大垣市の西のはずれ、揖斐川の堤防沿いに「みずほ食品株式会社」という小さな製麺所がある。 社長は水野久司(56)。長年よその製麺所で職人をやっていて、2026年4月1日に自分の会社を立てた。 経理は娘の七海(28)。簿記の勉強を始めたばかりで、この本はだいたい七海がつまずいた順に進む。
この章では、まだ仕訳も勘定科目も出てこない。出てくるのは「なぜ、たった1回の取引を2か所に書くのか」だけ。 ここが腹落ちしていないと、以降の全部が丸暗記になる。逆にここが通れば、 3級の8割は「この形をどの科目に当てはめるか」に変わる。
複式簿記が世に広まったきっかけは、1494年にヴェネツィアで出版された数学書『スムマ』だとされる。 著者はフランチェスコ会の修道士ルカ・パチョーリ。彼が複式簿記を発明したわけではなく、 当時の商人がすでに使っていた「ヴェネツィア式」の記帳法を、初めて体系立てて活字にした人だ。 だから彼は「簿記の父」ではあっても「複式簿記の祖」ではない、と本人も書いている。
その記帳法では、自分に金を負っている相手(debitore=借り手)を左に、
自分が預かっている相手(creditore=貸し手)を右に並べた。
debit はラテン語 debere(負う)、credit は credere(信じる・預ける)から来ている。
つまり左右の名前は、もともと相手が誰かを表していた。
これを日本語に持ち込んだのが福澤諭吉で、1873年(明治6年)の『帳合之法』で
debit を「借方」、credit を「貸方」と訳した。福澤は当初、日本人には分かりにくいと考えて
「出」「入」と訳すことも検討したが、貿易が盛んになれば西洋の帳簿と食い違って困る、
という理由で西洋にならった、という説明が残っている。
つまり「借方=借りている」という日本語の直感が通じないのは、訳語のせいで、あなたの理解力のせいではない。
だから借方・貸方は意味で考えず、位置で覚えたほうが早い。 左が借方、資産と費用の定位置。それだけ持っていれば、この先の全章で困らない。
創業して5日目、水野社長は中古の製麺機を1,200,000円で買った。現金で払った。 その晩、七海が通帳とにらめっこして青くなる。「お父さん、うち今月120万の赤字だよ」。
これがおかしい、という感覚から複式簿記は生まれている。 120万円は消えていない。金庫から出て、工場の中に「製麺機」という形で立っている。 現金という財産が、機械という財産に姿を変えただけだ。 ところが「お金の出入りだけ」を記録する帳面(単式簿記)では、出ていった120万円しか見えない。 財産が減ったのか、形が変わっただけなのかを、帳面が区別できない。
だから複式簿記は、1回の取引を必ず原因と結果の2面で書く。 「現金が1,200,000円減った」と「備品が1,200,000円増えた」を、同じ1本の記録の左右に並べる。 左を借方(かりかた)、右を貸方(かしかた)と呼ぶ。
【必然】 貸方の合計と借方の合計が必ず一致するのは、会計の作法だからではない。
同じ1つの出来事を、原因の側と結果の側から2回書いているからで、
同じ出来事の金額が左右で食い違うことは起こりえない。ここだけは論理で閉じている。
覚え方の取っ掛かりは「1つの出来事に、必ず出どころと行き先がある」。
120万円には出どころ(金庫)と行き先(機械)がある。両方書くから両方の合計が合う。
【由来】 では、なぜ左を「借方」と呼ぶのか。これは論理では出てこない。歴史の産物なので、
このあとの小話(ヴェネツィアの記帳と、福澤諭吉の訳)で回収する。
先に結論だけ言うと、借方・貸方は意味で考えず、位置で覚えたほうが早い。
金融機関が取引先から決算書を受け取ったとき、最初に見るのは「現金がいくら増えたか」ではない。 現金が減っていても、その分だけ機械や建物が増えているなら、それは投資であって損失ではない。 逆に現金が増えていても、中身が全部借入なら財産は増えていない。
小規模事業者の中には、いまも通帳の出入りだけで商売を回している人がいる。 その状態で融資を申し込むと、「儲かっているのか、借りて回しているのか」が資料から読み取れず、 審査する側は判断材料を作るところから始めることになる。複式で書かれた帳面が価値を持つのは、 まさにこの「形が変わっただけ/本当に減った」の区別が、他人にも読める形で残るからだ。
で、幹の話に戻ると、2か所に書くのは几帳面さの問題ではなく、 財産の増減と、財産の形の変化を、他人が読み分けられるようにするためだと押さえておけばいい。
みずほ食品の最初の3件を、単式と複式で並べてみる。
| 日付 | 取引 | 単式(現金出納帳だけ) | 複式(2面で書く) |
|---|---|---|---|
| 4/1 | 社長が3,000,000円を出資して会社設立 | 現金 +3,000,000 | 現金 +3,000,000 / 資本金 +3,000,000 |
| 4/5 | 製麺機 1,200,000円を現金購入 | 現金 −1,200,000 | 備品 +1,200,000 / 現金 −1,200,000 |
| 4/8 | 大垣中央銀行から 2,000,000円を借入(現金) | 現金 +2,000,000 | 現金 +2,000,000 / 借入金 +2,000,000 |
単式の列だけを見ると、手元は 3,000,000 − 1,200,000 + 2,000,000 = 3,800,000円。 数字は合っている。合っているのに、この列からは次のことがまったく読めない。
複式の列なら、この3つが全部残る。 財産(現金3,800,000+備品1,200,000=5,000,000)= 借金2,000,000 + 元手3,000,000。 両側が5,000,000で釣り合う。これが後で出てくる貸借対照表そのものになる。
debit の訳語。debit はラテン語 debere(負う)から来ていて、
中世イタリアの帳簿では「こちらに負債を負っている人=借り手(debitore)」を左に並べた。
日本語には福澤諭吉が『帳合之法』(1873年)で「借方」と当てた。詳しくは小話。credit の訳語。credit はラテン語 credere(信じる・預ける)から。
「こちらが信用して貸している相手=貸し手(creditore)」を右に並べた記帳習慣に由来する。まず 4/5 の製麺機で1回通す。
一般化すると、複式簿記の1行は必ず 「(増えた側の科目・金額)|(減った側または調達元の科目・金額)」という形をとり、 左右の合計が一致する。この形を仕訳という。組み立て方の細かい話は第2章で扱う。
4/1 (借) 現 金 3,000,000 (貸) 資 本 金 3,000,000
4/5 (借) 備 品 1,200,000 (貸) 現 金 1,200,000
4/8 (借) 現 金 2,000,000 (貸) 借 入 金 2,000,000
3行とも、**左は「何になったか」、右は「どこから来たか」**で揃っている。これが左右を見分ける最初の足場になる。
七海が最初に思いつくやり方は2つある。どちらも実際に途中まで動くが、必ず壊れる。
対抗案1:現金の出入りだけ書く(単式簿記)
上の表のとおり、4/8 時点の手元は 3,800,000円。これだけを見て「創業1週間で80万円増えた、順調だ」と読める。 だが実態は、2,000,000円を借りたから増えているだけで、自前の元手 3,000,000円は すでに 1,200,000円が機械に変わっている。単式では借りた金と稼いだ金が同じ「+」に見える。 この帳面のまま1年走ると、決算で「利益はいくらか」に答えられない。答えられないので、 納税額も、銀行に出す決算書も作れない。
対抗案2:科目ごとにメモを分ける(現金メモ・機械メモ・借金メモ)
一見これで足りそうに見える。実際、財産の一覧は作れる。壊れるのは書き漏らしを検出できない点だ。 4/5 に「現金メモに −1,200,000」と書いて、「機械メモに +1,200,000」と書き忘れたとする。 単独のメモはどれも辻褄が合っているので、間違いに気づく手がかりがない。 複式なら、同じ1行の左右が 1,200,000 と 0 になり、合計が合わなくなる。 貸借の一致は、記録の正しさを自動で検算する仕組みでもある(これを形にしたのが試算表)。
Q. 左右の合計が一致するなら、片方だけ書いて2倍すればよいのでは? A. 一致するのは金額だけで、科目が違う。4/5 の借方は備品、貸方は現金で、 金額は同じでも意味は正反対(増えた側と減った側)。片側だけでは、 現金が何に変わったのかが残らない。合計が一致するのは結果であって、目的ではない。
Q. 「借方=左」を毎回思い出せない。何かいい手はないか。 A. ひらがなにして書き順で覚える手がよく使われる。「かりかた」の「り」は左に払い、 「かしかた」の「し」は右に払う、という覚え方。 ※覚え方としての語呂であって、語源上の理由ではない(本当の理由は小話のとおり歴史的な経緯)。
Q. 3つ以上の科目が絡む取引はどうなるのか。 A. 左右それぞれ何行あってもよく、左の合計=右の合計であればいい。 たとえば 500,000円の商品を、現金 200,000円と掛け 300,000円で売れば、 借方が現金 200,000/売掛金 300,000 の2行、貸方が売上 500,000 の1行になる。 このような形を諸口(しょくち)と呼ぶ。第4章で実際に出てくる。
flowchart LR A[取引が起きる] --> B[2面に分解する<br/>原因と結果] B --> C[仕訳<br/>boki3-ch02-s01] C --> D[勘定口座へ転記<br/>boki3-ch02-s02] D --> E[試算表で検算<br/>boki3-ch10-s01] E --> F[決算・財務諸表<br/>boki3-ch12-s04] B -.貸借一致.-> E
前の節で、みずほ食品には「現金」「備品」「借入金」「資本金」という4つの名前が出てきた。 このまま取引が増えると名前は数十個になる。七海が次に詰まったのはここで、 「この科目は左か右か」を1つずつ覚えようとして、40個目くらいで破綻した。
1つずつ覚える必要はない。科目は5種類の箱のどれかに必ず入り、箱ごとに定位置が決まっている。 覚えるのは40個ではなく5個でいい。
5つの箱は、次の2つの問いで機械的に決まる。
【必然】 純資産が「資産 − 負債」で決まるのは、定義上そうなるという以上の意味がある。
会社の財産のうち、他人に返す分(負債)を先に差し引いた残りが、出資者の取り分になる。
返す義務のある人が先、残りが出資者という順序は、会社が解散したときの実際の分配順そのものだ。
覚え方の取っ掛かりは「銀行が先、社長が最後」。
【要請】 収益と費用をわざわざ資産・負債と別の箱にするのは、
「1年でいくら儲かったか」を期間で区切って比較したいからだ。
財産の残高だけを見ていると、前期と当期の比較ができない。
利害関係者(銀行・税務署・株主)に「この1年の成績」を報告するために、期間の箱が要る。
古い教科書やベテランの口からは、いまでも「資本の部」という言い方が出てくる。 現在の貸借対照表では「純資産の部」と呼ぶ。呼び名が変わったのは、 出資者の取り分(資本金・剰余金)だけでなく、 出資者の取り分とは言い切れない項目(評価差額や新株予約権など)もそこに入るようになり、 「資本」という言葉では中身を言い表せなくなったため。
3級で扱う範囲では中身が資本金と繰越利益剰余金だけなので、実質「資本=純資産」で困らない。 2級に上がるとその他有価証券評価差額金のように 「損益を通さず純資産に直接乗る」項目が出てきて、この呼び分けが効いてくる。
で、幹の話に戻ると、3級のうちは純資産の箱を「資産から負債を引いた残り、社長の取り分」と 理解しておけば十分で、名前の揺れは2級で回収すればいい。
4月末までに起きたことを、5つの箱に振り分けてみる。
| 科目 | 箱 | 金額 | なぜその箱か |
|---|---|---|---|
| 現金 | 資産 | 2,300,000 | 持っている。使える |
| 売掛金 | 資産 | 400,000 | 大垣屋商店から後で受け取れる権利 |
| 備品(製麺機) | 資産 | 1,200,000 | 持っている。使って稼ぐ |
| 買掛金 | 負債 | 300,000 | 西美濃製粉に後で払う義務 |
| 借入金 | 負債 | 2,000,000 | 大垣中央銀行に返す義務 |
| 資本金 | 純資産 | 3,000,000 | 社長が入れた元手 |
| 売上 | 収益 | 900,000 | 4月に売れた麺の代金 |
| 仕入 | 費用 | 500,000 | 4月に使った小麦粉などの代金 |
| 支払家賃 | 費用 | 200,000 | 4月の工場の家賃 |
検算する。資産 2,300,000 + 400,000 + 1,200,000 = 3,900,000。 負債 300,000 + 2,000,000 = 2,300,000。差し引き 1,600,000 が純資産。 その内訳は、元手 3,000,000 ではなく、元手 3,000,000 に4月の成績を足したもの…… のはずが、合わない。3,000,000 に対して 1,600,000 は少なすぎる。
ここで気づいてほしいのは、上の表がまだ4月末の「途中経過」で、 4月中に現金で払った家賃や仕入がすでに現金を減らしていること。 収益 900,000 − 費用 700,000 = 200,000 の利益が出ているので、 本来の純資産は 3,000,000 + 200,000 = 3,200,000 になるはずだ。 差の 1,600,000 は表に載せていない取引(機械の購入で減った現金など)が原因で、 5つの箱に全部を漏れなく入れて初めて釣り合う。この釣り合いを次の節で正面から扱う。
asset は古フランス語 asez(十分にある)由来で「弁済に足るもの」を指したという説が有力。
どちらも「持っていて役に立つもの」を指している点は共通。liability は liable(責めを負う)から。新しい科目に出会ったときの振り分けは、次の順で聞けば必ず1つに決まる。
例で通す。「受取手数料」。決算日に残らない(もらって終わり)→ 入ってくる側 → 収益 → 増えたら右。 「前払家賃」。決算日に残る(来期ぶんの家賃を先に払った権利)→ 返してもらう側ではなく サービスを受け取る権利として持っている → 資産 → 増えたら左。
4/12 麺を 900,000円で販売、代金は現金 500,000円と掛け 400,000円
(借) 現 金 500,000 (貸) 売 上 900,000
(借) 売 掛 金 400,000
4/20 工場家賃 200,000円を現金で支払い
(借) 支払家賃 200,000 (貸) 現 金 200,000
この「収益・費用は純資産の増減を細かく分けたもの」という見方が、次の節の主役になる。
対抗案1:箱を分けず、全部「財産の増減」で書く
売上も、借入も、出資も、現金が増える点では同じ。だから区別せず1本にする、という発想はありうる。 みずほ食品の4月で試すと、現金の増加は 3,000,000(出資)+2,000,000(借入)+500,000(売上)=5,500,000。 この 5,500,000 を見て「5,500,000円稼いだ」と言えるか。言えない。 2,000,000は返す金、3,000,000は元手で、稼いだのは 900,000円分だけ。 箱を分けないと、返す金・預かった元手・稼いだ金が全部同じ数字に溶ける。
対抗案2:資産・負債・純資産の3箱だけにして、収益・費用は純資産に直接足し引きする
理屈の上ではこれで貸借は合う。実際、収益と費用は最終的に純資産に吸い込まれる(次の節)。 だが、こうすると4月末の純資産 3,200,000 という数字しか残らない。 「売上が900,000で、仕入が500,000で、家賃が200,000だったから200,000残った」という内訳が消える。 翌月に利益が落ちたとき、売れなかったのか、小麦粉が値上がりしたのか、 帳面から原因を追えない。損益計算書という報告書が成立するのは、この5箱目までの分解があるからだ。
Q. 資産が増えたら借方、という定位置はどこから来ているのか。逆でもよかったのでは?
A. 論理的にはどちらでもよく、実際に歴史的な習慣で決まっている(【由来】)。
中世イタリアの商人が、自分に金を借りている相手(債務者)を左のページに、
自分が金を預かっている相手(債権者)を右のページに並べた。
「相手が自分に負っている=自分にとっての財産」が左だったので、資産が左に残った。
論理で導けない部分なので、小話で経緯ごと覚えてしまうのが早い。
Q. 5つの箱に入らない科目が出てきたらどうするのか。 A. 3級・2級の範囲では出てこない。ただし「どの箱か迷う科目」はある。 現金過不足や仮払金は、 中身が決まるまでの一時置き場で、決算までに必ずどれかの箱へ振り替える。 迷う科目は「まだ確定していない印」だと思っておくといい。
Q. 収益が増えると純資産が増える、というのが実感できない。 A. 900,000円の麺を売って現金が入ると、資産が900,000増える。 このとき返す義務(負債)は増えていない。資産だけが増えて負債が増えなければ、 資産 − 負債 = 純資産 は必ず増える。売上は、負債を伴わない資産の増加だと言い換えると通りやすい。
flowchart TD
Z[取引] --> A{決算日に残るか}
A -- 残る --> B{他人に返すか}
A -- 残らない --> C{入る / 出る}
B -- 返す --> F[負債<br/>増えたら貸方]
B -- 返さない --> S[資産<br/>増えたら借方]
B -- 残り --> J[純資産<br/>増えたら貸方]
C -- 入る --> R[収益<br/>増えたら貸方]
C -- 出る --> E[費用<br/>増えたら借方]
R --> J
E --> J
3月31日、みずほ食品の1期目が終わる。七海は2枚の紙を作ることになる。 1枚は「3月31日時点で会社に何があるか」を並べた紙、もう1枚は 「4月1日から3月31日までにいくら儲けたか」を並べた紙。 前者が貸借対照表(B/S)、後者が損益計算書(P/L)。
ここで多くの人が引っかかる。別々の紙なのに、なぜ同じ「当期純利益」が出てくるのか。 偶然でも、片方から書き写しているのでもない。2枚は同じ事実を別の角度から切っているだけで、 一致するのは必然になっている。
【必然】 期首の純資産に、その期に稼いだ分を足したものが期末の純資産になる。
一方で、稼いだ分は収益 − 費用でも計算できる。
同じ「1年で増えた取り分」を、残高の差で測るか、流れの差で測るかの違いしかないので、
両者は必ず一致する。覚え方の取っ掛かりは「貯金通帳の残高の増え方=1年の収入−支出」。
1期目(2026/4/1〜2027/3/31)の結果を、思い切り単純化して置く。
損益計算書(1年間の流れ)
| 費用 | 金額 | 収益 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 仕入 | 7,200,000 | 売上 | 11,500,000 |
| 支払家賃 | 2,400,000 | 受取利息 | 5,000 |
| 減価償却費 | 150,000 | ||
| その他費用 | 955,000 | ||
| 当期純利益 | 800,000 | ||
| 合計 | 11,505,000 | 合計 | 11,505,000 |
貸借対照表(3月31日の一瞬)
| 資産 | 金額 | 負債・純資産 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 現金 | 1,850,000 | 買掛金 | 600,000 |
| 売掛金 | 900,000 | 借入金 | 1,500,000 |
| 商品 | 300,000 | 資本金 | 3,000,000 |
| 備品 | 1,050,000 | 繰越利益剰余金 | 800,000 |
| 合計 | 5,900,000 | 合計 | 5,900,000 |
損益計算書の当期純利益 800,000 と、貸借対照表の繰越利益剰余金 800,000 が一致している。 1期目は期首の剰余金がゼロなので、そのまま同額になる。 2期目以降は「期首の繰越利益剰余金 + 当期純利益 − 配当」が期末残高になる(第9章)。
balance sheet は「釣り合いの表」で、左右が釣り合うことが名前になっている。
日本語は左右の呼び名を、英語は左右が釣り合う性質を名前にした違い。profit and loss statement の語順は益が先、日本語は損が先という違いがあるだけ。2枚が一致することを、自分で検算できるようにしておく。
ただし2期目以降は、期中に増資したり配当を出したりすると純資産が動く。 その場合は 3 から増資分を引き、配当分を足してから比べる。
決算では、収益と費用の残高を損益という箱に集め、差額を繰越利益剰余金へ移す。
3/31 収益を損益へ集める
(借) 売 上 11,500,000 (貸) 損 益 11,505,000
(借) 受取利息 5,000
3/31 費用を損益へ集める
(借) 損 益 10,705,000 (貸) 仕 入 7,200,000
(貸) 支払家賃 2,400,000
(貸) 減価償却費 150,000
(貸) その他費用 955,000
3/31 損益の残り(利益)を純資産へ移す
(借) 損 益 800,000 (貸) 繰越利益剰余金 800,000
融資審査の現場では、まずB/Sを見る、という言い方をよく聞く。理由は単純で、 P/Lの利益は1年ぶんの成績にすぎないが、B/Sには過去の全期間の結果が積み上がっているからだ。 繰越利益剰余金がマイナス(欠損)なら、それは「創業以来の累計で食い潰している」ことを意味する。 1年だけ黒字でも、累計が大きくマイナスなら評価は変わらない。
一方で、その年の返済能力を見るときはP/L側の利益に減価償却費を足し戻した金額を使う。 減価償却費は費用だが現金が出ていかないので、返済に回せる金として扱えるからだ。 みずほ食品なら 800,000 + 150,000 = 950,000 が1年で返済に充てられる目安になる。 借入金 1,500,000 なら、単純計算で1.6年で返せる水準、という読み方をする。
で、幹の話に戻ると、2枚は用途が違うだけで矛盾しない。 B/Sは累計の到達点、P/Lはこの1年の動き、そして両者を繋いでいるのが当期純利益の1行だ。
対抗案1:貸借対照表だけ作る
期首と期末の純資産の差で利益は出るので、計算としては成立する(これが財産法)。 みずほ食品なら 3,800,000 − 3,000,000 = 800,000 で確かに利益は出る。 壊れるのは原因が分からない点。800,000という結果は分かるが、 売上が伸びたのか、家賃を抑えたのか、去年より小麦粉が安かったのかが読めない。 来期の打ち手を決める材料にならない。
対抗案2:損益計算書だけ作る
1年の成績は分かる。だが、期末に会社が何を持っていて、いくら返さなければいけないかが残らない。 利益 800,000 が出ていても、売掛金が 900,000 あって現金が 1,850,000 しかない状態と、 現金が 2,750,000 ある状態では、支払能力がまったく違う。 利益が出ていても現金が尽きれば会社は止まるので、残高の紙は外せない。
Q. 損益計算書の左に「当期純利益」を書くのが気持ち悪い。利益は費用ではないのに。 A. そこに書いてあるのは費用ではなく、左右を釣り合わせるための差額。 収益(右)のほうが大きいので、左に差額を置かないと合計が合わない。 「利益は、収益という右の山からこぼれた分を左で受け止めた数字」と見ると納得しやすい。 損が出た期は逆に右側に当期純損失が並ぶ。
Q. 期中に社長が追加で出資したら、財産法の計算は狂わないか。 A. 狂う。だから財産法は「期末純資産 − 期首純資産 − 増資 + 配当」で調整する。 増資は稼いだ分ではないので、利益から除く必要がある。 逆に言えば、この調整をせずに数字が合わないときは、期中の資本取引を疑うとよい。
Q. 2枚が一致しないとき、どこから探せばよいか。 A. 順序としては、①試算表で借方合計と貸方合計が合っているか、 ②決算整理仕訳を漏れなく入れたか、③損益振替の金額が全科目ぶん揃っているか、の順に見る。 ①で合っていて②③で崩れるなら、原因は決算整理に絞れる。詳しくは第12章。
flowchart LR
subgraph 期中
T[日々の取引] --> S[仕訳] --> G[総勘定元帳]
end
G --> TB[試算表<br/>boki3-ch10-s01]
TB --> ADJ[決算整理<br/>boki3-ch12-s01]
ADJ --> PL[損益計算書]
ADJ --> BS[貸借対照表]
PL -- 当期純利益 --> BS
正解: 3
正解: 2
正解: 1
正解: 4