定準備金にあたる。みずほ食品の増資で、実際に手を動かす順に並べる。
一般化すると、資本金の増加額は 払込金額 ×(2分の1以上、1以下) の範囲で会社が選び、 資本準備金 = 払込金額 − 資本金の増加額で残りが決まる。 迷うのは2番だけなので、問題文に「最低額」「2分の1」の語があるかを最初に探すのが速い。
設立時(1期目・3級で書いた形)
4/ 1 (借) 現 金 3,000,000 (貸) 資本金 3,000,000
4/ 1 (借) 創 立 費 180,000 (貸) 現 金 180,000
増資(3期目)
8/20 (借) 別段預金 4,000,000 (貸) 株式申込証拠金 4,000,000
9/ 1 (借) 株式申込証拠金 4,000,000 (貸) 資 本 金 2,000,000
(貸) 資本準備金 2,000,000
9/ 1 (借) 当座預金 4,000,000 (貸) 別段預金 4,000,000
9/ 5 (借) 株式交付費 120,000 (貸) 当座預金 120,000
対抗案1:払込金額を全額「資本準備金」にする(資本金は動かさない)
手続の軽いほうに全部入れておけば将来が楽になる。そう考えたくなるが、 これを許すと資本金という数字が意味を失う。 みずほ食品は4,000,000円を集めたのに、登記される資本金は3,000,000円のまま。 債権者が法務局で調べても会社の元手は3,000,000円としか出てこない。
さらに悪いのは、その2,000,000円が普通決議+債権者保護手続で取り崩せてしまうことだ。 取り崩せばその他資本剰余金になり、そこから配当に回せる(s02)。 つまり「登記上は資本金3,000,000円のまま、集めた2,000,000円は数年後に株主へ返す」 という道が最初から開いている。半分という線は、 動かしやすさと外への見え方のどちらも捨てないための折衷点になっている。
対抗案2:申込証拠金を使わず、申込みを受けた時点で資本金にしてしまう
手数が減って楽に見える。壊れるのは申込みが募集株数を超えたときだ。 社長の弟が張り切って「300株追加で買う」と言い出し、 申込みが1,300株=5,200,000円になったとする。 申込みの時点で資本金にすれば、資本金2,600,000円・資本準備金2,600,000円で帳簿と登記が動く。 ところが実際に発行するのは1,000株だけなので、落選した300株分の1,200,000円は返さなければならない。
返した後で帳簿を直すには、資本金600,000円の減少という手続が要る。 株主総会の特別決議、官報公告、1か月以上の異議申述期間、そして変更登記。 公告の掲載料だけで数万円、期間も1か月以上止まる。 申込証拠金という科目を1つ挟んでおけば、返金は 「(借)株式申込証拠金 1,200,000/(貸)別段預金 1,200,000」の1本で終わる。 まだ株主でない人の金を、株主の出資として扱わないための仕切りが、この科目の役目だ。
Q. 原則は全額が資本金なのに、なぜ半分にできる例外があるのか。 A. 資本金を厚くすることに副作用があるからだ。減らすときの手続が重いことに加えて、 税の扱いが資本金の額で切り替わる場面がある。資本金1,000万円以上で設立すると、 新設法人でも消費税の納税義務が最初の期から生じる。資本金1億円を超えると、 中小企業向けの軽減税率や交際費の特例といった扱いから外れる。 集めた金額が同じでも登記する額を選べるようにしておかないと、 必要以上に重い立場を強いられる会社が出てくる。 かといって全額を準備金にできると資本金が形骸化するので、半分という線が引かれている。
Q. 資本準備金は資本金より格下なのか。貸借対照表ではどこに並ぶのか。 A. 格の上下ではなく蓋の固さの違いだ。純資産の部では 「Ⅰ 株主資本 → 1 資本金 → 2 資本剰余金(資本準備金・その他資本剰余金)→ 3 利益剰余金 → 4 自己株式」の順に並ぶ。 資本金と資本剰余金はどちらも株主が払い込んだ元手から生まれた区分で、 利益剰余金は会社が稼いだ分の区分。この「元手か稼ぎか」という縦の割れ目が、 純資産の部を読むときの背骨になる(s03)。
Q. 別段預金は、貸借対照表では現金預金に含めるのか。 A. 決算日をまたいで残っていれば、現金及び預金として流動資産に表示する。 ただし払込期日が来れば当座預金に振り替わるので、決算日に残っていること自体が珍しい。 残っていたら、資産側の別段預金と純資産側の株式申込証拠金が 同じ金額で対になっていることを確かめれば、処理が途中で切れていないと分かる。
取引先の登記簿謄本や信用調査報告書を見ると、まず目に入るのが資本金の額だ。稟議書にも欄がある。 ただ、この数字が示しているのはこれまでに株主が払い込んだ額のうち、資本金として登記した分であって、 その会社がいま幾ら財産を持っているかではない。
資本金5,000万円の会社でも、その後に累積の赤字が5,500万円溜まっていれば純資産はマイナス、 つまり債務超過になる。逆に資本金300万円でも、20年かけて利益剰余金を2億円積んだ会社は堅い。 資本金だけで規模を測ると、この2社の順番を取り違える。 見るべきは純資産の部の合計と、そこに占める利益剰余金の割合になる。 利益剰余金が厚い会社は、外から入れてもらった金ではなく自分で稼いだ金で立っている。
もう1つ、増資の直後は自己資本比率が跳ね上がる点も押さえておきたい。 みずほ食品は4,000,000円の増資で自己資本が増えるが、同時に18,000,000円を借りるので、 総資産に対する自己資本の比率はむしろ下がる。 増資の数字だけを見て「財務が改善した」と読むと、隣で膨らんだ借入を見落とす。
で、幹の話に戻ると、資本金は「集めた額の記録」であって「いま持っている額」ではない。 だからこそ会社法は、その記録を勝手に減らせないように蓋をしている。
第2工場の資金を、増資ではなく大垣中央銀行からの追加借入4,000,000円で賄っても、 入ってくる現金は同じだ。変わるのは貸借対照表の右側のどこに乗るかで、 借入なら借入金という負債、増資なら資本金と資本準備金という純資産になる。
違いは3つ。第1に返済義務で、借入は期日に返すが出資は返さない。 第2に対価の性質で、借入の対価である支払利息は費用として損益計算書に乗り、 その分だけ利益が減って税金も減る。出資の対価である配当は利益が出たあとの分配なので 費用にならず、税金は減らない(s02)。 第3に発言権で、貸した人は経営に口を出せないが、株を買った人は議決権を持つ。
同じ「他人から資金を調達する」でも、返す約束をするか、会社の一部を渡すかで 帳簿の位置もその後に起きることも別物になる。 借りているのに資産に載せるリース取引(第6章)も、 突き詰めればこの「負債か純資産か」の線引きの話だ。
で、幹の話に戻ると、増資で入ってきた4,000,000円が純資産の側に乗るのは、 それが返さなくてよい金だからにほかならない。だからこそ外に出すときのルールが細かい。
flowchart TD
A[募集株式の発行を決めた] --> B[申込み・申込証拠金を別段預金へ]
B --> C{払込期日}
C --> D[株式申込証拠金を振り替える]
D --> E{資本金にする額を選ぶ}
E -- 指示なし --> F[全額が資本金]
E -- 最低額の指示 --> G[2分の1が資本金<br/>残りは資本準備金]
G --> H[配当の原資にできない<br/>boki2-ch10-s02]
D --> I[別段預金から当座預金へ]
A --> J[株式交付費<br/>営業外費用]
F --> K[純資産の部に並ぶ<br/>boki2-ch10-s03]
G --> K
L[3級の設立時<br/>boki3-ch09-s01] -.同じ形.-> D
2028年6月26日、みずほ食品の定時株主総会は工場の事務所で30分で終わった。 議題は2期目の決算の承認と、剰余金の配当。 社長が「今期は少し出す」と言い、繰越利益剰余金2,000,000円のうち600,000円を配ることが決まった。 七海はメモを取り、席に戻って仕訳を書こうとして、また手が止まった。
税理士から渡された議事録の案には「利益準備金として60,000円を積み立てる」という一行が付いている。 株主に配るのは600,000円なのに、繰越利益剰余金からは660,000円が減る。 差額の60,000円は誰にも渡っていない。会社の中に残っているのに、 なぜ繰越利益剰余金という箱から出して、利益準備金という別の箱に移すのか。
【要請】 移す理由は、s01で見た債権者保護の続きにある。
配当に回せない分として資本金と準備金が線を引いていたが、資本金は増資でもしないかぎり増えない。
一方で利益は毎期積み上がり、株主はそれを配当として持ち出せる。
放っておくと、会社が稼いだ分はすべて外へ出ていき、
債権者の担保になる部分は設立時の資本金のままという会社ができあがる。
そこで会社法は、配当をするたびに配当額の10分の1を準備金として積み立てさせる。 配るなら1割は外に出せない側へ回しなさい、という仕組みだ。 みずほ食品が600,000円を配るなら60,000円。 株主から見れば取り分が減るが、会社に金が残るので貸している側は少し安心できる。
【必然】 ただし、この積立てが永久に続くと不合理になる。
資本金3,000,000円の会社が、100年配当を続けて準備金を数億円積む必要はない。
だから上限があり、資本準備金と利益準備金の合計が資本金の4分の1に達したら、
そこから先は積み立てなくてよい。
守るべき線が資本金という基準から決まっている以上、上限もその資本金を基準に置くのは筋が通っている。
覚え方の取っ掛かりは「配ったら1割を残す。ただし資本金の4分の1まで」。 10分の1は毎回の話、4分の1は累計の話で、分母が指しているものが違う。
① 2027年6月(2期目の総会)— 初めての配当
1期目の利益800,000円が繰越利益剰余金に載っていた。 そこから300,000円を配当し、10分の1の30,000円を利益準備金に積み立てた。 上限は 3,000,000 × 1/4 = 750,000円で、それまでの準備金はゼロだったので余裕がある。 繰越利益剰余金は 800,000 − 330,000 = 470,000円になった。 2期目の当期純利益は1,530,000円だったので、 3期目の期首の繰越利益剰余金は 470,000 + 1,530,000 = 2,000,000円になる。
② 2028年6月26日(3期目の総会)— この節の本番
配当は600,000円。積み立てる利益準備金を2つの数字で挟んで決める。
60,000円は720,000円の枠に収まるので、そのまま60,000円を積み立てる。 繰越利益剰余金の減少額は 600,000 + 60,000 = 660,000円。 残高は 2,000,000 − 660,000 = 1,340,000円になる。
配当金は総会の日にすぐ払うわけではない。株主が確定して振込の準備ができるまで数日かかるので、 総会の日はいったん未払配当金という負債で立て、振り込んだ日に消す。 ここは3級の未払金とまったく同じ動きになる。
③ 増資のあと — 上限が効いてくる
9月1日の増資で資本金は5,000,000円、資本準備金は2,000,000円になった。 3期目末の準備金の状態を、上限の式に入れてみる。
すでに上限を超えている。したがって4期目の総会で繰越利益剰余金から配当しても、 利益準備金は1円も積み立てない。配当額が1,000,000円でも同じで、 繰越利益剰余金からは配当額と同じ1,000,000円だけが減る。 増資で資本準備金を2,000,000円積んだことが、その後の積立て義務を丸ごと消してしまった形になる。
surplus の訳で、「資本金を超えて会社に残っている分」を指す。
資本準備金や資本金を減らしたときの差額、自己株式を処分したときの差益などが入る。決算書を見るとき、配当の額そのものより当期純利益のうち何割を配ったかという比率が効く。 これを配当性向という。みずほ食品の3期目は当期純利益800,000円に対して配当600,000円なので、 配当性向は 600,000 ÷ 800,000 = 75%。かなり高い。
高い配当性向が続く会社は稼いだ分が社内に残らない。利益剰余金が積み上がらないので、 自己資本は増資でもしないかぎり厚くならず、設備更新のたびに借入に頼ることになる。 「毎期利益は出ているのに自己資本比率が上がらない」会社に出会ったら、 配当と役員報酬のどちらかで抜けていることが多い。株主構成が同族なら、この2つは実質同じ財布になる。
逆に、赤字なのに配当を出している会社は要注意になる。 配当できるのは分配可能額の範囲内なので、過去に積んだ利益剰余金を取り崩している。 決算書を3期並べて利益剰余金の残高が減り続けていないかを見ると、その傾向がすぐに出る。
準備金の積立ては、この持ち出しに対する最低限のブレーキになっている。
で、幹の話に戻ると、10分の1という数字は株主の取り分を削るためではなく、 会社に貸している側の取り分を守るために置かれている。 660,000円減って600,000円しか出ていかないのは、その差だけ会社が守られたということだ。
積立額の決め方を、2028年6月26日の総会で1回通す。
一般化すると、積立額は **min(配当額 × 10分の1、資本金 × 4分の1 − 準備金合計)**で、 この値がマイナスになるときは積立てゼロと読む。 財源がその他資本剰余金なら、 同じ式で計算して積立て先だけ資本準備金に変える。 配当の財源が両方にまたがるときは財源ごとに分けて計算する。 財源と積立て先は必ず同じ側、と押さえておけば取り違えない。
利益剰余金からの配当(2028年6月26日の総会)
6/26 (借) 繰越利益剰余金 660,000 (貸) 未払配当金 600,000
(貸) 利益準備金 60,000
6/30 (借) 未払配当金 600,000 (貸) 当座預金 600,000
資本準備金の取崩し(4期目・臨時株主総会)
(借) 資本準備金 1,200,000 (貸) その他資本剰余金 1,200,000
その他資本剰余金からの配当(4期目)
(借) その他資本剰余金 1,100,000 (貸) 未払配当金 1,000,000
(貸) 資本準備金 100,000
対抗案1:準備金の積立てをやめ、配当額をそのまま繰越利益剰余金から引く
計算が1段減って楽になる。壊れるのは会社に残る自己資本だ。 みずほ食品が毎期800,000円稼いで600,000円を配る形を10年続けたとする。 積立てがなければ繰越利益剰余金には毎期200,000円しか残らず、10年で2,000,000円。準備金はゼロのままだ。 積立てがあれば毎期の残りは140,000円だが、別に利益準備金が60,000円ずつ積み上がる。 10年で繰越利益剰余金1,400,000円+利益準備金600,000円=2,000,000円。
自己資本の合計は同じで、ここまでは差がない。差が出るのは配れる額のほうだ。 積立てがない世界では、翌年に社長が「今年は全部配る」と言えば2,000,000円を配れる。 積立てがある世界では利益準備金600,000円は配れないので、配れるのは1,400,000円まで。 600,000円が会社に釘付けになっている。この600,000円が、 大垣中央銀行が18,000,000円を貸すときに見ている担保の一部になっている。
対抗案2:配当を「支払配当金」という費用にして、損益計算書に載せる
支払利息が費用なのだから配当も費用でよさそうに見える。 だが配当を費用にすると当期純利益が別物になる。 みずほ食品の3期目は当期純利益800,000円だが、配当600,000円を費用に入れれば200,000円。 銀行はこの200,000円を見て「稼ぐ力が落ちた」と読む。実際には稼ぐ力は何も変わっていない。
しかも配当の財源は当期の利益とは限らない。3期目に配った600,000円は、 1期目と2期目に稼いだ利益の残りが原資だ。 3期目に稼いだ金ではないものを、3期目の費用にすることになる。 翌期に赤字でも過去の剰余金から配当できるので、 費用扱いだと「赤字の年に費用が増えて赤字が膨らむ」というおかしな動きも起きる。 配当は成果を生むためのコストではなく成果そのものの分け前なので、 損益計算書ではなく純資産の内訳が動く話として処理される。
Q. 配当できる額は、繰越利益剰余金の残高そのものと考えてよいのか。 A. おおむねそうだが、正確には分配可能額という別の計算がある。 2級の計算問題で剰余金の範囲を超える出題はほとんどないので、押さえるべき骨格は 資本金と準備金は配れない・剰余金は配れるという線引きのほうだ。 なお、配当できる額があることと払う現金があることは別の話になる。 剰余金が2,000,000円あっても当座預金が300,000円しかなければ600,000円の配当は実行できない。 剰余金は帳簿上の枠であって、現金の袋ではない。
Q. 積立ての上限に達している会社は、配当し放題になるのか。 A. 積立ての義務がなくなるだけで、配れる額が増えるわけではない。 配れる上限はあくまで剰余金の残高で決まる。 上限に達するということは、すでに資本金の4分の1に相当する額が 配当できない形で会社に固定されている状態なので、 債権者保護という目的はその時点で果たされている、という理屈になる。
Q. 期の途中で配当することはできるのか。 A. できる。取締役会設置会社であれば、定款に定めておくことで 1事業年度に1回だけ取締役会の決議で中間配当ができる。 処理は定時株主総会の配当とまったく同じで、配当額の10分の1を上限の範囲内で積み立てる。 決議した機関が株主総会か取締役会かで金額の計算が変わることはない。
配当は「配り当てる」と書く。英語の dividend はラテン語 dividendum=「分けられるべきもの」で、
こちらも意味は同じところにある。分けるという動詞が残っているのは、配当がもともと
事業をたたんで残ったものを山分けする行為だったからだ。
大航海時代の初期、香辛料を買い付けに行く船への出資は1回の航海ごとに集められた。 船が無事に帰ってきたら積荷と船そのものを売り払い、 出資者に元手も儲けもまとめて返して、その会社は解散する。次の航海はまた一から集め直す。 このやり方だと儲けを次の航海に回せないし、そもそも「毎期の利益」という概念が要らない。
これを変えたのが、1602年に設立されたオランダ東インド会社だとされる。 出資を長期間払い戻さない仕組みにしたことで、会社が航海をまたいで続くようになった。 会社が続く前提になると、財産を全部売り払って山分けするわけにいかない。 そこで、元手には手を付けず、稼いだ分の一部だけを配るという形が要るようになった。
で、幹の話に戻ると、純資産の部が資本剰余金と利益剰余金に割れているのも、 配当のときに財源をどちらから出したかを問うのも、 会社が解散せずに続くという前提から出てきた仕切りにほかならない。
flowchart TD
A[株主総会で配当を決議] --> B{財源はどちらの剰余金か}
B -- 繰越利益剰余金 --> C[利益準備金を積む]
B -- その他資本剰余金 --> D[資本準備金を積む]
C --> E{配当額の10分の1 と<br/>資本金の4分の1までの残り枠<br/>小さいほう}
D --> E
E --> F[剰余金の減少額<br/>=配当額+積立額]
F --> G[未払配当金<br/>負債]
G --> H[支払日に当座預金へ]
F --> I[株主資本等変動計算書の<br/>剰余金の配当の行<br/>boki2-ch10-s03]
J[3級の配当と利益準備金<br/>boki3-ch09-s01] -.同じ形.-> A
K[増資で資本準備金が増える<br/>boki2-ch10-s01] -.上限に効く.-> E
3期目の決算作業が終わって、七海は貸借対照表と損益計算書を机に並べた。 当期純利益は800,000円。1期目と同じ額だが、中身はまるで違う1年だった。 そこへ税理士が来て「もう1枚要ります」と言う。株主資本等変動計算書というらしい。 七海は素直に聞き返した。純資産の金額は貸借対照表に、儲けは損益計算書に書いてある。 これ以上、何を書くことがあるのか。
答えは、貸借対照表を2期分並べても分からないことにある。 2期目末の純資産は5,030,000円、3期目末は9,290,000円。差は4,260,000円で、増えたことは分かる。 だが損益計算書に載っている当期純利益は800,000円しかない。 残りの3,460,000円はどこから来たのか。この紙だけでは説明がつかない。
【必然】 純資産が増える経路は1本ではない。3期目のみずほ食品では4本あった。
増資で4,000,000円入り、配当で600,000円出て、稼ぎで800,000円増え、
持ち合い株の値上がりで60,000円増えた。
足すと 4,000,000 − 600,000 + 800,000 + 60,000 = 4,260,000円で、確かに合う。
このうち損益計算書を通ったのは800,000円だけで、残りの3本は通っていない。
損益計算書は純資産の増減の一部しか説明していないのだから、
残りを説明する紙が別に要る、というのは避けようのない話になる。
【要請】 説明の形式も目的から決まる。
知りたいのは「どの箱が、どの理由で、いくら動いたか」なので、
縦に理由、横に純資産の箱を並べた表になる。
上の行に当期首残高、真ん中に変動事由ごとの行、下に当期末残高。
当期末残高の行は貸借対照表の純資産の部とぴったり一致し、
当期純利益の行は損益計算書の一番下と一致する。
この表は、2枚の財務諸表をつなぐ蝶番として置かれている。
覚え方の取っ掛かりは「B/Sの純資産の部を、横に倒して時間軸を足した表」。
単位は円。空欄は動きがなかったことを表す。
| 資本金 | 資本準備金 | 利益準備金 | 繰越利益剰余金 | 株主資本合計 | その他有価証券評価差額金 | 純資産合計 | |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 当期首残高 | 3,000,000 | 0 | 30,000 | 2,000,000 | 5,030,000 | 0 | 5,030,000 |
| 新株の発行 | 2,000,000 | 2,000,000 | 4,000,000 | 4,000,000 | |||
| 剰余金の配当 | 60,000 | △660,000 | △600,000 | △600,000 | |||
| 当期純利益 | 800,000 | 800,000 | 800,000 | ||||
| 株主資本以外の項目の当期変動額(純額) | 60,000 | 60,000 | |||||
| 当期変動額合計 | 2,000,000 | 2,000,000 | 60,000 | 140,000 | 4,200,000 | 60,000 | 4,260,000 |
| 当期末残高 | 5,000,000 | 2,000,000 | 90,000 | 2,140,000 | 9,230,000 | 60,000 | 9,290,000 |
読み方は3方向ある。
縦に読む。 繰越利益剰余金の列は 2,000,000 − 660,000 + 800,000 = 2,140,000円。 1年で800,000円稼いだのに、手元に残ったのは140,000円という事実がここに出ている。
横に読む。 「剰余金の配当」の行は、利益準備金に+60,000、繰越利益剰余金に△660,000。 足すと△600,000で、これが株主資本合計の減少額になる。 s02で見た「660,000円減るのに出ていくのは600,000円」が、1行の中で目に見える。
下の2行を確かめる。 当期末残高 9,230,000 + 60,000 = 9,290,000円が、 貸借対照表の純資産の部の合計と一致する。 また当期純利益の行の800,000円が、損益計算書の当期純利益と一致する。 この2つが合わなければ、どこかで拾い漏らしている。
貸借対照表の純資産の部(3期目末)は、この表の一番下の行を縦に置き直したものになる。
純資産の部
Ⅰ 株主資本
1 資本金 5,000,000
2 資本剰余金
資本準備金 2,000,000 2,000,000
3 利益剰余金
利益準備金 90,000
その他利益剰余金
繰越利益剰余金 2,140,000 2,230,000
----------
株主資本合計 9,230,000
Ⅱ 評価・換算差額等
その他有価証券評価差額金 60,000
----------
純資産合計 9,290,000
【由来】 名前が「株主資本等変動計算書」で「等」が入っているのは、
表がカバーする範囲が株主資本だけではないからだ。
Ⅰの株主資本に加えて、Ⅱの評価・換算差額等まで含めて変動を示すので、その「等」が名前に残っている。
一文字の違いに見えるが、この章で最後に出てくる60,000円の行が、まさにその「等」の部分にあたる。
statement of changes in net assets にあたる。表の右から2列目にある「その他有価証券評価差額金 60,000」は、 大垣屋商店の株400株が600,000円から660,000円に値上がりした分だ。 処理そのものは第4章で見たとおりで、 時価には直すが、差額は損益計算書に入れず純資産に直接載せる。
この章の表に置いてみると、その扱いの意味がはっきりする。 株主資本の4列は、すべて現金の裏付けがある動きだ。 増資の4,000,000円は本当に入ってきたし、配当の600,000円は本当に出ていった。 当期純利益800,000円も、掛けや在庫のズレはあるが、いずれ現金になる取引の積み重ねになっている。 ところが評価差額金の60,000円は、株を売っていないので現金が1円も動いていない。 明日株価が戻れば消える金額でもある。
性質の違うものを株主資本に混ぜると、配当できる額の計算が狂う。 税効果会計を適用する場合は、この60,000円から 将来の税金相当額を繰延税金負債として抜き、 残りだけを純資産に載せる(第9章)。 ここでも「まだ自分の物ではない分は外す」という発想が働いている。
で、幹の話に戻ると、この1行をわざわざ 「株主資本以外の項目の当期変動額(純額)」という別扱いで書くのは、 現金の裏付けがない増え方をほかと混ぜないためだ。
みずほ食品の表を、白紙から埋める順に追う。
一般化すると、当期首残高 + 当期変動額 = 当期末残高が全列で成り立ち、 株主資本は事由ごとに分けて書き、株主資本以外は純額で1行にまとめる。 「株主資本は細かく、それ以外はまとめて」と覚えておけば書き分けられる。
この表そのものに仕訳はないが、各行の裏には必ず仕訳がある。 表の行と仕訳を突き合わせると、どこから数字が来ているかが見える。
新株の発行 の行
9/ 1 (借) 株式申込証拠金 4,000,000 (貸) 資 本 金 2,000,000
(貸) 資本準備金 2,000,000
剰余金の配当 の行
6/26 (借) 繰越利益剰余金 660,000 (貸) 未払配当金 600,000
(貸) 利益準備金 60,000
当期純利益 の行
3/31 (借) 損 益 800,000 (貸) 繰越利益剰余金 800,000
株主資本以外の項目 の行
3/31 (借) その他有価証券 60,000 (貸) その他有価証券評価差額金 60,000
対抗案1:株主資本等変動計算書を作らず、貸借対照表を2期分並べて済ませる
紙が1枚減る。壊れるのは増えた理由が消えることだ。 2期目末の純資産5,030,000円と3期目末の9,290,000円を並べると、増加額は4,260,000円。 銀行の担当者がこれを見て「1年で4,260,000円も自己資本が増えた、たいへん好調だ」と読んだとする。 実際に稼いだのは800,000円で、そのうち600,000円は配当で外へ出ている。 会社に残った稼ぎは140,000円しかない。4,260,000円のうち4,000,000円は、 社長の弟と大垣屋商店と従業員が新しく出してくれた金で、稼ぎではない。
この読み違いは与信では致命傷になる。増資で自己資本を厚くした会社と、 利益を積み上げて厚くした会社では、翌年以降の見通しがまるで違う。 前者は同じことをもう一度やるのに新しい出資者を探さなければならないが、後者は放っておいても増える。 同じ4,260,000円でも中身が別物なので、理由の内訳を出す紙が要るという結論は動かない。
対抗案2:その他有価証券評価差額金も損益計算書を通し、繰越利益剰余金に入れる
列が1つ減って表が簡単になる。壊れるのは配当できる額のほうだ。 評価差額60,000円を当期純利益に入れれば当期純利益は860,000円、 繰越利益剰余金の当期末残高は 2,140,000 + 60,000 = 2,200,000円になる。 翌期の総会では、この2,200,000円を上限として配当を決められる。
ところが、その60,000円は大垣屋商店の株を売っていない以上、現金としては1円も存在していない。 持ち合い株なので、売れば取引関係が変わるから実際には売れない。 売れない株の含み益を配当の原資に数えていることになる。 仮に2,200,000円を全額配当すれば、会社は60,000円分だけ入ってきていない金を株主に渡す。 株価が翌期に元へ戻れば、その60,000円は最初から無かったことになり、 配当した分だけ会社の財産が減ったまま帳尻が合わなくなる。だから区分を分け、株主資本の外に置いている。
Q. 当期純利益が損益計算書と株主資本等変動計算書の両方に出てくるのは、二重計上ではないのか。 A. 二重計上ではない。損益計算書は800,000円を計算して出す表で、 株主資本等変動計算書はその800,000円がどこへ行ったかを書く表だ。 決算で「(借)損益 800,000/(貸)繰越利益剰余金 800,000」という振替を1本入れており、 損益計算書はこの仕訳の借方側、変動計算書は貸方側を見ている。 同じ1本の仕訳を、出口と入口の両方から書いているにすぎない。
Q. 株主資本以外だけ「純額」でよいのはなぜか。株主資本と扱いが違うのが気持ち悪い。 A. 見せたい情報の細かさが違うからだ。 株主資本は、株主から入った金・株主へ出た金・会社が稼いだ金が混ざっているので、 どの理由でいくら動いたかを分けないと配当や増資の実態が読めない。 一方、評価・換算差額等はどれも「まだ確定していない時価の動き」で、 分けて見せても読み手にできることが増えない。 純額さえ分かれば、純資産のうち現金の裏付けがない部分がいくらか、という肝心のことは伝わる。
Q. 純資産が4,260,000円増えたなら、現金も同じくらい増えているはずでは。 A. そうはならない。増加のうち現金が本当に入ってきたのは増資の4,000,000円だけで、 配当で600,000円出ている。当期純利益800,000円には売掛金の増加や 減価償却が混ざっているので、現金の増え方とは一致しない。 評価差額金の60,000円に至っては現金がまったく動いていない。 純資産は財産と借金の差額であって、現金の残高ではない。 3級の貸借対照表で見た「資産 − 負債 = 純資産」の式に戻れば、 純資産が増える理由は現金以外にいくらでもあると分かる。
決算書一式を取り寄せたとき、この表を1枚見ておくと、 決算書2期分を並べて比較する手間がかなり省ける。見るのは3行だけでいい。
1行目は「新株の発行」。ここに金額が立っている会社は、その期に外から資本を入れている。 誰が引き受けたのかを聞くと、親会社なのか、取引金融機関なのか、社長個人なのかで意味が変わる。 社長個人が入れている場合、実質は役員借入金の資本振替であることも多い。
2行目は「剰余金の配当」。当期純利益と見比べれば配当性向が出る。 稼ぎの大半を配っている同族会社は、その分だけ自己資本が育たない。
3行目は「当期純利益」。ここがマイナスの期が続いていれば、 繰越利益剰余金の当期末残高がじりじり削られていく。 残高がマイナスに転じた時点で、その会社は累積の赤字を抱えていることになる。 資本金の額は登記されたまま動かないので、この表を見ないかぎり気づきにくい。
で、幹の話に戻ると、この表は「純資産がいくらか」ではなく 「純資産がなぜその額になったか」を書いた紙だ。 理由が分かるからこそ、翌期に同じことが起きるかどうかを考えられる。
flowchart TD A[当期首残高<br/>前期末B/Sから写す] --> B[株主資本の変動] A --> C[株主資本以外の変動] B --> D[新株の発行<br/>boki2-ch10-s01] B --> E[剰余金の配当<br/>boki2-ch10-s02] B --> F[当期純利益<br/>損益振替] C --> G[その他有価証券評価差額金<br/>純額で1行<br/>boki2-ch04-s03] D --> H[当期変動額合計] E --> H F --> H G --> H H --> I[当期末残高] I --> J[貸借対照表の純資産の部と一致<br/>boki2-ch01-s02] F --> K[損益計算書の当期純利益と一致<br/>boki2-ch01-s02] G -.税効果で分解.-> L[繰延税金負債<br/>boki2-ch09-s02]
正解: 2
正解: 1
正解: 2
正解: 1
正解: 3